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イレールの宝石店  作者: 幽玄
第二章 魔法族は星のもとに集う
65/104

25Carat 衝突の果てに

どうしても続きを早く書いてあげたくて、こんな時間ですが…投稿!!


お休みなさ~い

――百合は口を押えて後ずさった


「い……いや…っ。どうして…そんなに…血を浴びているの…?」


―――!!


 イレールのローブには悪魔の血が大きく広がっていた


百合の瞳には依然として恐怖の涙が光っている

そしてそこには―――明らかな拒絶の色


それは悪魔に向けられているのではない


紛れもなく――――



25Carat 衝突の果てに



「わたし、が……怖い…ですか……?」



――「百合ッ!違う!!勘違いするんじゃないっ!!」

クラウンが懸命に叫ぶ。


 百合は目をぎゅっとつぶって、取り乱して頭を大きく左右に振った


「いやぁ……っ!!来ないでっ!」


「………百合さ……」

イレールは震える右手を彼女に伸ばす


――「いや!!」

彼女はぴしゃりと言い放った。



―――「すまない!遅くなった!!……っ」

 クラースを筆頭に、宝石店にいた彼らの仲間たちが、遅れて到着した。


「さっきの魔力拡張、上級魔法:グランド・ファンファーレじゃ――――……ッ!?」

興奮した様子で遅れて駆け寄って来たジョルジュだが、他の者同様、イレールと百合を見て押し黙った。


 「あなたは本当に…誰なの……っ!」

百合は頭を押さえながら泣きじゃくる。

「本当に…私にとって兄みたいな存在だったのっ!?でも、私…っ!眠っているあなたに…キスしてしまった……っ!!自分でも分からないっ!どうしてあんなことをしてしまったのか……っ」


後から駆けつけた者は百合の言葉にハッとし、イレールは何も言えずに、ただ俯いている。


「今は…今のあなたは……血を浴びて……っ!!あなたは…人を傷つけるような人なの……っ!?」


頭が千切れてしまいそうなほど、激しく頭を振って、彼女は取り乱し続けた。


「分からないっ!!あなたが分からないっ!怖いっ!!思い出そうとすると頭が痛くなってっ、何も考えられない………っ!!!」



―――「百合さん!!」


 御真弓様は耐えきれなくなって、彼女を強く抱き込んだ。

「……御真弓様っ!!」

百合もすがるように叫んで、彼の肩に顔を埋める。

「大丈夫…!大丈夫だからっ!!」



「………」

 依然として、イレールは黙ったままだった。


「一旦、店に戻って落ち着こう……?一度に色んな事があって気が滅入っちゃったよね…」

百合は何度も頭を縦に振った。

目をきつく閉じて、彼の水干をぎゅっと握りしめている。

「僕は少しあの人と話したいことがあるから…代わりに誰か、彼女に付き添ってくれないかな?」

 あの人の所に、少し棘のある言い方だった。

優しくそっと、やんわりと百合の手を水干からほどく。

最後に、さらに安心させるために、彼女の両手に自分の手を重ねる。

「……俺が行こう。」

「………クラースさん…っ」

クラースが進み出て、百合もそれに従って宝石店へと歩き出した。


二人が行ってしまうと、御真弓様は黙っているイレールをギリッと睨みつけた。

イレールは目を瞑ってそれに耐えていたが、



「……これで良かったのかもしれません。」



やがて、


力なく口を開いた。


「私は貴方が昨日仰っていた通り…身勝手で、無責任です。こんなことがいずれ起こると分かっているにも関わらず……彼女をこちら側へ引き込んだ。」

ブルー・サファイアの瞳が揺れる。

「強い絆を築けば築くほど…離すのが惜しくなってしまうことぐらい、分かっているはずなのに。私の…血生臭さを含んだ…もう一つの顔を知った時……私が、彼女が…傷つくことくらい…分かっていたのに。」


