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イレールの宝石店  作者: 幽玄
第三章 憤怒の黒魔術師
95/104

35Carat Sanctus~サンクトゥス part2 last

フワ……


光とともに、百合はロザリオの記憶から、現実の世界へと戻って来た。


「ぐす……っ…ぐすっ……」


 エウラリアは、泣きじゃくる少女に近寄った。

「オマエは……こんなワタシのためにさえ……涙を流してくれるのだな……」


―――「……エウラリアさん…っ…!」


「――――っ!!?」


百合はエウラリアの胸に飛び込んで行った。俯いて両手で顔を覆いながら、頭を彼の胸に寄せる。エウラリアは心底驚いた顔をしたが、百合の後ろ髪に優しく片手を置いた。


「イレールはいいのか……?これは不貞に近いぞ…?」

「これは関係ないです………っ!エウラリアさんは…今までずっと……っ!寂しかったんですよね…っ…!分かってくれる人が一人も居なくて……!」

「………っ!」

百合の言葉に、エウラリアは悲痛そうに目を逸らした。

「イレールさんへの怒りや、リュシーさんを死なせてしまった自分への後悔……っ!こんなに寂しい感情に囲まれてるのにっ!誰も…!エウラリアさんを助けてくれる人がいないなんて……っ!あんまりじゃないですか……っ!」


「………」


エウラリアはほんの一瞬、無言になったが、


「………ワタシは、オマエとともに死ぬ」


なぜか、安らかな表情でそう返した。


「……え?」


百合は―――理解に困って、上を見上げる。エウラリアはフ…と、微笑んだ。


「死者を生き返らせるには……オマエ…即ち、生き返らせたい者と同じ性質を帯びた肉体、生き返らせたい者の心。この二つに加え、もう一つ必要な物があるのだ。それは肉体と心を繋ぐもの―――鎖だ」


「鎖………?」


「あぁ。これは“感情の鎖”と呼ばれている……。死した時、人はこの鎖を消失するのだ。死神の鎌デスサイズは、この鎖を断ち切るためにある……。だから、新しく必要になる。オマエのは使えないのだ。オマエの心を取り出した際に、破損してしまう……」


「……まさか…それが……っ」


百合は真っ直ぐに、エウラリアを瞳におさめる。彼はしみじみと、胸に手を当てた。


「ここにある……。これを使えばよい」


オブシディアンの瞳が―――真摯に吊り上がった。


「そんなのっ!!ダメです!!!それじゃあっ!


――――エウラリアさんが幸せになれないっ!!


―――…………っ」


バタリ……


突然、百合は気を失った。

エウラリアは彼女を抱き留め、テーブルの上のカップを一瞥する。



「―――――ワタシの心は救われた」




寝台に、少女は横たえられた。

キッと、彼の目が吊り上がる―――

手にはいつの間にか、一枚のタロット・カードがあった。



「さて………最期まで、エゴを通すとしようか」





―――「終わらせましょう……この因縁を」

 誰に告げるでもなく、イレールは呟く。修道院の手前、彼の後ろには友人たちが控えている。しかし、そこにフェリクスの姿は―――ない。



―――――――


光り輝く空間。


「生きましょう百合ちゃん……!ニコライの狂気はまだ終わっていないのっ!」

「はいっ!!優しい人たちが傷つき合うこんな惨劇に……幸せをっ!かならずっ!!」



一輪の白百合が、救いの手を差し伸べるべく駆け出したのを、因縁に囚われた者達は知らない。


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