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イレールの宝石店  作者: 幽玄
第一章 平穏な日々を君へ
23/104

9Carat 彼らの物語も、少しずつ紡がれていく…

9Carat 彼らの物語も、少しずつ紡がれていく…






 クラースは、宝石店の屋根の上の、自分の定位置でのんびりしていた。

「今宵の人間界の星空は、一段と“光”にあふれておったぞ………仲良し四人組よ。」

その呟きは―――屋根の下の、友人たちへと向けられたものであった。




イレールが感無量というように、手を合わせた。


「………久しぶりに、四人がそろいましたね…!」

「イエェーーーーーイ!これは奇跡の瞬間さ!」

「ほんとねぇ~、昔を思い出すわぁ~~!」

「オレ、あんまこっち来ねぇし、久しぶりだな!」


クラウン、ミカエラ、ジョルジュ―――イレールの幼馴染が、楽しげにそれに応える。


彼らはイレールの書斎で、机に座ったイレールを取り囲んでいた。



「良いワインを開けましょう!今、準備しますね!」

イレールが席を立って、グラスとワインを持ってくる。

「手伝うわぁ~イレール。」

ミカエラがワインの入ったグラスを受け取り、それぞれに配る。

「かぁーーーーー!うまいね!おどけ疲れた体に染み渡るよ!もう一杯!」

クラウンがそれを一気に飲みほし、二杯目を要求した。


「……おどけ疲れるってあんのか?――あっ、うめぇ!イレール、オレにも、もう一杯!」

「あらぁっ!負けてはいられないわよぅ~!ぐびぐび………ぷはっ、わたしにもよぅ!」

二人も負けじと彼にグラスを指し出す。


「一気飲みは体に毒ですよ………」

そう言いながらも、イレールはそれぞれに二杯目を注いであげる。



ミカエラがお酒の味を楽しみながら、しんみりと言った。

「………何だかこうしていると…わたしたちも、大人になったのねぇって思うわ。」

イレールもワインを一口、口に含み、時の流れを感じて郷愁に浸る。

「そうですね……。」



し………ん。


みんなそれに続いて、場の空気はしんみりしたものになった―――が


「だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!無理!」


クラウンが不意に叫んだ。

「こういう空気は耐えられないんだ!何かやるぞ!昔のように馬鹿げた遊びを、子どものように、向こう見ずにやろうじゃないか!」

頭をかきむしって、しんみりしたこの空気を、めちゃめちゃにする。

ジョルジュが呆れたように、はぁっと、ため息をついて言った。

「お前には、昔の思い出に浸るような、繊細な瞬間はねぇーのかよ?」

クラウンはニヤニヤしながら、首を振る。

「あるとも!しかしだね、せっかく集まったんだ。明るく楽しく過ごしたいじゃないか!」

呆れているジョルジュに対し、イレールとミカエラはノリノリだ。

「そうですね。何かしますか。」

「みんなで遊びましょう~!」

クラウンは残念そうに、ジョルジュに背を向けて言う。

「陛下はやんごとなきお方……庶民の遊びなど興味がないのでございますね…。では、私どもだけで……」

「えっ……いやっ…!誰もやらねぇとは言ってねぇーだろっ!オレを仲間外れにすんなよ!ってか、その話し方やめろっ!遊ぶなよなーー!」

慌ててジョルジュは弁解する。

ちょっとだけ、涙目になっている。どうやら、少し傷ついたらしい。


「ははっ!陛下がいないといじる相手がいなくて、つまらないからね。」

「クラウン……。」

それを聞いてジョルジュは、ほっと胸をなでおろした。

いじられることには、不満はないらしい。



にやりと、クラウンはトレードマークの不敵な笑みを浮かべると、三人に言った。