――「そんなことないわっ!!確かにあなたにはっ――わたしたちには…っ!戦いに身を投じる血生臭い一面がある……けれどっ!けれどそれはっ!!―――」


ミカエラが悲痛そうに頭を振って、否定の言葉を叫ぶ。


「―――誰かを救うためだわっ!!」



 イレールは優しげに、でも切なそうに…彼女に微笑んだ。


「ありがとう…ミカエラ……確かにそうです。力が無くては誰かを守れない……対等に立ち向かう絶対的な力が必要です………でもそれは―――――――」


イレールはぎゅっと目を閉じた


「―――彼女には…似合わない。」


目を閉じて、彼は冷静さを取り戻そうとしていた


「私は半端な気持ちで彼女を愛してはいません。


想いを伝えることが叶うのなら……

そんな未来が来るのなら…

許されるの、なら…


――彼女と…将来を誓い合った仲でありたい………。」



クラウンは仮面の奥の瞳で、さらにじっと、イレールを見つめた。



「でも、私の人生に……彼女を巻き込みたくはないのです。」


本当に、身勝手で無責任です…と、彼は力なく言った。


「彼女のきれいな瞳には、美しいものだけを…本当に美しいものだけを、映していてあげたい……」


目を開けて、容赦のない殺気だつ瞳で睨む御真弓様に、視線を移す。


「そして―――彼女には、これ以上にないほどの…幸せを届けてあげたいんです。」

彼は柔らかく微笑んだ。



「どうか………彼女を幸せにしてあげてください。」


「……!」



小さな驚嘆が、御真弓様の顔に浮かぶ。

「彼女が私のことを忘れ…恐れを抱くようにまでになった今……私はけじめをつけて…やっと…身を引くことができそうです。もちろんこれからも、彼女の身は全力で守ります。貴方と笑い合う百合さんは、私に見せるものとは…別種の微笑みで…笑っています。私はそれを目に映すたびに…微かに嫉妬に似たものを、感じていたんですよ……」

「………」

「だから、彼女のことをどうか―――――」


――ギリリッ!

御真弓様の表情に大きな憤怒が表れた


――スパァーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


「…………っ!!」


――イレールの顔を、鋭く矢がかすめる――



 彼の目尻に赤い線が走った



皮肉にもそこは――百合が口づけた場所



――「いい加減っ、ふざけないでくれるかなッ!!!!!!?」


いつの間にか、彼の手には弓が握られていた。


――スパッ!

彼は再び、素早く矢を放つ。


「………ッ!」


イレールは驚きつつも跳び退いて、それを避ける。


 ミカエラとジョルジュが、焦って痛々しく叫んだ。


「やめて二人ともっ!!」

「お前らが争ってどうすんだよっ!」


「……いや、止めないでやってくれ。」

クラウンが二人を制した。


 二人は先ほど彼が――宝石店で言っていた一言を思い出して、黙った。




――イレールを襲うのは、雨のように降り注ぐ、何百本もの矢


「あなたを見ていると本当に腹が立つよっ!こうして説明してやらないと分かってくれないなんてっ!!僕があなたを、身勝手で無責任だと言ったのはそういう意味じゃない……ッ!!」


――「聖母マリアのガラス、セレナイト……っ!!」

 イレールを白い光が包んだ。

悪魔の魔法を受け止めたときのように、セレナイトの加護が矢の雨から、彼を守る。


「その上……!!彼女からのキスを受けても、その身を抱き留めてやらない強情さ…っ!―――ハァァッ!!」


御真弓様が勢いよく腕をイレールのほうに差し出すと、


――ブワッ!


イレールの周囲に、白い彼岸花の森が形成された。


 それはイレールの背丈以上に伸び、彼の視界を奪う。カドゥケウスの刃を素早く振るい、それを切り払うが、

――「……くッ!!」

切り口からまた新しいつぼみが伸び、再び白い彼岸花が咲いて、きりがない。


「分かってる……っ!」


御真弓様は彼岸花の森の外で、弓を引こうと構えつつ、悔しげに言った。


「あなたは百合さんの


――――自分への想いに気づいてる………!!!!」


白藍の瞳が悲しげに揺れる



「互いの想いに気づき、彼女の幸せを願いながら……!誰よりもそれを実現できる立場に居ながら…っ!



彼女の想いを受け入れるということが、



彼女にとって、一番の幸せだということに気づかない……!!



それを僕は……!!身勝手で無責任だと言ったんだぁああーーーーッ!!」



――フッ…!


彼が叫ぶのに合わせて、イレールを囲む彼岸花の森は、幻影のように消え失せた。

その瞬間、御真弓様は地を大きく蹴って駆け出し、


―――イレールめがけて、二本同時に矢を放つ




――――ッ!!!!!



 イレールはひらりと身を翻し、それを避けたが、


――「あなたを射ることが狙いじゃないッ!!」


ドゴォォ――――ッ!!


