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イレールの宝石店  作者: 幽玄
第二章 魔法族は星のもとに集う
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+0 Carat  桜が繋ぐ~オブシディアンと―――

+0 Carat  桜が繋ぐ~オブシディアンと―――


(桜がいっぱい咲いてる!!)


 小さな女の子が、川辺にまっすぐに伸びた道を楽しそうに駆けていた。

両側には満開の桜が列をなして、見事な桜の並木道を形成している。

真っ白なワンピースを着た少女は肩に伸ばした黒髪を揺らしながら、桜吹雪の中を走っていく。


(ずぅ~~~っと桜!!桜のトンネルっ!!)


――さぁっと風がそよぐ。

幼い少女の頭上に、淡いピンク色の花びらがふわりと散った。


(わぁっ!!もっと奥に行こうっ!!!)


瞳をきらきら輝かせながら、人気のない並木道をどこまでもどこまでも。小さな彼女にとっては、その道は果て無く続く幻想的な桜の世界なのだった。桜たちもその無邪気な様子に微笑むかのごとく花びらを風に舞わせ、華やかに散らせてみせる。



―――(あれっ?だれかいた―――――?)

どこまでも続く桜並木のその途中、桜の木陰に一瞬だけ白い影が見えた気がした。

気を取られて少しだけ走る速度が弱まる。

視界に映ったのは、薄茶の髪が白い背に流れる後ろ姿。

――その人影はこちらに気づいて一瞬振り返ったような気がした。


それでも気を取り直して、そのまま少女は駆け続けた。

黒髪に、肩に、桜の花びらが散る。



(あっ……終わっちゃった………。)


――――桜並木は終わりを迎えた。


 少女はしょんぼりと後ろを振り返った。

自分が走ってきた道はずっとずっと先までピンク色に染まって、最果てを確認することもできない。ずいぶん長い一本道を駆けて来てしまったようだ。


 並木道の先にあったのは、無骨なコンクリートの住宅地だった。

そこから先は桜の幻想的な世界とは、正反対の世界であるような気がして、足が止まる。


 少女は踵を返して再び桜並木を歩き始めた。

今度はゆっくりと歩いて、桜の木一つ一つを目におさめていく。

ポカポカとした春の陽気。寒い冬を乗り越えて開花した桜。無垢なる清らかな少女。

その並木道は明るい光に満ち、少女の大切な春の一ページを、彼女の心にひっそりと書き綴っていく。


――「いたっ!!!」


少女は頭上の桜に夢中になり過ぎて、足元の大きな石に気づかなかった。

パタンと軽い音がして、地面に小さな体が倒れ込む。ぐっと痛みをこらえながら、座り込んでみると、右の膝に血が滲んでいた。それもだんだんと領域を広げていっている。少女はそんな傷ができてしまったショックと痛みをますます自覚して、瞳にじわっと涙を浮かべた。

(泣いちゃだめ………)

何とか涙と痛みをこらえつつ立ち上がろうとする、と――――


桜の花びらが風に抱かれて、大きく少女の周囲を舞った――――

視界が一面桜色に染まる――――



―――――――――――大丈夫ですか――――――?


優しい声が耳に届いた


すぐそばに白い影が降り立って、そっと片膝をついた。

美しい薄茶の髪がふわりと優美に風になびいて、明るい日差しに照らし出される。


少女は恐る恐る顔をあげてみる――――


―――緩やかに口角を上げた口元が、視界に浮かび上がった

純白のローブから片腕が伸ばされて、手が差し伸べられている――――


まるで姫君をダンスに誘う騎士を思わせる優美な仕草。

それでいて、優しさを差し出す様にも似た、ぬくもりに満ちた所作。


―――少女は安心しきった微笑みを浮かべて、その手を握り返した―――


このお話はイレール視点の話と、対になっています。

このような形で話に挿入する予定です。


もう少しで二人は―――

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