「さて、じゃあ――――――――鬼ごっこしないかい?」


「いいわねぇ~動きましょう~~~~」

「ヴァンパイアの無音飛行が光るぜぇ~!」

ミカエラとジョルジュは賛成する。


「ええっ……外に出るんですか~?」

寒がりのイレールは渋っている。三人はイレールを取り囲み、グラスを奪うと、彼の腕をぐいぐい引っ張り始めた。

「ほらほら、行くよ。ミカ、イレールのファーコートを持ってきてくれるかい?」

「りょうかいよぅ!…………ほらっ、行くわよぅ~寒がりさぁん!」

イレールの肩に、ミカエラは無理矢理ファーコートをかける。

「行くぞ!動くんだから、そのうちあったまるって!」


「ちょっと、何するんですか~~~!!」

三人に背中を押されながら、イレールは外へと連行されて行った。






――――結局、夜の住宅地の屋根に、彼は降り立っている。


「うぅ………寒い…………。老体に堪えます…。」

縮こまって震えている友人にはお構いなしに、クラウンは三人にルールを説明する。


「私が鬼をしよう!その方が盛り上がるからね。死神の運動神経を、フルに発揮して逃げるから、お前たちは全力で私を捕まえにかかっておいで!」


「それだと、オレたち不利じゃねぇ?」



ジョルジュが不満そうに言った。

「そうねぇ~ちょっぴりハンデがほしいわぁ。」

 魔法族はみんな人間離れした身体能力を有するが、それでも彼にはかなわない。

死神は全種族中最高の運動神経なのだ。


不満を受けたクラウンは手を顎へと持ってきて、しばらく考え込んだ。

「……じゃあ、こうしよう!私は全力で逃げるが、気配はわずかに残す。それを頼りに追いかけておいで。そして、お前たちのみ、どんな手を使ってもよいことにする!魔法もオーケーだぁーーーー!」

豪快に言い放った。

「よし!のった!」

「それなら、よさそうねぇ~!」

イレール以外の三人の間で、話はまとまり――――――




「では、鬼ごっこ!レッツ・スタァーーーーーーーーートォーーーー!」



――――――シュッ!


クラウンは夜空に叫んだと思うと、駆け出し、夜の闇に姿をくらました。



――――シュタタ!

三人も後に続いて、走り出す


人間では、肉眼で捕らえられない、その速さ――――――――




「ふふ、イレール、復活したのねぇ。」

ミカエラが隣を走る彼に話しかけた。

「はい!こうなってしまっては仕方がありません!あのおどけものを捕らえましょう!」

やる気に満ちた声が返ってくる。

「ひゅ~頼りにしてるぜぇー!白魔術師~!」


「作戦、何かないかしらぁ?」

「そうですね……とりあえず、それぞれの種族の得意な部分を生かして…各自捕まえにかかってみませんか?」

「よーし!じゃ、それでやってみっか!」



「わたしから、やってみるわねぇ~~~~!」


――――ふわぁ………………ん……



背中に、穢れなき純白の羽を広げる。

「わたしが、ウインクしたら、耳栓をしてねぇ~二人とも~」

「………あれか!確かにそれなら、やつの動きを封じられるな!」

「……本当に、何でもありですね。」

二人は、彼女の考えに予想がついたようだ。




自分たちの先を走る道化に、彼女はおっとりと話しかける。

「クゥ~ラァウ~ン。わたしの声聞こえるかしらぁ~~~~~!」


「ああ!聞こえるとも!」

彼は余裕たっぷりに、後ろに向かって返事を返す。



「じゃあ、少し――――――止まって。」


「うん。いいとも。」


―――――ピタッ!




「止まってくれるのかよっ!」

ジョルジュが鋭くつっこんだ。



クラウンとの距離は、だいたい5メートルくらいか。


「ミカエラ、歌っちゃうわよぅ~~~~!ミカエラ流讃美歌、ハレルヤ~~~~!」

ミカエラがウインクする。

―――パッ!

