9.分かりやすく
「そういえばさっきの…魔獣?あれ、何処に行っちゃったの?」
ドーナツを2つ食べ、人心地がついたリサ。不意に先程の魔獣が気になった。
見回したところ、その死骸は確認出来ない。
「滅した」
「え?」
「魔獣はその機能を停止すると、闇となって霧散する」
淡々と告げたヴァルトは、リサが魔獣に襲われた経験が初めてではない事を知っている。
だが、リサにはそれが何を意味しているのか全く理解出来なかった。
「何よ、それ。もっと分かりやすく教えてくれる?」
「…面倒だ」
「ぅわ…、酷っ。…あぁ、そっかぁ。ルトってば偉そうに言うけど、説明が出来ないんだぁ。そっかぁ、それなら仕方ないよねぇ~」
拒否された事を逆手に取り、リサはヴァルトの感情を煽る。
勿論それに対し、我慢が利かないヴァルトが舌打ちをした。
「お前、本当に俺を怒らすのが上手いな」
「えへへっ、それほどでも~」
「誉めてないっ。…くそっ、乗せられる俺も俺なんだが…」
頭では分かっているものの、ヴァルトは感情をコントロール出来ずにいた。
「分かった、教えてやる。ありがたく思え」
「ぅわ~、出たよ。俺様男、降臨」
「何だ、それは」
「何でもない~」
「ったく…。良いか?」
二人してコントを繰り広げた後、ヴァルトの説明が始まる。
時折、異界デレイネと繋がる現代。昨今の増加する現代側の怒り・嫉妬・悪意などの悪感情が、デレイネで闇と呼ばれる黒いモヤを形成する。そして、それに触れた獣が人を食らう魔獣となり、人は黒いワニのような魔物となる。
そんな中でデレイネ最大のレイグス王国からは、第三王子である聖騎士団長のヴァルトが主となり、発生原因と鎮静化を探っていた。
だが現代と繋がる場所は様々で、繋がったとしても本来、互いの姿は見る事も感じる事も出来ない。それを黄昏と呼ぶ。
「どうだ、説明してやったぞ。ちゃんと理解出来たか」
「…えっと、私達の世界が原因?」
ふんぞり返りそうな程に、威張るヴァルトだ。
だがリサは、それどころではない。
あの凶悪な魔獣が、この世界の悪感情から出来ているなど、考えもつかなかった。それに獣だけではなく、人も魔物化させるという。
「あ…そう言えば、ルトの左手…」
「手?手がどうした」
真っ直ぐ視線を向けてきたリサに対し、ヴァルトは首を傾げた。
普段から二の腕辺りまで隠れる手袋をしている為、外側からは全く判断が出来ない。
「脱いで」
「はあ?」
「だから、見せてよ」
「お、おま…っ」
主語のないリサの言葉に、焦ってヴァルトは立ち上がる。
勿論、リサは手袋の事を言っているつもりなのだが、互いに噛み合っていないのだ。
「何よ、ケチ」
「ちょっ、待て!誰がケチだ」
再び、リサの言葉に煽られるヴァルト。
話が通じていないのに、怒りの導火線だけは着火する。




