34Carat Credo~クレド part1
「安らぎの眠りを………」
ミカエラが黄金のハープを奏でて、『眠りへの鎮魂歌』を遺跡内に響き渡らせる。
彼女が持つそのハープは古代ケルトの三位一体神、エスス、タラニス、トゥタテスの力が宿った聖なる弦楽器。ミカエラはハープの音程を切り替えて、静かに、心休まる澄んだメロディを奏でている。
――バタッ……バタ…ッ…
彼らの背後や前方を取り囲むブラック・ドッグの群れが眠りにつき、倒れていく。
「ワォーーーーーーン!!」
しかし、彼女の演奏が間に合わないほどブラック・ドッグの数は多かった。
――「――ッ!それにしても何でこいつらこんなに殺気立ってんだ!?」
ジョルジュが、こちらに向かって飛びついて来たブラック・ドッグをアスカロンの柄ではじき気絶させる。
「エウラリアが暴れたんだろうッ!来た道にブラック・ドッグの死骸がたくさんあったじゃないか!」
クラウンはブラック・ドッグの腹を蹴ったり、逆刃のデスサイズで吹き飛ばしたりしながら道を作る。
「はぁーーッ!」
御真弓様は、魔羅の心しか射抜かない矢で彼らを射抜き、大人しくさせた。すると、イレールがハッとした顔をした。
「……ッ!エウラリアが貴方のその矢で、改心する可能性はありますか?」
御真弓様は悔しそうに首を横に振った。
「ううん……それはできないよ。貴方の宝石の魔法が、絶望に堕ちた人の心を救いきれないように、僕のこの矢にも限界があるんだ……。僕よりも強大な魔力を持っている彼の心の闇は破魔しきれない……!」
「……く!そうですか……」
下唇を噛んだイレールは、カドゥケウスを振るい、ブラック・ドッグを弾き飛ばす。
そうして遺跡内を進んで行った彼らは、開けた空間に出る。
何者かの気配はない。
しかし、皆、
「―――っ」
大量のブラック・ドッグの死骸と、一頭だけ横たわっているキマイラの死骸に、苦しそうに顔を歪める。
それらの死骸にばかり気を取られていた彼らだったが、
「これ……!」
ミカエラが驚いた声を上げた。
誰もが、彼女の視線の先を追って、上を見上げる。
――クラウンとイレールの顔色が変わった。
「これは白魔術族と黒魔術族の…対立の記録………」
「はい。ここは…『白と黒の祭壇』ゆかりの遺跡のようですね。」
寂しげな声を上げる。
二人は見るのも辛いといったように、
その――壁画から、視線を逸らした。
「何なの……これは?」
御真弓様は、説明を求めて尋ねる。ジョルジュは気まずそうに、クラウンとイレールに視線を流す。二人はそれに気づくと、顔を見合わせて、口を開いた。
「この壁画、白い魔術師と黒い魔術師が互いを傷つけ合っているだろう……?」
「うん……」
クラウンの問いに、御真弓様は頷く。イレールが補足する。
「これは私達の祖先を描いた壁画です……。古来より…黒魔術師と白魔術師は敵対関係にあったことを記しています。」
「……でも、あなた達は…リュシーさんの提案で、全種族の和解と調和を目指して旅に出て、200年かけて、それを成し遂げたんだよね?」
「……あぁ。それにはもちろん、黒魔術族と白魔術族の長きにわたる対立の解消も含まれているよ……リュシーがそれを実現させて……。
これは奇跡とも呼べるものだね…
ほんのわずかなひと時…私達は互いを認め合った。
しかし、黒魔術族が一人を残し、滅びて、それは終わりを迎えた………」
クラウンが答える。
イレールがそれに続く。彼は上を見上げて、寂しそうに言った。
「太古の昔……私達は同じ種族でした。」
「…え?」
御真弓様が瞳を揺らしたのに、イレールは寂しげな微笑を返す。
「いつから私達が分かれ……別の種族になったのかは、はっきりとは分かっていません……それほどに太古の昔です。」
イレールは壁画を撫でる。
「ただ……漠然とした言い方ですが、
この世界に、善と悪の二元論……。そう言ってしまうと、語弊がありますね……。
人にとって正である物、負である物
大きく言えば、
白と黒、光と闇の…概念が生まれたころだと言われています。
魔術を人のため、誰かを救うために使用すべきだと考える“白”
魔術を自己のため、敵対した者に仇なすために使用すべきだと考える“黒”
その二つの派閥に始まり、私達は互いを嫌い、敵対するようになった……」
イレールは寂しそうに目をつぶった。
「白魔術族は魔術で他者に恩恵を与えます
だから、他の種族からも好かれ、受け入れられますが……
黒魔術族は違います
敵対すれば何をされるか分からない……恐ろしい存在。
黒魔術族側も恐怖を与え、他者を突き放し、自ら黒に染まる……
他種族から距離を取り、独立した社会に生きる黒き者達……
私達は正反対の道に立っている……」
クラウンが、消え入りそうな声で呟く。
「リュシーとエウラリアの関係は…本当に不思議なものさ……」
「………。」
皆、自分たちの無力さに、押し黙るしか、なかった。
―――――――
遺跡をぬけた頃、もう外は夜で、クラウンは仮面越しに、密かに天を見上げた。
隣を歩いていたイレールに、そっと耳打ちする。
「私もエウラリアと、しっかりと向き合ってみようと思う……」
「……クラウン!」
イレールは小声で驚愕の声を上げた。クラウンの手には一枚のタロット・カードが握られている。なんとなく、彼が何をしようとしているのか察しがついた。
「例え止められてもこの決意は変わらない……これは私のけじめなんだ。
リュシー亡き今、あいつと向き合う責任は、私にも多大にある
………だが信じておくれ。
あくまで私は、お前たちとの絆を断ち切ったりはしない……!」
イレールは何も言葉を返せず、瞳を揺らすだけだった。
でも、
「……気を付けてください。」
と、しっかりと、小声で伝えた。
「迷惑かけるよ……」
クラウンは僅かに口角を上げると、そのカードを、夜空に投げる―――
―――ヒュン……!…フワ……ッ…
そのカードは小さな光輝く蝶の形に変わると、
夜空に天高く、飛び立って行った。




