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Heart & White  作者: 白先綾
第三季「秋雨のコンチェルト」

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第四節「雨上がり」

 静寂が辺りに訪れ始めた、どうやら雨は小降りになって来たらしい。少年は余りにも身動きを取らずに居たので段々と眠りに近付きつつあった、その上雨と言う雑音も無くなってしまったのだからこのままこうしていたら直ぐにでも少年は眠りの世界へと攫われて行ってしまうであろう。少年は今眠る事を望まなかった、眠ってしまえばどんなに気が楽になるだろうかとは思ったが、外の雨が小降りになったと言う平和を享受したいと言う気持ち、心の静寂への興味は体の静寂への欲求を上回っていた。少年は鉛の様に重たくなっていた体の眠気を強引に押し殺すと、雨の乱舞が続いた時には永遠に出て行くことなんて無いとさえ思っていた洞窟から一人出て行くことにした。

 洞窟の暗闇に目が親しみ過ぎていたので、久しぶりに目に差し込む外世界の日差しは痛くて暖かかった、異様な雨に絶望し凍り付いていた心がこの光と言う力強き物の在り様に驚き、そしてその力強さをもっと浴びたくて自分でその凍結を内側から突き破ろうとしている、その動作、その熱による痛さ暖かさだろうと思った。洞窟の陰鬱からちょっと離れるとこんな広々とした晴れやかな気分になれる場所が有ったと言う当り前の事実を少年は忘れてしまっていた、その事実をもうこれからは二度と手放したくない、そんな気分になった。鳥の死骸、と言う目の背け様の無い陰鬱を見ても少年はその気持ちを失う事は無かった、何故なら、少年は洞窟の中で少女の死、そして自分の死と言う陰鬱とずっと対面していたのだ、少年はもう、死の恐怖を克服していた、自分は恐らくこの救助なんて期待すべくも無い変態的な世界で成す術も無く死ぬだろう、少女がそうであったように。だからこそ、死に際する時にはどこまでも晴れやかな気分で居たい、鳥の死骸を食って生き延びて自分も変態的な存在となるよりも、この晴れやかな気分をこそ大事にして、あの少女の凛とした死に顔にふさわしい者であり続けてこの生を閉じたい。それは洞窟で少年が手にした一つの力強い信仰だ、この光が生命の素晴らしさを叫んだとしても、少年の心に燃える信仰の炎は消えることは無い、自分は死ぬ、だが、自分らしく死ぬ、その気持ちを抱き締めたまま終わりたかった。その気持ちを更に浄化したくて、力強い物にしたくて、少年は外に出た、この光の叫ぶ生命の素晴らしさは本物だし、自分も未だにそれは信じている、だが、生命の素晴らしさは、単に生きる時間の長さに因る物ではない、どれだけ生命を素晴らしいと感じている時間が長いか、そちらの方がよほど大事だ、だから少年はこの光の叫ぶ生命、その素晴らしさに直に触れて、生命を素晴らしいと感じている最後の時間を、心の最後の平和を手に入れるために外に出ておきたかったのだ。鳥だとて、もし自分が生き延びたとして空を飛ぶ事が出来ない体になってしまうよりは、飛ぶ能力の無くなった、希望に向って羽ばたく事が出来なくなったその瞬間に生命の炎を燃し尽したいと願うだろう、だからこうして辺り一面に鳥が死んでいる光景も、死に際している少年にとってはとても美しい物に見えた、誰も自分らしさを捨てて無様に生き残ってしまった物はいない、それは、とても潔く純粋な、神聖な死に様だった。鳥の死に様にも自分の心に居る神を見た少年は、その場で佇んだまま思わず空を見上げた。やはり神は居るのだな、そしてやはり神は私達を見ていて、生命が生命として生まれ来る時にも、土くれに還って行く時にも等しく何もしては下さらないのだな、生命が、来て、生きて、去る、その何れの段階においても神は見ているだけで何の干渉もしない、何故なら神は知っている、干渉する事は、世界に来ると言う事だ、来たら、必ず去らなくてはならない、神と言う究極エネルギーが来て、そして去るなんて現象はこんな小さな鳥や人間の範疇に在って良い話ではない、だからそれでいいのだ、神は我々を作った、それ以降は何の手も下さない、生命が、来ては生きては去って行くその喜悲劇を見守る事だけでいいのだ、その無干渉性こそが彼、神と言う不死の存在、生きても居ないし死んでも居ないと言う永遠存在なのだから。

 それは神の返事だったのだろうか。空を見上げていた少年の目に、灰色の雨が落ちた。

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