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Heart & White  作者: 白先綾
第一季「春風のララバイ」

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第二節「風色の涙」

 少女は、目が覚めた。名残惜しそうな口元が寂しい。目を覚ましたくて覚ましたのではない、強制的に、連れ戻されるようにして、少女は分かち難く共に在った筈の夢の中の現実を離れ、こちらの、思い出そうとしなくても脳裏に焼き付いて目が覚めた時目を行使しなくとも最初に思い出されるような現実の最中の悪夢へと強制帰還させられてしまった。悪夢、それはまだ小さく容量の手のひらで囲えるほどに幼い世界への対応認識の大半を侵食している。彼女が大事に大事に忘れないでおきたくて取って置いたような宝物の思い出さえも、それを思い出そうとその宝物の光に満ちた空間へと続く扉に小さな鍵を挿した時、途端、鍵が扉が錆付き世界が暗転し暗転した世界が彼女のちょっと先の未来に夢見ていた瞳の明るさに陰を落とさせその陰を真っ黒に染め上げた時に目からだけでなく悪魔の囁きとして耳から、異物への拒絶反応を過剰に勃起させるこの世に有ってはならない物として鼻から、口から襲い掛かろうとしてくる、悪夢。彼女は、その悪夢で目を覚ましたのだろうか、それとも、もっと暖かくも儚い夢現に浸っていたのだろうか。いずれにせよ、彼女は泣いている。灰色の現実が痛すぎて、虹色の夢も痛すぎて、彼女は泣いている。灰色の世界で、灰色の姿、灰色で靡かない髪、灰色で光弾かない肌、灰色で曇ってしまって晴れる事を忘れたような悲しい瞳の少女が、全てを嘘だと言って欲しくて、早くこの遊び方の分からない遊びが終って欲しくて、一筋の、誰の為でもない、自分しか認識する事の無い、純粋な、透明な願いの筋を頬に伝わせている。

 ふと、その願いの温みが、頬では痛かっただけのその願いの温もりが彼女に分かった、彼女の事をいつでも守ってあげられるように、いつでも包んで痛みを忘れさせてあげられるように、彼女を下からそっと見守っていた彼女の小動物達は、彼女のその切実な痛切な願いに答えてあげようと思ったのか、その願いを地面に落とす事を許さなかった。そしてその願いへの応答は彼女の目を本当の意味で覚ます、彼女は目を開けた、意識を現実へと戻してから初めて、思わず、では有ったが意図的に、自分の意志で、今までは怖くてそれから身を遠ざけたくて貝のように閉ざしていた瞼という遮断の魔法を解いた、呪いの様だった魔法を解いて、本当の、本当に自由なありのままの彼女に一歩だけ近づいた。

 彼女は、その時自分が泣いている事にすら気づいていなかったのかも知れない、自分の手のひらに受け止められている液体が一体なんであるのか分からない、そんな表情をしていた。いや、その驚きは本当は別に出所が有るのだが、その時の彼女には、少なくともそこまで思考の到達がなされていない。それは何故か。その時の彼女の目に最初に飛び込んできたのは、涙というスクリーンの向こう側に靡く美しい草原の風景だったからだ。彼女の思考は、その風景の中に感じられる風の清々しさにまた出会えた喜びの為に停止してしまっていたのだ。だがその風景は、瞬きと瞬きの間の幻だったのか、すぐに、跡形も無く消えた。そして彼女は、何故自分が驚いたのか、その理由にようやく辿り着いた。色を、見た、この灰色だけで構成された殺風景な景色の中に、初めて色を保持する存在の影を見ることが出来た。彼女は余りの驚きに、思わず胸が苦しくなって胸を押さえたがその胸の苦しみの元を押さえる事は無理だった、苦しみの元は、どこから湧き出てきたのかわからない位の、笑い声と笑顔だった。

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