2.ドーナツ大好きなだけなのに
─はぁ~…っ、疲れた…。
昼までシフトに入った後、1時間の休憩に入る。だが午前中の積み重なる精神的疲労により、リサは店から離れた公園にやって来ていた。
─ドーナツ大好きなだけなのに、何で脂ギッシュな男の顔ばかり並べて見ないとならないのっ。
頭の中では、未だに客への罵倒が続いている。
それでもリサがレジに立つのは、チーフからの売り上げ倍増魂胆見え見えな策略のせいだった。─そう、ドーナツを人質…モノジチに取られている。
─毎シフトごとに好きなドーナツを一つあげるから、なんて…。そんな提案に乗った私がおバカなの~っ。
誰もいない公園のブランコに腰掛けたリサは、内心で叫びつつ頭を抱えた。
チーフの出した毎シフトごとの条件は、ドーナツに抱き合わせでドリンク、もしくは他の料理を注文させる事。そして20顧客以上というものである。
勿論、本来ならば難しいこの条件も、この店舗の立地条件的に可能だった。─そしてそれは、リサの見た目が最重要ポイントなのだが。
─私、そんなにメルルちゃんに似てるかなぁ…。
ほぅ…と物憂げに溜め息をつく。
リサのいうメルルちゃんというのは、最近人気の二次元的魔法少女キャラクターなのだ。そしてこの店舗、アニメ専門ショップのはす向かいに構えている。
つまりはリサのレジ列に並ぶのは、大概がこれ系の俗にいうオタクであるから故。そして、笑顔が一番似ているとネットで評判になっているリサの、実物生笑顔を見る為だったりした。
─あ~んっ…。今日のこのもちもちドーナツも、最高~っ。酸味と甘味がベストマッチで、癖になる味!
リサはドーナツを一口頬張り、幸せ感に浸る。
午前中の労働の対価として手に入れたドーナツは、新発売のもちもちドーナツイチゴ味、168円だった。
─うぅ…っ、なくなっちゃった。もう一つ食べたかったよぉ。
ドーナツを完食したリサは、昼食が終わってしまった事を嘆く。
頻繁にドーナツを食べている為か、リサの食事は朝食なしの昼食ドーナツ一つと決めていた。何せ、夕方にまた一つドーナツを食べ、立て続けに夕食を食べるからである。
16歳女子高生のリサは、年相応に自分の体型の変化を厭うのだ。─ちなみに、6月に誕生日を迎えている。
昼食が終わったリサは、いつものように家から持参の麦茶を飲みながら、マッタリと休憩時間を満喫していた。
─あれ…?何か見た事のない白猫さんだなぁ。
少し離れた場所を、真っ白な毛並みの美猫が歩いて行くのを見付ける。
それはチラリと一度だけリサを目に止めたものの、すぐに我関せずと、長い尾を優雅に揺らしながら立ち去って行く。
─や~ん、すっごい綺麗なオッドアイ!金目銀目っていうんだっけ?
リサはその美猫の後ろ姿に釘付けになった。
一度だけ顔を見た白猫は、片方が黄色、もう一方が淡青色をしていたのである。
─縁起の良いものなんだよねぇ~っ…あれ?あの青い方の目…、何処かで見た事のあるような…?
不意に脳裏を過るが、考えている間にも白猫は歩み続けていた。
─み、見失っちゃう!
何故かこのまま別れるのは惜しい気がして、リサは深く考える事なく、その後を追い掛けたのである。