 イレールの胸に、勢いよく重い蹴りが入った。


「………か、はッ!」

 彼は後ろに弾き飛んで、胸を押さえた。


「はっ!………く…………ッ」


口元の血を手で拭うと、片膝をついて俯く。

サラリと髪が下へと垂れて、顔を覆い、彼の表情は暗闇へと隠れた。



御真弓様は冷たい目をしながら、イレールへと歩み寄る。



――彼の幼馴染たちは、緊張の面持ちで二人を見守る



「今、あなたの大切な人が苦しんでる。」


イレールの正面まで歩み寄ると、彼は歩みを止めた。

「大切な記憶を見失い。命の危機を感じて、恐怖して。」

俯いてこちらを見ないイレールを、ただ真っ直ぐに見つめる。


「心細くて…必死に助けを求めてる。」


彼の口調は、弱々しいものに変わった。


――「できるのなら……。僕が…助けてあげたいよ………!!」


彼はぎゅっと拳を握った。


「でもそれは、僕にはできない……!!だって……。今の彼女を救ってやれるのも……あなたしかいないんだ……っ!運命の糸で固く、誰よりも彼女と結ばれた、あなたしかっ!!


助けてあげてよ!それをあなただって…強く望んでいるはずなんだ……!!」



――クラウンが、ミカエラが、ジョルジュが、イレールを取り囲んだ――



「なぁ…イレール。私達が、幸せを願ってやまない存在よ……。



特に、私にとっては…実の弟のような、親愛なる……イレールよ。」


まぁ、私にはもったいないぐらいだがね…と小さく付け加えて、クラウンが口を開いた。


「お前があの日救った、想い人……。今度は…見捨ててしまうつもりかい?……いいや、断じて……そんなことはしない。お前は、清らかなる優しさに満ちた、聖なる人。私達が成し遂げたこの調和の世界で……苦しむ人の心を救い、その裏で常に、世界を見守る。精悍なる強き人。」


ジョルジュがへへっと笑って言った。


「お前さ…最っ高に、強えぇーーーよ!!」

少し照れくさそうに頬を染める。

「そして百合は………最っ高に、鈍感で優しいっ!!」

明るい、ハツラツとした声だった。

「キス……もらったんだろ?望みあんじゃねぇーかっ!!記憶が戻るかもしれないっていう望みがさっ!?じゃなきゃ、しねぇーよ、んなことっ!強引にでもあの子の記憶、お前の手で引っ張り出せよな?記憶が戻ったあの子なら、きっとお前のその姿も、優しく鈍感に受け入れてくれると思うぜっ!!」

そしてよっ!と、彼は続けた。


「お前はその強いメンタルと魔法で、百合を守ってやれ!!百合が居んのはもちろん…その純白のローブの、腕の中だーー!」


 ミカエラが頬に手をやって、うっとりと微笑んだ。


「いいわねぇ~!お似合いよぅ~!じゃあ、ゆりちゃんは聖者の癒しの花、なのよねぇ?だって、戦うイレールの心を支えているのは、何だかんだで、守られてるゆりちゃんなんだものぅ~~~!」

うふふっと笑って、ミカエラはしみじみとした顔になって言った。

「昔ねぇ…あなたがゆりちゃんと出会った桜舞うあの、春の日……。あんなに別人のようになって落ち込んでいたのに…私達が迎えに行ったら、あなたったら、幸せそ~うにの~んびり笑っていたわ……。その視線の先には、純粋で清らかな…そうまるで…白百合のように可憐で小さな…女の子。」

ミカエラは瞳を優しげに細めて、胸の前で手を組んだ。



――「私達ねぇ………あなたに、幸せになって欲しいの。」



 絆を紡いだ四人の友人たちが一身に視線を―――


―――肩を震わせ、泣いている大切な友人に、


一人、また一人と、落としていった――――――



その度に、血で濡れたローブは、白く変わっていく――――




「幸せになる権限は、等しく、全ての者の、手に。


それはわがままなことでも、横暴なことでもない。


―――幸せを欲する、純粋なその想いを、どうか…殺さないでやってほしい。」


クラウンの言葉に、


――その大切な友人は、ゆっくりと、立ち上がった――




――「私は……ただ純粋に…ただ純粋に、求めても良かったのですね…………っ」


 彼の瞳からは、美しい涙が一粒零れ落ちる



「何も考えることなく…純粋に…ただ、純粋に……………!」



表情には、清廉なる輝き、麗しき微笑み





―――「…………行って来ます。」


その口調はとても柔らかい。



イレールは、想いを届けるために


――――純白の衣を翻し、ゆっくりと歩き始めた。


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