小話 ⑥破壊神プリンセス
デンファレ姫――ーこの物語で結構重要な位置にいるイレールの幼馴染の一人、ジョルジュがかすんでしまうほどの……濃ゆいキャラ。
小話 ⑥破壊神プリンセス
「はあ………せっかく人間界に行きましたのに、愛しのイレール様に会えませんでしたわ……」
「それさ……普通、彼氏の前で言うことか………?」
「ジョルジュ~妬いていますのね!うれしいですわ~」
―――ぎゅう~
「ぐふっ!苦しいデンファレ!オレじゃなかったら、多分血を見る事態になってるぐらい力入ってる!」
「……あらら、またやってしまいましたわ。御免なさいですの!」
―――彼らが座り込んで話しているこの場所は、ジョルジュの王宮の温室。
周囲にはデンファレのために人間界から取り寄せた洋ランがそこらじゅうに植えられ、甘い匂いを漂わせていた。
「ここのところ、運動不足なのですわ……力が有り余っていますの…」
デンファレは不満そうにジョルジュを見た。
それを受けて、彼は何か考えている。
「……そうだ!この際、お前がどれだけ力があんのか、調べてみねぇか?オレがいろんなもん、用意すっから、お前は片っ端から壊してけ!」
「まあ!楽しそうですわ!ストレス発散にもなりそうですし!」
今までの甘いムードはどこかへ飛んでいき、彼らは仲良く城の広場へと出かけて行った。
「まず、これだ!オレ様の先祖の、像!」
―――それは、彼によく似た風格の三メートルほどの大理石の像。
「こんな物、小突くだけで十分ですわ!」
「えいっ」
――――つん。
デンファレが微笑みながら、デコピンする。
―――ズガシァーーーーーーーーーーーーーーーン!
簡単に、それは粉々に飛散してしまった。
「ひゅ~、やっぱこんぐらいは余裕か!」
彼女が怪力ということは、彼にとってほんの些細な個性なのだろう。
「じゃ、お次はこれな!人間界で一般的に出回ってる、鉄筋コンクリートの厚さ一メートルの壁!」
デンファレの前に、正方形の巨壁を差し出す。
支えている彼も、結構な怪力である。
「これは、人間界の文明技術とわたくしとの戦いですのね!」
デンファレがりりしく、こぶしを構える。
かわいらしくツインテールが揺れているのだが、やっていることは何とも恐ろしい。
「てーーーい!」
――――メキ!
―――ガシァーーーーーーーーーーアアァン!
鉄筋コンクリートの壁にきれいな蜘蛛の巣型の亀裂が走り、盛大な音を立てて、それは崩れ落ちた。
「やりましたわ!ジョルジュ!まるで自分の壁を壊したように、すがすがしいですわ!」
「やるじゃねーか!さすが、俺のデンファレだな!」
「なんか、もっと大きくでてみっか!」
「ええ!なんでもかかってきなさいですわーーーーー!」
ジョルジュとデンファレは城の庭園を散策し始めた。
「なんか、ビッグなもんねぇーかな。」
「そうですわね~」
流石に、使っている建物を壊すわけにはいかないので、壊してもよさそうな建物はないかと見回す。
―――ころ、ころ……
その時彼らのもとに、貴族の子ども達が、投げ合って遊んでいたボールが転がってきた。
「ごめんなさい!ジョルジュ様に、デンファレ様!そのボールこっちに投げてくれませんかぁ~~~~!」
子どもの一人が、申し訳なさそうに叫んでいる。
デンファレはそれを拾い上げると、上機嫌にそれを振りかぶった。
「いきますわよ―――――」
「あーーーーーー!やめろ、デンファレ!」
ジョルジュが叫んだときには、もう遅かった。
――――バシュッ!
―――――ボールが消えた。
「あら、どこへいったのでしょう?」
「え…………デンファレ今、確実に投げたよな…………」
二人はキョロキョロと周りを見回したが、そこらへんに転がってもいない。
「わたくし、消える魔球を習得したのかしら!」
彼女は手を合わせて喜んでいたが、背後に何かを感じたのか凛々しい顔をして、身を翻らせた。
―――――パシッ!
彼女がとっさに掴んだのは、先ほど投げたボールであった。
「あら、何か飛んでくると思ったら、さっきのボールですわ。何でですかしら?」
ジョルジュは、一瞬で何が起こったのか、理解した。
「うわぁ~~~~~~!デンファレ!まじかよ!お前ほんとすげぇーーーーな!」
「あら、ジョルジュ、どうしましたの?そんなに青ざめた顔をして?」
デンファレは不思議そうに彼を覗き込んだ。
「お前の後ろから、ボールが戻ってくるってことはさーーー!」
「ええ?なんですの?」
「そのボール!この星を一周してお前のとこに戻ってきたんだよーーーーー!ありえねぇーーーーーーーーーーーー!」
「まあ!すごいですわ!お帰りなさいですわ!ボールちゃん!」
デンファレは嬉しそうにくるっと回った。
(………やべぇー。いつもはあんま気になんねぇけど……こえぇ。イレール、よくあばら骨十本、粉砕骨折するだけですんだな………。)
そして最後に彼は、きっと将来、自分は国王陛下ではなく、恐妻陛下と呼ばれるんだろうなと、考えられずにはいられなかったのだった。




