4.どういう事だ
ジゼラを走らす事、暫く。
太陽が傾き始めた頃、漸くコーリアの町が見えてきた。
─見えた。だが、嫌な気配がする。
町に入る手前で、ジゼラの歩みを襲歩から速足程度に落とす。
周囲を警戒しながら進むが、何故か人の気配がない。
─どういう事だ?
見た目は異常を見受けられない為、単に避難しただけとも思える。それにしても、聖騎士団の姿すら見られないのは、明らかに変だ。
と思われたのも、外郭だけだった。
町の中は酷い有り様。家々は崩れ、辺りは赤黒く染まっている。
そのまま町の中央通りに差し掛かった時、ヴァルトは目の前に広がる光景に目を見開く。
本来商店が建ち並ぶその通りは、巨大な岩が落ちたかのように潰れ、くり貫いたように喪失していたのだ。
「どういう…事だ」
「団…長…っ」
思わず口に出た言葉に、苦しそうな声が返ってきた。
視線を走らせたヴァルトは、崩れた建物の下敷きになっていた聖騎士団員を発見する。
ジゼラから飛び降り、団員を押し潰している石壁を払い除けた。
「しっかりしろ」
血と泥で汚れるのも構わず、抱き起こす。だが、その命が残り僅かなのが見て分かった。─その団員は…、下半身を損失していたのである。
「団員…、申し訳…ありません…」
「…何があった」
会話をする力が残っている訳ではない、団員の男。口を開く度に、血反吐を吐いていた。
だが、ヴァルトは少しでも情報がほしい。ゆっくり休ませてあげられない不甲斐なさを感じながらも、出来るだけ静かに問い掛けた。
団員の話を要約すると、コーリアの中央に現れた黄昏は、かなり広範囲に闇を撒き散らした。そして周囲にいた生物を、この世ならざらぬ姿へと変質させる。
獣は人を喰らう魔獣に。人は、黒い鱗を持つ魔物へと変貌した。
町は一瞬にして混乱に陥る。錯乱した町中央は、そのまま血と泥で汚されていく。
報告を受けた聖騎士団が到着した頃には、町は完全に魔獣と魔物の巣窟となっていた。
闇に染まった人も獣も、元に戻す方法はない。
聖騎士団はそれらを討伐するしかなく、規定に則り、力を行使した。
「そして…、それは起き…ました。黄昏が大きく…膨れ上がったかと思うと…っ、黒い球体となって全てを…飲み込んだのです…グフッ」
「おい、しっかりしろ!」
信じられないような報告を聞きながら、だが目の前に広がる光景はそれを如実に現している。
大きく血反吐を吐いた団員も、それに巻き込まれて…肉体を失ったのだろうと推測された。
「隊長も…団員も…皆、…消えて…しまいました。すみません…、俺…何も出来…かった…です」
「…何もそんな事はない。こうして、俺に報告してくれただろ」
「お優しい…お言葉…。団長…、りがと…ござ…ました」
またここに、命の灯火が一つ…消える。
─く…っ
歯を食い縛る事しか、ヴァルトは出来なかった。
本日、ハーパー隊とカサレス隊、全滅。