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イレールの宝石店  作者: 幽玄
第一章 平穏な日々を君へ
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小話 ①女子力とは何たるか

時々彼らの日常にスポットを当てた小話を入れていきます。

内容は、ほのぼのしてたり、ドタバタしてたり、わいわいしてたり……


今回はほのぼのしてます。




小話 ①女子力とは何たるか




 これは、とある休日の出来事。


 百合はカウンターのオーク材製の椅子の上で、正座していた。


 背筋をぴんと伸ばし、両手を膝の上にもってきて、口と目は固く閉じている。

シンと静まりかえった茶室にしゃんと座っている、茶人のような雰囲気である。


―――正面には、クラース


「聞きたいことがある、とは言っていたが。何だその東洋的なポーズは?」


 クラースは彼女に聞きたいことがあると言われ、カウンターにとまったのだが、彼女は神妙な面持ちでこのポーズになったのだ。




「――――クラースさん。」




 静かに彼女は口と目を開いた。


「―――おおう!なんだ?」

 唐突に話を始められて、面食らう。



「女子力って何ですか?」



「―――は?」




――――「くすっ!」

 ショーウィンドーの宝石の配置を変えながら、二人を観察していたイレールがふき出す。


「百合師範しはん。それはクラースが永遠に理解できない概念だと思いますよ。」

固まってしまったクラースに助け船をだす。


「そうですか……クラースさんなら、分かりやすく説明してくれるかと思ったんですけど……。じゃあ、イレールさんは知ってるんですか?」


「う………。女性としての品位や品格を磨く力のことなのかな、とは思いますが……その判断基準が一体どこにあるのか……私も不思議です。女性らしいピンクの配色の服を着ているだけで高いなんて言っていたり、かと思えば、ボーイッシュな方でもあの人本当は女子力高いって囁きあったり……彼女たちは何を目指しているんでしょう………?」


「私、女なのに女子力が理解できなくて……友達には低い低い言われるんです。あまりにも言われるから、気にしちゃいます……」

 彼女はしゅんとしてしまった。

 その姿にイレールもしゅんとしてしまう。


「―――ま、待て!分からぬ!確かに分からぬが!梟の知性をフル回転させて百合の女子力とやらを上げてみせよう!」

 クラースが羽をバタバタさせて言う。



頭を傾け、梟らしいポーズをとりながら、考えにふけっている。


考えている。



まだ、まだ考えている。



「………うむ、うーむ……そうだ!菓子を作るのが趣味というのは、いわゆる女子力が高いのではないか?!」


 女性の格好や服装のことに関してはまるでさっぱりなので、内面のほうを考えたらしい。

これが彼の精一杯だ。


「あっ!それなら始めやすいです。毎日料理しているので!」


百合は目を輝かせている―――が、『高校生の身で毎日料理しているということ自体女子力高い』と、ここに女性がいれば発言していただろう。

残念ながら、この宝石店には女子力のカオスにはまった二人と一羽しかいない。




二人のほのぼのした迷走――料理教室が始まった。


「じゃあ、今から何か作りませんか?私の知っているお菓子のレシピならお教えできますよ。」

「わああ!じゃあ、ガトーショコラを教えてください!イレールさんのガトーショコラ、どのケーキ屋さんのよりも美味しいなって思ってたんです!」

「光栄ですね。材料もそろっているのですぐ始められますよ!」

「頑張るのだぞ!」

「はい!」



 エプロン姿の仲睦まじい二人が並んで、カチャカチャと調理器具を楽しそうに触れ合わせている。

キッチンには湯銭で溶かされているチョコレートの甘ったるい匂いが充満している。


百合はチョコの甘い匂いに目を細めてうっとりしている。

「いい匂いですね~。」

「ベルギーの友人に頼んで送ってもらっているんです。私のガトーショコラを美味しいと言ってくださいましたが、きっとこのチョコのおかげですよ。」

「いえいえ、きっと、そのチョコレートとイレールさんの熟練の技が関係しているはずです!」

「うーーーん、ガトーショコラに熟練の技ですか……あるんですかね~」


ボウルの中で、着々と材料が混ぜられていく。


様子を見ながらオーブンを予熱し始める。


ケーキの型に、混ぜ終わったそれを流し込む。


「あとは焼くだけです。こちらをオーブンへ入れていただけますか?」

イレールがオーブンの近くに居た百合に手渡そうとする。



「は~い」

「は~い♡イレールさんっ♡」


 ………ん?何か変なのが混じりましたね。



イレールが心の中で呟き、視線を向けた先には―――案の定、クラウンがいた。


「わあ!いつの間に来たんですか、クラウンさん!」

すぐ後ろに彼が立っていたので、百合が驚いて飛び退く。


「うん?たった今来たところさ。」


 今日も怪しげな仮面をつけて、ニタニタ笑っている。


「気持ち悪いので、そんな声出さないでください。せっかくのガトーショコラが台無しです。」


クラウンはそんな冷やかな意見にはお構いなしに、言った。

「ガトーショコラか!ナイスタイミングだな!楽しみだよ!」

もうすっかり、自分も食べる方向に持っていっている。


「それにしても今日は、百合も手伝っているとはね。二人でキッチンに並ぶなんて、お前も隅におけないね~新婚夫婦みたいだよ~」

イレールを冷かして突っつく。


しかし、彼は平然とした顔で、

「うらやましいですか?代わりませんよ。」

と答えた。



百合は顔を赤らめたまま、オーブンのスイッチを入れた。



しばらくして、ガトーショコラが焼きあがる。



キッチンを片付けていた百合のもとへ、クラースが飛んできた。



「どうだ?女子力とやら、上がった気はするか?」


「うーーーーーん。あんまり………それに、何だかどうでもよくなってきちゃいました。」

彼女は呑気に答えた。



クラースも、もう女子力について考えたくなかったので、安堵しながら、一気に丸め込む。


「そうか、うむ。考えて、考えて、分からないことは無理に考える必要はない。その議題は早急に解決させねばならないことではないのだから。」



彼女はカウンターでクラウンと親しげに話しているイレールをちらっと見た。




「女子力が分からない私でも、イレールさんは受け入れてくれているから、いいかなって……」


「もちろん、クラースさんも、クラウンさんも!」




黒髪に飾ったピンクサファイアに負けないキラキラした笑顔を向ける。


クラースは静かに、そうか、と言った。



 向こうでイレールが呼んでいる。



「百合、腕にのせて向こうまで運べ。」

「ええ~、ちょっとの距離ですよ~」


そう言いながらも、彼女は腕を広げた。





「そうか、そんなことで君は悩んでいたのかい。」

フォークを使わずに、直接ケーキを手に掴んで豪快に頬張っていたクラウンが感想をもらす。


「自分の魅力を磨こうというのは、大切なことだよ。でも、個々人にはそれぞれ個性があって、各々、独自の物差しで他者の個性が自分に合うものか測っている。合わないものが出るのは自然なことだ。だから、自分を肯定して、他者の個性を自分もまた寛大な物差しで受け入れればいいのさ。」


「途中でやってきた貴方がしめるんですね………でも、私もその通りだと思いますよ。」

イレールは静かに微笑んだ。



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