8.闇を払う方法を探して
「闇を払う方法を…探してるんだ」
ポツリと呟く。
涙に濡れるフェルディナントを見ている事も出来ず、ヴァルトは再び手元の書物に視線を落とした。
左腕は手首近くまで包帯が解かれていて、あの時受けた傷は治癒しているものの、傷痕の周囲を黒い鱗が覆っている。
「それで…。何か有力なものは見付かりましたか?」
「っ?…い、いや、 これといってないな」
これ以上誤魔化しようがないので、ヴァルトは素直に答える。─それ以上に、フェルディナントの変化に驚きを隠せなかった。
「…こちらをご覧になられましたか?」
先程までとうって変わって、柔らかいフェルディナントの態度。─未だに左腕は解放してもらえないが。
「いや、読んでない」
差し出された書物にパラパラと目を通したヴァルトは、訝しげな眼差しをフェルディナントに向ける。
「…何だ、これは」
「何だと仰られるとは、思いませんでした」
ヴァルトの態度に怯む事なく、ニッコリと笑みまで浮かべた。
「お探しの書物かと思ったのですが、違いましたか?」
「いい加減にしろ、フェル。これは絵物語だろ、しかも子供向けのっ」
「それが何か?女神に関する記述であり、闇を払う方法を記した書物です」
事も無げに告げるフェルディナント。ヴァルトは怒りからか、手にしている書物を震わせている。
フェルディナントが差し出した書物は、確かにヴァルトの探している内容ではあった。
しかしながら、それは低年齢層向けに記された内容であり、事の真偽は不明としか言いようがない。
「こういったものは、言い伝えや物語に隠されている事が往々にしてあります。女神の伝承ですら、真偽は不明なのですから」
ヴァルトが黙っていると、フェルディナントは彼の腕の包帯を巻き始めた。
再びチリチリとした焼ける痛みが広がり、ヴァルトは眉根を寄せる。
「女神との実質的繋がりは証明出来ませんが、神聖魔法は王族にしか現れない力として伝えられています。実際、神官は元王族。この国の癒しの力は、全て王家の存在があってこそです」
事実のみを告げ、反論する隙を埋めてくる。
フェルディナントはヴァルトの従兄弟であると同時に、教育係でもあった。
「分かってるさ、そんな事。だが、それとこれとは別問題だ。何だ、この…運命の乙女が穢れを祓うってのは」
記載されている場所を指の背で何度も叩きながら、不快感を表すヴァルト。
必死に探していた内容が絵物語にあった事実に、明らかな怒りを感じている。
「この書物は、今のように闇が頻発する前に書かれたものです。つまりは古くから闇が発生する事例があり、また、治癒する事が出来る者がいたという証明ではありませんか?」
「ふん、納得出来るかっ。だいたい、運命の乙女とやらは何処にいるって言うんだ」
「そんなものは分かりません」
淡々と語るフェルディナントに、食って掛かるヴァルト。だがすぐに軽々と流された。
ヴァルトは幼い頃から、フェルディナントに悉く言い負かされている。ちなみに腕力でも勝てない為、悔しさに歯噛みする事しか出来なかった。