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運命の乙女が穢れを祓う  作者: まひる
第1章─出会
4/128

4.どういう事だ


 ジゼラを走らす事、暫く。

 太陽が傾き始めた頃、漸くコーリアの町が見えてきた。


─見えた。だが、嫌な気配がする。


 町に入る手前で、ジゼラの歩みを襲歩から速足程度に落とす。

 周囲を警戒しながら進むが、何故か人の気配がない。


─どういう事だ?


 見た目は異常を見受けられない為、単に避難しただけとも思える。それにしても、聖騎士団の姿すら見られないのは、明らかに変だ。

 と思われたのも、外郭だけだった。

 町の中は酷い有り様。家々は崩れ、辺りは赤黒く染まっている。


 そのまま町の中央通りに差し掛かった時、ヴァルトは目の前に広がる光景に目を見開く。

 本来商店が建ち並ぶその通りは、巨大な岩が落ちたかのように潰れ、くり貫いたように喪失していたのだ。


「どういう…事だ」

「団…長…っ」


 思わず口に出た言葉に、苦しそうな声が返ってきた。

 視線を走らせたヴァルトは、崩れた建物の下敷きになっていた聖騎士団員を発見する。


 ジゼラから飛び降り、団員を押し潰している石壁を払い除けた。


「しっかりしろ」


 血と泥で汚れるのも構わず、抱き起こす。だが、その命が残り僅かなのが見て分かった。─その団員は…、下半身を損失していたのである。


「団員…、申し訳…ありません…」

「…何があった」


 会話をする力が残っている訳ではない、団員の男。口を開く度に、血反吐を吐いていた。

 だが、ヴァルトは少しでも情報がほしい。ゆっくり休ませてあげられない不甲斐なさを感じながらも、出来るだけ静かに問い掛けた。


 団員の話を要約すると、コーリアの中央に現れた黄昏は、かなり広範囲に闇を撒き散らした。そして周囲にいた生物を、この世ならざらぬ姿へと変質させる。

 獣は人を喰らう魔獣に。人は、黒い鱗を持つ魔物へと変貌した。


 町は一瞬にして混乱に陥る。錯乱した町中央は、そのまま血と泥で汚されていく。

 報告を受けた聖騎士団が到着した頃には、町は完全に魔獣と魔物の巣窟となっていた。


 闇に染まった人も獣も、元に戻す方法はない。

 聖騎士団はそれらを討伐するしかなく、規定に則り、力を行使した。


「そして…、それは起き…ました。黄昏が大きく…膨れ上がったかと思うと…っ、黒い球体となって全てを…飲み込んだのです…グフッ」

「おい、しっかりしろ!」


 信じられないような報告を聞きながら、だが目の前に広がる光景はそれを如実に現している。

 大きく血反吐を吐いた団員も、それに巻き込まれて…肉体を失ったのだろうと推測された。


「隊長も…団員も…皆、…消えて…しまいました。すみません…、俺…何も出来…かった…です」

「…何もそんな事はない。こうして、俺に報告してくれただろ」

「お優しい…お言葉…。団長…、りがと…ござ…ました」


 またここに、命の灯火が一つ…消える。


─く…っ


 歯を食い縛る事しか、ヴァルトは出来なかった。


 本日、ハーパー隊とカサレス隊、全滅。


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