 イレールとジョルジュは、耳栓をはめた。




彼女は、おっとり、天使の歌声で歌い始めた。


~~~らららぁ♪


はぁ~れるや~ はぁ~れるや~ はぁれぇるやぁ~~


(………くっ!天使の歌声か…癒しの力にあふれているあまり…眠気が襲ってくる………)

 クラウンはふらついて、頭を押さえた。


(おお!効いていますね!どんな歌を歌っているのか、全く聞こえませんけど!)

(あんな姿のクラウン、久しぶりにみるぜぇ~)

二人は、期待の眼差しで様子を見守る。




――主に捧げたい~ シフォン ふぉん ふぉん シフォンケーキぃ~


一口たべればぁ あらぁ ふしぎ~


天使も 天に昇るぅ 気持ちになるのぉ~~~


ほっぺが落ちそうよぅ 言葉の(あや)よぅ ほんとに落ちたら~ グロテスクぅ


ああ はぁれぇるやぁ~~♪



「―――プッ!」

クラウンはふき出した。


(あれ?笑いましたね……?)

(なんか……様子がおかしいぞ)

二人は気になって耳栓を取った。


「ぷっ!はははぁ!ミカらしい歌じゃないか!一気に眠気がどっかに吹き飛んだよ!では!皆の衆!さらばーーーーーーーーー!」


ピョーーーーーーーーーン!


クラウンは勢いよく跳び立った。

「「ああーーーーーーーーーーーーーーー!」」




「………あらぁ……効かなかったわぁ。どうしてかしらぁ~?」

歌い終わったのに、クラウンが眠りにつかなかったので、ミカエラは首を傾げた。



「何だかよくわからねぇーーーけど!失敗だな!行くぞ!」

ジョルジュが走り出す。

「行きましょう!ミカエラ!」

ミカエラに急いで声をかけて、二人も駆け出した。





「次は、私が行きます!」

イレールが颯爽と先陣を切る。

「私は白魔術師であり、宝石商……美しき宝石たちが味方についている。ていうか、私にはこれ以外思いつきません!」


「いってきます!」

意気揚々と、彼は駆けだして行った。


「いってらっしゃい~」

「決めてこいよー!」




イレールはクラウンに叫ぶ。

「クラウン~~!貴方の身体能力は~~神がかり過ぎて、どうしてもミカエラのように、貴方自身の!走るという気力を奪うしかないような気がします!」


クラウンが後ろを振り向く。

「どうするのかい?褒めても止まっては、やらないよ?」


イレールが走りながら、左手にヒスイ色の石を出現させた。

「さぁ、アベンチュリン!多大なリラクゼーション効果で、彼をとことんリラックスさせてあげてください!」


彼の手を離れた深緑のアベンチュリンは、クラウンにあっと言う間に追いつくと―――

―――彼の背中に、やんわり溶け込んでいった。




 クラウンは、のんびりした様子で―――止まった


「さすがだわぁ~イレール!」

「やったなぁ~!」

二人は勝利を確信した。


「流石、リラックスさせる石の代表格!――――クラウン!捕まえましたよ!」


イレールはクラウンの腕を掴もうとした、が。



ヒュン!―――


クラウンは身を翻して、目にも留まらぬ速さで走り出した。


「な、なぜ!」


「ははははーーー!イレールはアスリート魂を分かっていないなーーーーー!自己ベストをたたき出すためには、自分を最大限リラックスさせること!が大事なのさ!」

彼は明らかに、先ほどよりも身軽で、ますます速い。


「………じゃあ、私は、火に油を注いだだけってことですかーーーーーー!?」

イレールが青くなった。


「そういうことさ!」


「そんな~~~~~~~!」

イレールはへたりと、その場に崩れ落ちた。




―――クラウンとの距離は、どんどん広がっていく


「おい!イレール、落ち込んでないでいくぞ!」

「負けないで~、まだまだこれからよぅ!」

二人はそれぞれ彼の腕を掴んで、再び走り出す。




「次はオレだな!って言いたいとこなんだけどよ……。」

ジョルジュは自信なさげに口を開いた。

「オレは力技しか思いつかねぇんだよな……なんか、クラウンの苦手なものとか、ねぇのか?」


イレールがハッとしたような顔をした。

