表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イレールの宝石店  作者: 幽玄
第三章 憤怒の黒魔術師
72/104

Fragment.1 参列するLux(リュクス)part2

機械音痴は理由になりません……。

もう少しきちんとした対処の仕方があったと思うのですが、

大幅に間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。

――「そうだわ!ねぇ、エウラリアっ!」


唐突に、リュシーは何かを思いついて、両手をポンッと叩いた。



「今度は何だ……?」



エウラリアは、多少ぐったりして、長椅子に足を組んで座っている。リュシーはその正面の長椅子に座って、満面の笑み。


「私に、あなたがさっき歌っていたミサ曲を、教えてくれないかしら?!」


「………は?」

意外な申し出に、彼は些か気の抜けた声を漏らした。



「いつも放課後は残って人を待っているんだけど、いつも暇なの。」

――「餓鬼大将のフェリクスか?」

エウラリアがリュシーの言を遮る。

「あら?知っているの?」

「フン…この学校で知らんやつはいないだろう。オマエもこの学校では、ちょっとした有名人ではないか?餓鬼大将のフェリクスが、女神様リュシーと付き合い始めたとな……?」

「え…?そんな風に言われているの?」

リュシーは頬を赤らめたが、

「――って、話を脱線させないで!どうなの?やっぱりダメ?」

と、話をもとに戻した。



エウラリアはフイっと顔を逸らしてみせる。


「嫌に決まっているだろう。なぜオマエと仲良く歌い合わねばならん。慣れ合いは御免こうむる。オマエと会うのも、今日これっきりだ。女の名で呼ばれ続ける趣味はない。」


「そこをなんとか!迷惑なのは分かってるわ!」

「断る。」

「お願い!」

「断固拒否だな。」

「面倒なの?じゃ、週に一回でいいわ!」

「数の問題ではないのだが?」


しばらく二人はギャーギャー言い合っていたが、それを止めて、エウラリアが真面目な様子で尋ねた。




「なぜそこまで、ワタシの歌に執着する……?」




どこか――心痛な面持ちさえ、うかがえる。



「なんでかしら?自分でも分からないわ――けど。」

リュシーは気持ちを落ち着かせるように、下を向いた。そして、ブルー・サファイアの瞳でじっと、エウラリアを見つめた。



「あなたの歌は、ただ歌っているだけじゃなくて、

明るくて、優しい想いがこもっている感じがする。」



「………。」



彼は僅かに困惑した顔をしたが、再びフイッと顔を背けた。



「黒そのものである…ワタシの歌に、そのようなモノが含まれているか……

せいぜい吟味してみるがいい………。」



「……ん?てことは…!」

リュシーは瞳を輝かせた。

エウラリアは不愛想にそっけなく、

「やるからには遠慮なく、スパルタで教えてやる。」

と、答えた。



「やった~~~~!じゃあ、明日からお願いするわね!」


「あぁ……。」


「あっ!いけない!そろそろフェリクスが教室に戻っているころだわ!また明日ね!エウラリア!!」




―――「待て!」


 意気揚々と駆け出していく彼女を、エウラリアは引き留めた。

「ワタシと今日ここで会ったこと、そして、これからここでワタシと会うことは、誰にも言うな。聞かれても、人と会っている程度におさめておけ!!」


「どうして?」

「オマエが良くても、ワタシが黒魔術族であることは事実だ。万が一、変な噂を立てられては、かなわんからな。」


 リュシーは不思議そうに黙っていたが、クスッと笑って、

「分かったわ。あなたのことは誰にも言わないことにするわね。」

と言って、教会を跡にした。


教室に向かいながら、リュシーは一度だけ、教会を振り返る。


「私のことを気遣ってくれたのかしら?…ふふっ、やっぱりあんな風に歌う人は、優しいの……ね。」


そして、



本当は優しい人なのに、どうしてそれを隠すのかしら…と、


リュシーは寂しそうに、呟いた。





――次の日から、二人の不思議な交流は始まった。



 リュシーは毎日教会へ行き、エウラリアは教会オルガンの前に立つ。


「昨日歌っていたのは、御公現祭2日目に歌われるミサ曲の一部だ。しかし、オマエにはまだ早い。一から……基本となるミサ曲から教えてやる。」

「うふふ、ありがとう。」

「では、一度しか歌ってはやらないから、有難く聞け。」

「私一応、先輩なんだけど……」

「だまれ。」



 あんなに拒否していたのに、スパルタで教えてやるという言葉の通り、意外にも彼は真面目に教え始めた。

そしてリュシーはというと――意外にも、歌がうまかった


「どう!?」

「まぁ……悪くは、ないな。」


はたから見れば対照的な二人だが、不思議と喧嘩することはなかった。エウラリアがオルガンを弾き、リュシーが歌い、エウラリアがそれを少し手直しする。



そんな日々が、三か月続いたある日。



 エウラリアが教会へと向かっていると、



――――ギシィアアアアアアアアアアッ!!

―――バチバチバチバチッ!!!


何かの鳴き声と、魔力がはじける音が聞こえた。

 エウラリアは気配を消し、教会の壁伝いに様子を窺った。



「あれは………ニコライか。」



教会の正面の、開けた空間。長い白髪を後ろでまとめ、片眼鏡をかけた壮年の教師――ニコライが、見上げるほどに大きな双頭の大蛇と睨み合っている。しかし、大蛇はボロボロに傷つき、一方的に攻撃されていることがすぐに分かった。




ニコライが悠然と手を振り上げる。




――「汚らわしき者よ。清めの剣に喉を突かれ、断罪を受けよ。」



―――ジャララララッ!!


魔法陣が光り、白い刃のように輝く十字架の雨が、大蛇を襲った。


―――ギィシシィアアアアアアッ!!!!



