とりあえず生きたいんだが。
おかしい。
いや、絶対になんかおかしい!
待った。うん。落ち着こう。
僕は転生してドラゴンになった。
おい、ならどうして今、蛇に食われそうになってんの!?
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僕は、一回死んだ。
確かに死んだ……はずだ。
何があったのか?
事故。
自転車で角を曲がったら、そこにはなんと居眠り運転のトラックが!ってな感じで。
まさか、と思ったよ。
走馬灯は見なかった。
まぁ、大した人生なんて歩んでこなかった自覚は確かにある。
でも、その最期は。
確かに。
そう、確かに。
それでも、僕は確かにあの時、死にたくないって。
なぁなぁで、ぬるま湯に浸って、楽に生きようとしてきた僕は、生きる意味も、目的も無く生きていた僕は、確かに、そう思ったんだ。
案外、僕も真っ当な人間だったのかなぁなんて、何かを期待しながらその意識を手放した。
そして、ふと、目覚めてみればそこは見知らぬ土地で。
願っていた病院の天井なんかじゃなくて。
暗い穴の中。
何かのうねりが体を押し出し、気付けばここに落ちた。
ここがどこか?
そんなの僕が聞きたい。
ただ分かるのは、ここは日本じゃない。地球じゃない。
僕を産みだした何かは、気付いたらどこにもいなくて。
そして僕は、ドラゴンだった。
体が動かしにくかった。
違和感はそれからだった。
体が小さい感覚はあった。
慣れない体の器官を感じた。
この時に人間じゃないかもしれない、と思い始めた。
後で思い返せば笑える。
そう思えたの、早すぎないか僕。
さらに、目を開いて気づいた。
まず視界の広さ。
そして、そこから見える人間ではありえない鱗、爪、尻尾。
這って進んで、水たまりに映る自分を見た。
翼があった。
角が生えていた。
しげしげとその体を眺めて、うわ、と。
あ、これドラゴンじゃん、と。
思ったことはいくつかある。
人間に戻れるだろうか?
日本に帰れるだろうか?
やっぱり魔法とか使えちゃうのだろうか?
空とか飛べちゃうのだろうか?
異世界転生で無双とか出来ちゃうのだろうか?
ようやく僕の時代が来たのだろうか?
……楽しい。
面白い!
考えれば考えるほどにこの夢を、いや、現実を受け止めていく僕がいて、そしてふと思った。
自分の最期の願いを。
そうだ。
ただ“生きたい”だったじゃないか。
なら、何を迷う必要がある?
このドラゴンの身で、今度こそ地に足つけて生きようじゃないか。
一日を大切に。
死んだことを忘れずに。
そうだ。
僕は、生きよう。
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と、思ったまでは良かったんだ。きっと。
生きるには衣食住が必要だ。
すぐに気づいた。
食が無い!
衣はこの綺麗な白い鱗の前に必要なんてない、はず。
そして住ならこの洞穴でしばらくは大丈夫な、はず。
うん。
あれ?
食ってかなり死活問題じゃないか?
いや、きっとマイペアレンツが持ってきてくれるはず……。
餌をとるために今いないって事じゃないのか……?
そう思いながら一日。
一日が経過してしまった……。
限界だ……。
腹が減って、死ぬ……?
いやいや呆気なさ過ぎんだろ!?
畜生、自分で餌を取りに行かなきゃいけねぇのか……。
そういえば、このドラゴンの体で何が出来るんだろうか?
まず、翼。
動かしてみよう。
……。
…………。
これ、どうやって動かすんだ?
ここら辺の、筋肉を、お?
お、動く動く!
……。
…………。
ダメだ。飛べない。
翼が小さいのもあるし、ぎこちない動きじゃまともに浮く気配すらない。
これじゃ動いてお腹が減る一方じゃないか。
別のことを考えよう。
ドラゴンと言えば?
鋭い爪からの斬撃!
その重く硬い尾の打撃!
圧倒的超火力な魔法!
まず爪。
柔い。そして丸い。
攻撃?何それ出来るわけないじゃん。
次に尾。
軽い。そして柔い。
大したダメージ入らねぇだろ、絶対。
いや、お前ら物理技系統に最初から期待なんかしてなかったさ。
僕は!魔法を!極めるっ!
炎のブレスとか。翼からのウインドカッターとか。
きっと、できる、よね?
魔法ってどうすれば出せるんだろう?
そもそもこの世界に魔法ってあるのか?
いや、それは考えたらキリないか。
よく言う、魔素っていうトンデモ物質的ナニカのお陰で魔法が使えたりするらしいけど、実際どうなのだろうか?
大気に含まれてたり、自分の中にあったり。そういう小説は物によって魔素の場所は違ったけれど。
でも何かどれもまず魔素を感じるところから始まっていた気がする。
それに従ってみよう。
体を巡るモノの感覚……。
大気に流れるモノの感覚……。
それを口に集めるようにして、炎を吹くイメージ!
ゲフッ。
ゲップが出た。
いやいやいや!?
まだだ!もう1回!
スゥ…ハァ……。
スゥ……!ハッ!
ケポン!
何か、小さな爆発音?
おお!今炎が出たのか!?
小さいけどたしかに今!炎が出た!
今はこれが限界だけど、きっといつかブレスが吐くようになれるんだ!
……そう思っていた時期が僕にもありました。
えぇ、ありましたとも。
そう、成長できたら、の話だ。
この直後。
洞穴にふと陰がさして、両親のどっちかでも帰ってきたのかと期待して見てみれば。
そこに居たのは、僕を見て舌なめずりしたデカい蛇が1匹。
場面は冒頭に戻る……。
留坂豪と申します。
ほぼ趣味で書いてるので、1ヶ月に一回のペースで挙げられれば、と思います。
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どうぞこれからよろしくお願いします。
あとできればせめて、2章まで読んでみてくれると嬉しいです。