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イレールの宝石店  作者: 幽玄
第二章 魔法族は星のもとに集う
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23Carat 記憶の中の、黒 part2

あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします。それにしても、正月っていいですね~!


さて、前回23話は一つにおさめておこうと思っていましたが、加筆したいと考えて、パート2を付け足しました。そのままパート2をくっつけた形ですので、パート2から読んでいただいて問題はありません。



謁見の間


長方形の長テーブルを挟んで、悪魔の王と宝石の白魔術師が向き合って座っていた。

王の背後には沢山の異形な悪魔達が控え、逆に白魔術師の背後には、彼を守るかのようにその友人たちが横に並んで立っている。緊迫した空気の中、悪魔の王は書面に目を通し終えて、じとっとした黒い瞳を彼らに移した。


―――「良いだろう。この約束銘文、このサタンがしかと認めた。」


ピリピリと張りつめた緊張の糸が一気に緩んだ。


「感謝いたします、地獄を統べる者。地獄王サタン様。」


イレールが代表して謝辞を述べる。後ろでは、リュシー、フェリクス、ミカエラ、ジョルジュの四人が深々と頭を下げていた。

サタンは頬杖をついて牙をのぞかせながら、微笑さえ浮かべている。

「地獄にたった五人で乗り込んできて、生きて最奥のこの城まで辿り着く者など今まで誰もいなかった。なによりこの謁見の間まで、三万の兵を配備していたというのに。そして誰も致命傷にあたる者はいないという……これが貴公らのやり方か。戦いつつも誰の命も奪わない。さて、貴公らの本気が如何ほどのものか、しっかりと見定めたつもりだ。

―――お前たちも、異論はないな?」

そう言って、サタンは後ろに控えている臣下の悪魔達に問いを投げかけた。

すると、臣下たちの中から、巨大なハエの体をした怪物が飛び上がった。けたたましい羽音をブンブンといわせてサタンの隣に降り立つと、自分の大きな赤い複眼に五人を映す。

「ベルゼブブが代表する。異論はないとの見解だ。噂に聞く世界統合の使者たちよ、こちらも感謝しよう。旅路の途中で、『宝石による心の救済魔法』で戦乱に心を痛めた民どもを救ってくれたらしいな。そして、やっと我らも長きにわたる天使との戦乱に大きな区切りをつけることができた。元来悪魔と天使は相容れぬもの。争い合うという選択肢しか我らにはない。貴公らが先に天使と他種族との和解を提示してくれていたために、両種族共々、これ以上同胞を無くさずに済みそうだ―――あくまで、永久休戦という名目だが。」

それに続いて、サタンが再び口を開く。

「没落に人間を貶める行為も、この約束銘文に従い、やめさせよう。貴公らが提示してきた約束銘文には、『罪人であふれかえる地獄に、これ以上人間を没落させ、引っ張り込む必要はない。過剰なほどの悪魔憑きを慎む。』とある。ハハッ、もっともな意見だ。戦乱に人員を投し、地獄は今、極度の人員不足なのだからな。」

ニヤリと笑うと、

「このように、それぞれの約束銘文に付けられた理由。一見すると、我ら悪魔の抱える社会的な問題を理由として挙げているが――――」

サタンはイレールに視線を集中させた。

「―――他種族、特に人間への気遣いが僅かに見受けられるな。これは我の勘違いか?」

さぁ…?と一言言って、イレールは柔らかく笑って答える。

「フフ……ご想像にお任せいたします。」

「ハハッ、食えないやつよ。聖人の名を抱きし、Saint(サン)-Hilaire(ティエール)様は。よかろう。だまされたことにしておいてやろう。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「やったわね、イレール!悪魔と交渉成立だわ!!」

城の城門をくぐりつつ、リュシーが喜びの声を上げた。

チャームポイントの、左耳の後ろにつくったお団子ヘアーは変わらないものの、彼女は裾の大きく広がった純白の柔らかいチュールドレスを着て、肩には少し透ける素材の長いストールをかけた服装をして、すっかり華やかで美しい女性に成長していた。