「陛下!今、すごくいい案を言ってくれましたよ!」

「お?なんかあんのか!」

「わたしも分からないわぁ~」


イレールが、神妙な顔をして言った。

「二人とも、これはどんなことをしてもいいんですよね………?」

「そのはずよぅ?」

「ああ、魔法もいいしな。」


「唯一、彼を手玉に取れる方を知っています。大急ぎで助っ人として呼んできますから、陛下はそれまで、力技で彼を捕まえにかかっていてください!」


「……そんなすげぇやついんのかよ。………分かった!頼むぜ!」


イレールとジョルジュは、それぞれ反対方向へ駆けだして行った。



「がんばってねぇ~陛下ちゃん!」

ミカエラの声援を受けて、ジョルジュは背にヴァンパイアの蝙蝠(こうもり)の羽を出現させる。

「おいこら!おどけ者!これでもくらえ!」


―――バシュ、シュ……!



クラウンは、ひらりと容易くそれをかわす。

「おっと………うん?これは―――――大理石の欠片?」


「ほらほら!よそ見してる場合じゃねぇーぜぇ?」


――――シュン!シュン!……シュン!

ジョルジュは次々に大理石の欠片を、容赦なくクラウンに投げつける。



それを簡単に避けながら、クラウンが楽しそうに言った。

「これは宮廷ご用達の黒い大理石じゃないか。何か重要な像だったんじゃないかい?」


―――ピクッ!

彼の目がつり上がった。それでも投げるのは止めない。

「……これはな…オレ様の先祖の像だった、もの、だ!この間ふざけてデンファレに壊させたら、親父に大目玉くらったんだよ!くらぇ!オレのやるせない思い!」



―――――シュン!シュン!シュン!シュン!

投げる勢いが強まった。


「それは私に当たられても困るね~。」

やれやれ……とクラウンが肩をすくめた時だった。




―――――バシャーーーーーーーーーーーーーーーーン!


クラウンは突然、ずぶ濡れになった。


彼は―――――思う。――――――まずい



鬼ごっこに“鬼神”が降臨したことを感じ取ったのだ。


「急用を思い出したよ!遊びはここまでだぁ!また会おう!我が友よ!」

クラウンが慌てて、駆け出そうとするのを―――――




―――バシッ!


しっかりと捕まえる者がいた。


「あなた……ここで何をしているの?」

冷やかな、声。

「それはだねぇ……息抜きというか、何というか…。」

クラウンの目が、仮面の下で泳ぐ。


「明日の早朝、ホールのお偉いさん方と交渉事があるから、早く寝ないとまずいんじゃなかったの?」

淡々と、冷静に、鬼神は彼の精神を追い詰めていく。

「そうだったね~思い出したよ。ありがとう!……レ、レディー。」


彼が遠慮がちに見つめる先には――――彼が裏で鬼神と呼ぶ。レディー・アーレイ。


彼女は、キッ!と、自分の上司を睨みつけると、彼の銀糸のような髪を一房ひっつかんで、引っ張り始めた。

「忘れてたはずないでしょーーーーーー!私たちがいつまでここで公演できるかが、かかってんのよーーーーー!あなたに私たち団員の明日の命運がかかっているのよーーー!」


「痛!痛い、レディー!髪が抜ける!脱毛する!この歳で薄毛に悩ませないでおくれーー!」

クラウンはタジタジになって、情けなく叫んでいる。




「何とか、間に合いましたね!」

その状況を見て、固まってしまっている幼馴染二人のもとに、イレールが現れる。

「すごいわぁ。彼女の種族はなんなのぅ?」

「彼女はマーメイドですよ。」

「……はぁ?!まじか!死神を恐れずにあそこまで手玉に取れるって…やべぇ。」

 三人は、兄貴分気質の幼馴染の珍しい姿を、特に助けに行こうともせずに、ただ、眺めていた。





「はぁ~~~~。私の負けだ。こうさん。降参。」

クラウンは、大きくため息をついて、腰をおろした。


町と星空が見渡せる、その高台の開けた広場に、四人はいる。

遠くに微かに海が見えるその場所は、イレールにとって、大切な彼女と夕焼けを見た、

少しだけ、特別な場所―――――


レディーは三人にクラウンを任せ、その場をあとにしたのだった。



