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運命の乙女が穢れを祓う  作者: まひる
第2章─導き
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1.携帯忘れた

ここからは主人公、リサにバトンタッチです。


 セミの鳴き声が遠くに聞こえる、夏のある日。

 既に夏休みが始まり、1週間が経っていた。


「あ~、携帯忘れたっ」


 バタバタと階段を上るリサ。

 自分の部屋が欲しいとねだった幼いリサの為、両親が一念発起して購入した建売住宅である。

 それからもう、10年程この土地に住んでいた。


「こら、もう少し静かに上がりないっ」

「は~いっ」


 階下で母親の声が聞こえたが、反省の色がない返答だけをするリサ。

 自室で目的の携帯電話を手に取ると、再びバタバタと階段を駆け下りていく。


「リサ、気を付けるよのっ」

「は~い、いってきま~すっ」


 出掛けにまた声を掛けられたが、それにもいつものように答えていた。

 それよりも今は、時間が惜しかったのである。


「あ~ん、遅刻しちゃうっ」

 

 家から飛び出したリサは、最近毎日のように通う道をひた走った。

 実はリサ、夏休みに入ってバイトを始めていたのである。それも彼女の大好きな、某有名ドーナツ屋だ。


 残り物でももらえないかと、シフトも遅くまで組んでもらっている。だが、実際は今までに一つしか─本当のタダでという意味では─もらえてない。


「急げ~、私っ」


 自分を励ますように声をあげるリサ。


 アニメやファンタジーが大好きで、そういった小説やマンガをこよなく愛する高校1年生である。

 勿論、空を飛べたらとか、魔法が使えたらとか、思わない日はない。─現実問題として、不可能な事も十分に分かってはいる。


「到着~っ」


 店のバックヤードに着いた時、既に勤務時間5分前だった。

 それから店の制服に着替え、タイムカードを押して開始。


「いらっしゃいませ~っ。こちらでお召し上がりですか?」


 声高に掛け声を掛け、マニュアル通りの応対を来客に行う。

 高校生のバイトなので、元気が一番の売りである。


─だから、それ以上は求めないでほしいな。


「食べます…。あ、あの…ス、スマイルを…」


 小太りの男が、何故か酷く汗を流しながら告げた。

 思わず営業スマイルが崩れそうになるリサだったが、必死に耐える。─と言うか、この店舗は何故かリサがレジ担当になると、こういった輩が列を埋めるのだ。


─って言うかそれ、お店間違えてるってばぁ!某バーガー屋さんでしょ、ちょっと~っ。


 内心の突っ込みと暴言は、ニッコリと微笑んだ顔の裏で隠す。


「他に何か御入り用ですか?ドーナツとご一緒に、ドリンクはいかがですか?」


 注文通り笑顔を提供したリサは、次のオーダーを受けるべくセールスを行った。


「じゃ、じゃあ…コーラを、一つ」

「かしこまりました、少々お待ちください」


 こうしてリサは己の心と戦いながら、1日を精一杯過ごすのである。


─って言うか、ドーナツ1個って!


 誰も、リサの心のうちを知るよしもなかった。


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