断末魔の叫びが上がる。


幾千もの十字架が、大蛇の固い皮膚を裂き、その身に突き刺さった。


――ニコライはただ悠然とそれを見つめて、不敵に微笑を浮かべている。



(あの眼は……………いたぶりを楽しむ眼だな。)



 魔法が静まり、ニコライは大蛇へと歩み寄って行った。大蛇はピクリとも動かなくなり、地には血だまりを作っている。ニコライは短刀を取り出すと

――大蛇の皮膚を、はぎ取り始めた。


 エウラリアは気配を消すのを止めて、ニコライを嘲笑して言った。



「どうやらニコライ殿の心には、狂気が秘められているらしい。」



気配に気づいたニコライは、短刀をしまって立ち上がる。

――その顔は人の好さそうに、にっこりとしている


「恐がらないで。見苦しい所を見せたかな?私の専門は魔法薬でね。この大蛇――アンフェスバエナの皮膚や毒液は、魔法薬の材料になるんだ。だから、試料採取の真っ最中ってわけ。」


「ほう…では、そのアンフェスバエナは、生物以前に

――試料に過ぎない、というのだな?」



――ぴたり


 ニコライの表情が固くなった。エウラリアはニタニタと教師を見つめる。生徒と教師という立場でありながら、その地位が逆転してしまったかのようだった。


「ワタシは闇の素養が強い、黒魔術族。内に闇を秘めた者の匂いには、敏感なものでね。これは面白い……いい人教師でまかり通っているニコライ先生は…とんだ狂気を内に秘めているらしい………」



愚弄する紅い瞳が、ニコライの若草色の瞳を覗きこむ。



ニコライは無表情になった――が、

「なんだ。バレたか。」

それを一瞬にして覆し―――ニヤッと、笑った。



「白魔術族っていうだけで優しい人って見られるから、隠すのは楽なんだ。何を企もうが、めったに人は気付かない。盲目的に信じてくれて、本当に助かるよ。こっちとしても行動しやすいからね。」


瞳を歪ませて、エウラリアに不気味に微笑む。

エウラリアは、ハッと、鼻で笑った。



「“白”にも色々いるらしいな。」



一瞬、頭をかすめたのは、リュシーだった。



ニコライは首を傾げる。

「何を言ってるのか分からないけど、私が狂気を秘めていようが、どうでもいいだろ?Dérision(デリジオン)の黒魔術師様には何の関係のない………。」


「ああ。キサマがどんな奴だろうが、どうでもいい。」


「じゃあ、このことは黙っていてもらうよ?もし、変な噂でも流そうものなら――」

ニヤリと笑ったニコライは、脅すように言う。



「君達――黒魔術族が、



その恐怖の威を以て隠し、守っている




――レーヴァテインのこと。



世間に、知らしめてあげようか………?」




――「……ッ…キサマ……!どこまで知っている………?」




エウラリアの顔色が変わった。


 まがまがしい殺気を放ちながら、ニコライを睨みつける。普段から鋭い瞳が、更に鋭利さを増して冷たく光っていた。



ニコライは大げさに肩をすくませ、言う。



「おぉ怖い……。ただそういう噂を聞いただけだよ。『この世界を破壊し尽し、白紙に戻すことができる唯一の剣レーヴァテイン……それが、気高き黒の魔術師たちに守られている』ってね。でも、君の反応を見て確信できたよ。噂は本当らしいねぇ……。見たいな…ぜひ一度拝見させてもらいたいなぁ……。」



ニコライはエウラリアになめるような視線を注ぐ。

彼はそれを断ち切って、刃を突き立てるように言った。



「キサマ程度の男がどう足掻こうが、関係のないッ!」



「そうか……残念だよ。」


 ニコライはそこまで残念でもなさそうに、楽しげに言った。そしてローブを翻すと、息絶えているアンフェスバエナに手を沿える。



「じゃあね。まぁ安心して。レーヴァテインのことはただ興味を持っているだけだから、どうこうする気はないよ―――今のところは…ね。」


ヒュン……

 魔法陣が光って、ニコライはアンフェスバエナ共々消え失せた。



「ハッ……くだらん。」



 エウラリアは冷たく言い捨てる。と、教会へと入って行こうとした。


が、


―――エウラリア~~~~~~~~!!!


 リュシーの元気はつらつな声が背中に迫って来た。彼はうるさそうに振り向く。


「なんだ。おめでた女。」


「さっきニコライ先生の気配がしなかった??ここに居たのよね?居たら挨拶したかったのに!」

リュシーは軽くエウラリアの嫌味を流して、楽しそうに両手を合わせる。

彼は、僅かに、ごく僅かにだが―――衝撃を受けたような顔になった。


「………オマエは、アイツと親しいのか?」


「えぇ。私を含めて、イレールとジョルジュ、ミカエラ、フェリクスの指導教員なの。特に私とイレールは、卒業までニコライ先生のもとで学ぶつもりなの。私は魔法薬学で、イレールが鉱物学よ。」


リュシーは相変わらず笑っている。



「………ッ…」


エウラリアはリュシーの目をじっと見て、



「いいか……アイツには気を付けろ。理由は……聞くな。」



と言った。



「え……?どうしたの…そんなに真剣な顔して……?」


「完全には信用するな……分かったな?」


「ニコライ先生は…そんな人じゃ…」

 今までにない、彼の様子に、リュシーは流石に動揺を隠せなかった。


「――何かあったの……?」



しかし、



――「ワタシを信じてくれ………」



と、エウラリアが真剣に言って、コクリと頷く。


その声は微かに震えていて、頷くしか、彼女の中に選択肢はなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