「はい、なんとか……。あぁ…、緊張しましたよーー…。」

ぐったりした様子で苦笑いするイレールも、すっかり現在の顔つきと変わらないきれいな顔立ちの若者に成長している。彼が身に纏っている聖職者を思わせる純白のローブも、しっかりと知的に着こなされて、背中には飴色の髪が流れていた。


「さっきの毅然とした態度はどこにいったんだよな?」

呆れた声を出すのはジョルジュ。彼はヴァンパイアらしい高貴な服装に、内側がワインレッドになっている黒いマントを肩にかけている。昔は頼りなさげであったヴァンパイアの羽も、今は闇夜を切り裂くとげとげしい羽に変わっていた。


「いいじゃないのよぅ~それはそうと、天使でありながらサタン城から無事帰還できたのよぅ、お兄さんに自慢しなくっちゃ~~」

のんびりと言うミカエラは、古代ギリシャ人が身に着けていたよなローブを身に着け、肩に白いストールを巻いて、天使らしい服装をしていた。純白の羽も雛鳥のようなそれではなく、白鳥の羽のような輝けるそれに成長している。


――「皆、次はどうしようか?ここから一番近いのは―――」

 四人のやり取りを見ながら、フェリクスが切りだした。彼は全身を包む真っ黒いローブを身に纏って、いかにも死神然としている。背中には銀糸のような髪が扇のように広がっており、彼の精悍な銀の瞳と同じように品よく光っていた。死神でありながら正義感にあふれている。そんな雰囲気をまとった青年であった。


突然、

――バサッ!!

フェリクスの言葉を遮って、クラースがリュシーのもとに飛んできた。

「リュシー、郵便処(ゆうびんどころ)から手紙を預かってきたぞ。」

「あら、ありがとうクラース!!」

リュシーは待ってましたというように、明るい声でお礼を言う。彼女はそれを受け取ると、早速歩きながら目を通し始めた。


フェリクスがクラースを肩にとまらせて尋ねる。

「クラースもご苦労だったね。毎日郵便処(ゆうびんどころ)と私達のもとを往復して大変だろう?」

「別に良い。軍神アテナの聖鳥と言えど、俺も梟なのだ。伝書梟としてお前たちの書を運ぶのが性に合っている。どうしてもこの世界統合の旅は、身を守るために武器を取らなくてはならない時がある。それにも関わらず、こうして戦わずに済ませてもらえているのだ。有り難いことだ。」

口ばしの下の柔らかい羽毛を彼に撫でてもらいながら、クラースは目を閉じて言った。



体を休めるために、一行は不気味な黒レンガ造りの家々が並ぶ城下町の宿に急ぐ。

いきなり、はじけるように明るいリュシーの声が彼らの耳に響いた。


―――「次は“La() vallée(ヴァレ) des() Noir(ノワール)”(黒魔術族の谷)に行きましょう!!」


手紙から顔を上げて、彼女は意気揚々と宣言した。

地獄(ここ)からも近いし、いいでしょう、みんな?さ、行きましょ!」

颯爽と言い切る彼女とは裏腹に、皆心配そうな表情でお互いに顔を合わせた。そのうちフェリクスがリュシーのほうに顔を向きなおして、他の三人が思っているであろうことを言語化した。

「確かにここからすぐだが……。しっかり態勢を整えてからのほうがいいだろうね。」

渋った声で言われるその言葉に、イレールも顎に手をやって思案しながら続く。

「黒魔術族は他種族が自分たちの谷に立ち入ることの無いよう、警備を固めています。周囲を取り囲む森には凶暴な(ブラック)(ドッグ)の群れを放ち、その先には、侵入者の気を狂わせる呪術(ツァウバー)が幾重にも結界として張りめぐらされている……とか。相手はあの(・・)黒魔術族ですし……しっかり計画を立ててからのほうがいいと思いますよ。」