 そこには、幼少のころから辛苦や喜びをともに分かち合った、四人しかいなかった――


「ここは、星空が良く見渡せるわねぇ。」

ミカエラが、たれ目がちの瞳を細めて、夜の空を見上げた。



天上は、宝石箱をひっくり返したような星空。

宝石の女王、ダイヤモンドの輝きを最大に引き出す、ブリリアント・カットもかなわないほどの、きらきらとした――――輝き



 イレールが、胸に飾った、スター・サファイアのブローチを取り出した。


「私たちの心の中にはいつも――――“光”が、輝きの星が輝いています。」

その声は、彼の幼馴染三人と――もう一人の誰かに捧げているかのような。



「ああ。私たちの心の中に――そして、毎日……星の光となって、優しく私たちを導く。」

クラウンが、穏やかに言った。


「そして、わたしたちだけでなく、人間たちでさえも。……暗い夜を、照らし出して…。」

ミカエラが、目をつぶって言った。


「そして、魔法界に住まう、多種多様な魔法族でさえも。……お互いの和解の象徴として…。」

ジョルジュも星空を見上げる。



しばらく――――誰もが、“光”を思い。優しい空気の中、“光”にひたった。



「――――彼女、どこか……似ていますよね。」

イレールが、その空気を壊すことなく、問いかけた。


その言葉に、三人は、頷いた。


「お前が大切に思う――百合のことだろう?」

「ええ。出会ったその日に思ったわ。」

「ああ。姿形はちがうのにな。どこか似ている……。」




「これは……私が百合さんを大切に思う気持ちとは別の話。私が彼女を思わずにはいられないのは――――遠い昔、彼女が私の心を救ってくれたから。」

 彼の瞳が、愛しい者を思って、優しく細められる。


「クリア・フローライトの心で、蛍のように、私の心を導いてくれたから。」


「………そして、その思いが、彼女とともに過ごすうちに、より強固なものになった。」




不意に、彼は寂しげに、幼馴染たちを見つめた。

「私は、恐れています……また、あの悲劇が繰り返されることを…。百合さんが、私たちの“(リュシー)”に似ているあまり……その人生を狂わせてしまうかもしれないということを……!」


「やめろ!イレール!」

クラウンが、怒気を含んだ声で叫んだ。


「今は時代も、状況も違うんだ!そんなことは考えるな!」

イレールに荒々しく歩みよる。

「この世界は――私たちの生きるこの世界は!光――――――“リュシー”が望んだ先にやっと見えた理想郷なんだ!」


「その……命が尽き…肉体を無くしても………実現させたいと…望んだ………」


苦しげに言葉を紡いでいたクラウンは、力なく顔を伏せた。


「クラウン……」

ミカエラも、見ていられなくなって、顔を伏せる。



「ごめんなさい………。」

イレールはうつむいて、言葉をつづけた。


「彼女への思いが強くなるとともに……大切な彼女を、大切にしすぎてしまうんです。」

彼は、スター・サファイアをなでた。


それを見たクラウンが、顔をあげた。

「……すまない。私も頭に血が上ってしまった。」

落ち着いた声音に戻る。



「そんなことは―――きっと、起こらないさ!私のサーカス団と我々が、この世界でおどけている限り!」


「そうよぅ!イレール、ルノワールの想像理念よぅ!これ以上辛いものをつくる必要はないの!」


「全くだぜぇ!お前は破壊神デンファレが苦手だからな!オレが代わりに辛いことは握りつぶしてやんよ!」




 幼馴染が、彼を取り囲んで、強い眼差しを彼にぶつけた。


「……そうですね。この心配は、きっと杞憂なのでしょう。考えるのは…やめます。」


イレールは、やわらかい平生の微笑をたたえて、スター・サファイアをしまった。

「もう一本ワインを開けませんか?帰って、また飲みましょう!」



四人は、彼の宝石店へと向かって、仲良く歩み出す―――




 この世界の暗闇を照らす星々――――は、今宵も人間たちと、彼らを、優しい光で、照らし出していた―――――


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