35Carat Sanctus~サンクトゥス part2 last
フワ……
光とともに、百合はロザリオの記憶から、現実の世界へと戻って来た。
「ぐす……っ…ぐすっ……」
エウラリアは、泣きじゃくる少女に近寄った。
「オマエは……こんなワタシのためにさえ……涙を流してくれるのだな……」
―――「……エウラリアさん…っ…!」
「――――っ!!?」
百合はエウラリアの胸に飛び込んで行った。俯いて両手で顔を覆いながら、頭を彼の胸に寄せる。エウラリアは心底驚いた顔をしたが、百合の後ろ髪に優しく片手を置いた。
「イレールはいいのか……?これは不貞に近いぞ…?」
「これは関係ないです………っ!エウラリアさんは…今までずっと……っ!寂しかったんですよね…っ…!分かってくれる人が一人も居なくて……!」
「………っ!」
百合の言葉に、エウラリアは悲痛そうに目を逸らした。
「イレールさんへの怒りや、リュシーさんを死なせてしまった自分への後悔……っ!こんなに寂しい感情に囲まれてるのにっ!誰も…!エウラリアさんを助けてくれる人がいないなんて……っ!あんまりじゃないですか……っ!」
「………」
エウラリアはほんの一瞬、無言になったが、
「………ワタシは、オマエとともに死ぬ」
なぜか、安らかな表情でそう返した。
「……え?」
百合は―――理解に困って、上を見上げる。エウラリアはフ…と、微笑んだ。
「死者を生き返らせるには……オマエ…即ち、生き返らせたい者と同じ性質を帯びた肉体、生き返らせたい者の心。この二つに加え、もう一つ必要な物があるのだ。それは肉体と心を繋ぐもの―――鎖だ」
「鎖………?」
「あぁ。これは“感情の鎖”と呼ばれている……。死した時、人はこの鎖を消失するのだ。死神の鎌デスサイズは、この鎖を断ち切るためにある……。だから、新しく必要になる。オマエのは使えないのだ。オマエの心を取り出した際に、破損してしまう……」
「……まさか…それが……っ」
百合は真っ直ぐに、エウラリアを瞳におさめる。彼はしみじみと、胸に手を当てた。
「ここにある……。これを使えばよい」
オブシディアンの瞳が―――真摯に吊り上がった。
「そんなのっ!!ダメです!!!それじゃあっ!
――――エウラリアさんが幸せになれないっ!!
―――…………っ」
バタリ……
突然、百合は気を失った。
エウラリアは彼女を抱き留め、テーブルの上のカップを一瞥する。
「―――――ワタシの心は救われた」
寝台に、少女は横たえられた。
キッと、彼の目が吊り上がる―――
手にはいつの間にか、一枚のタロット・カードがあった。
「さて………最期まで、エゴを通すとしようか」
―――「終わらせましょう……この因縁を」
誰に告げるでもなく、イレールは呟く。修道院の手前、彼の後ろには友人たちが控えている。しかし、そこにフェリクスの姿は―――ない。
―――――――
光り輝く空間。
「生きましょう百合ちゃん……!ニコライの狂気はまだ終わっていないのっ!」
「はいっ!!優しい人たちが傷つき合うこんな惨劇に……幸せをっ!かならずっ!!」
一輪の白百合が、救いの手を差し伸べるべく駆け出したのを、因縁に囚われた者達は知らない。