「このまま突っ込んで、あんまり谷の周囲を荒らして黒魔術族を刺激したくねぇしな。」

「今まで他種族は何人たりとも谷に立ち入った者はいないと言われているのよねぇ……?万が一行くことが叶っても、その後交渉の席を設けてくれるかも怪しいわぁ。最悪入った途端、総攻撃を仕掛けてくるかもしれないのよぅ?」

ジョルジュもミカエラも、渋った様子でリュシーに言う。


「みんなピリピリしてるわねぇ……。」


リュシーは四人の反応に困った顔をして、歩きながらうーんと考え始めた。時々チラチラ手に持った手紙に視線をやっている。宙を見上げたり、手紙に視線を落としたりして思案していたが、急に決心したように手紙をパタンと閉じた。


―――「私一人で行ってくることにするわね。」


「はぁっ?!!!」

「え……!!!?」

「マジかっ?!!」

「あらぁっ!!!!」

「うぬぅっ!!!?」

それぞれが、素っ頓狂な声を上げた。


 リュシーは四人と一匹の反応に満足そうに笑うと、手に持った手紙を示しながら言った。

「何を隠そうこの手紙は黒魔術族からなの。交渉の席も用意してくれるんですって!」

「はぁーーーーっ!!?かの黒魔術族と、いつの間にそんな手紙のやり取りを!!?」

フェリクスが信じられないといった様子で、驚きの叫びを彼女に浴びせる。

「話の途中よフェリクス。ちょっと黙ってて!えぇっと……これには谷への道筋について、ここの警備がゆるいとか、そういう最も安全な訪問ルートが書かれているの。」

「私達が行くのを知っているのなら、警備を全て解いてくれればいいものを……」

「もっともな意見だけど、イレールも少し口を閉じていて。話が進まないでしょう?一応それに答えると、私達の訪問に乗じて、関係の無いよそ者が侵入しないようにだって……私の話に戻るわ。五人で行くと、警備網をどうやって潜り抜けるべきか考えないといけない。けれど、私一人だけなら、この手紙の差出人が、森の入り口まで迎えに来てくれるっていうのよ。黒魔術族が一緒なら黒犬(ブラックドック)も襲って来ないし、呪術(ツァウバー)も発動しないわ。」

「あのさリュシー、もうしゃべっていいか?」

「いいわよ、陛下。」

 煮え切らない表情を浮かべているフェリクスとイレールに代わって、ジョルジュが一呼吸おいてリュシーに疑問を提示した。

「その手紙の差出人は何でリュシー一人だと迎えに来てくれんの?意味が分かんねぇーんだけど?迎えに来てくれる気があるんなら、普通に迎えに来てくれよなって思うぜ?」

「それは……」

リュシーは一瞬困った顔をして言葉をつまらせたが、いきなり目じりをキッと吊り上げてジョルジュを睨むと、ドスの利いた声をつくって言い捨てた。

――「軽薄なる低級な慣れ合いに興味はない。戯けたことを聞くな、おめでたい奴め。」

「おぉっ?!!」

「―――ってことだと思うわ。」

 口調をもとに戻すと、リュシーはケロッとした顔になって、目の前で口をパクパクさせているジョルジュに悪戯っぽい笑みを送る。

「そういう人なの。純粋に大人数を案内して森を歩くのが嫌なだけなのよ。でも、すご~く信頼できる人だから、一人でも平気よ。私を信じて?」


 四人は困ったように再び顔を見合わせたが、やがて微笑に変わった。

そして、リュシーに力強く言った。


「……お願いするよ、リュシー。ははっ!リュシーは華奢な見た目に似合わず強いからね!!何かあってもそんじょそこらの黒魔術師、ちょちょいとやっつけてしまうだろうし!!」

「そうですね。姉さん、危なくなったら、すぐに逃げてください。移動式魔法陣を私が用意しますから、危なくなったらそれを発動させてください。」

「さっきの物マネ、誰のマネか知らねぇーけどよ。リュシーがあんな楽しそうにやったってことはそれほど気に入ってる奴ってことだろ?そんな奴ならオレ達のリュシーを任せても心配いらねぇーよ!」

「えぇ。あの黒魔術族が手紙までくれるのだから、よっぽど仲良しさんなのよねぇ。わたしたちもその人を信じるわ。」

「その旨を伝える手紙をすぐに書いてくれれば、今日中に郵便処(ゆうびんどころ)へと飛んでやろう!!

