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運命の乙女が穢れを祓う  作者: まひる
第1章─出会
9/128

9.侵食されている


 結局、他に女神に関する記述を見付ける事が出来ず、ヴァルトは書庫室に籠るのをやめた。

 それでも黄昏の報告があれば、誰よりも早く現場に急行する。つまり、ヴァルトは諦めた訳ではなかった。


 そんな日々が続く中。


─く…っ。


 人気のない森の中で、大きな幹に身体を預けて崩れ落ちるヴァルト。

 左腕を押さえ、苦悶の表情で脂汗を浮かべている。


 苦痛を押し殺しながら、腕に巻いている包帯を解いた。─包帯は限界だったのか、黒い煙をあげてグズグズと崩れてしまう。

 見るとヴァルトの肘から指先までは、完全に黒い鱗に覆われてしまっている。


─っ…、侵食されている。


 神聖魔法を施した包帯では、完全に魔物化を抑え込む事が出来なかった。

 ジワジワと進行する魔物化に、気が狂いそうになる。


 目の前の魔物や魔獣を討伐する度に、いずれ自分が討伐される側になるのだと、思わないではいられないのだった。


「聖なる女神よ。いにしえの契約に従い、不浄を清めたまえ」


 何度目になるのか。ヴァルトは新しい包帯に神聖魔法を掛ける。


 初めの頃はそうでもなかったが、魔物化が進むにつれ、神聖魔法を施した包帯の方が悲鳴をあげてきていた。─少しずつ黒っぽく変色していき、最後には煙をあげるのだ。


 その頃にはヴァルト自身も痛みを感じるようになり、今回のように立っているのも辛くなる。


 そして、巻き直す時の激痛も増している。包帯を巻くだけなのに、捩じ切られそうな痛みだった。


─ぐぅぅぅぅっ…っ。


 何とか歯を食い縛り包帯を巻き終えた頃には、ヴァルトは精も根も尽き果てた状態となる。

 普段はすぐに二の腕までの手袋をつけているのだが、もはやそれすら出来なかった。


 暫くの間短い呼吸をしながら、何とか活力が回復するのを待つ。


─このまま肩まで魔物化が進んだら、切り落とすしかあるまい。


 切り離したところで、魔物化を避けられるかは不明だ。だが、万が一の可能性に賭けたいだけなのである。


 もはや藁にもすがりたい気持ちもあり、絵物語と一笑にふした『運命の乙女』すら、何処かにいないかと願う程なのだ。


「…様~。ヴァルト様~っ」


 呼ぶ声が聞こえる。恐らくフェルディナントだろう。


 こうして誰もいなさそうな場所へヴァルトが立ち入る理由を、唯一彼だけが知ってるからだ。


「…ここだ」


 まだ立ち上がる事が出来ない為、ヴァルトは返答をする。すぐさまフェルディナントがそれに気付き、駆け寄ってきた。


「ヴァルト様、ここにいらっしゃいましたか 」


 ヴァルトの姿を確認し、ホッとした様子のフェルディナント。だがその状態から、期日が迫ってきているのだと察する。


「俺がこのまま魔物化したら…、お前が討て」

「っ?な、何をっ」

「頼む、フェル」


 滅多に弱気など見せないヴァルトの頼み事だった。


「ずるいですよ、団長。そんなふうに言われたら、嫌って言えないじゃないですか」


 わざと冗談めいて言い返すが、片手で顔を隠すので精一杯なフェルディナント。─真意を分かっているだけに、確実な拒絶が出来ない。


「…頼む」

「分かってますよ、…ルト」


 それでも再度ヴァルトから乞われ、フェルディナントは愛称を呼ぶ事でその気持ちに返すのだった。


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