 リュシーは仲間の反応に、瞳を凛とさせて意志を伝えた。


「絶対に黒魔術族と他種族―――特に白魔術族と和解させてみせるわ!!それが出来るか否かは、私の肩に全てかかってる……任せてみんな!!!」



次の日


 黒々とした不気味な木々が蠢く森の入り口に、五人は立っていた。昼間だというのに、生い茂った木々のせいで、日光はほとんど森には差し込まない。薄暗い森。そこは耳を澄ませてみれば、何モノかの唸り声さえかすかに聞こえてくる。この森は、悪魔以上に恐ろしいと囁かれる、冷酷で残虐な闇の魔術師達の住まう谷への入り口。

―――――『常闇(とこやみ)の森』。


五人は緊張した面持ちで森を見つめていたが、一向に迎えが来る様子はない。拍子抜けした顔でリュシーが呟いた。

「もう行くわ。多分森の中を進んでいれば会えると思う。――じゃあね!!」

――スタタタタッ


「「「「えっ!!リュシー!!!?」」」」


四人が止めるのも聞かずに、リュシーは満面の笑みで森に駆け出して行ってしまった。


あっという間に視界から彼女の姿が消える。四人は顔を見合わせて苦笑を浮かべ合うと、そこまで困ってもいないように肩をすくめてリュシーを噂し合った。

「さばさばしているよなぁ……リュシーは。」

「フェリクス。それが姉さんの素敵なところです。」

「こんな森に臆することなく突っ込んでって、勇ましいぜ……」

「ほとんど特攻よねぇ……」


―――「リュシーはどこだ?」


 突然ぶっきらぼうな声がして、四人は後ろを振り向いた。気配がなかった。

 途端、彼らは戦闘態勢に入って、後ろに飛び退いて間合いを取る。

鋭く、イレールが驚きを含んだ口調で言い放った。


「貴方は―――“Dérision(デリジオン)(愚弄)の黒魔術師”!!!」


黒魔術師は身を包む漆黒のローブの裾と、高く結い上げた長い黒髪を風に揺らして、四人を冷たく見据えている。怪しげながら心惹かれる美しさを放つ、その美貌。長い睫毛を揺らす紅い瞳。間違いようもなく、すぐに記憶の中の“彼”だと認めることができる。


四人の驚きに興味はないといった様子で彼は、

「リュシーはどこだと聞いているだろう?オマエ達と慣れ合うつもりはサラサラない。―――答えろ。」

と、ピクリとも表情一つ変えずに尋ねた。


フェリクスが前に歩み出て、落ち着いた口調で答える。

「迎えに来るとは……お前だったのか。リュシーはお前を待ちきれずにたった今森に駈け込んで行ったよ。」


「………ッ!なにッ!!!」


――――焦りの色が滲んだ


 赤い瞳を吊り上げて冷たく四人を見据えていた表情に。

「どけッ………!!」

その刹那、彼は四人の間を疾走してすり抜ける。

彼の姿は、暗い森の中へと溶け込むかのようにフッと消えていった。


「「「「………!!!!!!?」」」」

―――四人はしばらく放心したように、彼が消えた道を眺め続けた。



「彼のあんな表情……見たこと、ありますか?」



驚きで言葉をつまらせるイレールに、皆首を横に振る。

誰も返事を口に出すことができないまま、長い間が空いた。


「……ねぇよ。あんな………人を心配するときの、顔。」


ジョルジュがポツリと、目の前の出来事をやっと肯定し終えて、呟いた。


正月に書き溜めていた続きを投稿していきます。

とりあえず一つ。

少しこれから出かけるので、今夜九時ごろにもう二つ、投稿しますね。

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