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イレールの宝石店  作者: 幽玄
第一章 平穏な日々を君へ
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小話 ⑤台風の日のサーカス団、それはMad。

サーカス団流、台風の吹き飛ばし方

小話 ⑤台風の日のサーカス団、それはMad




 びゅううううううーーーーーーーーーーーー!

 ぶわあああああぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!


突風が街の中をめちゃくちゃに吹き荒れる。



 いつもは奇声が上がり、豪快な笑いにあふれるサーカステント。

それは年中無休。

それは台風なんて関係ない。

まして、彼にとって―――台風なんて不定期のビッグイベント、なのである。


「おおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


外の爆風に負けないほどの歓喜を含んだ奇声を発する者がいる―――――クラウンだ。

彼はテントの入り口から顔を出して雨風が当たるのも気にせずに、めったに見られないその情景を楽しんでいる。


「やめなさい!あぶないでしょ!」


そんな彼の背中を掴んで連れ戻すのは――レディー・アーレイ。


「そうだよ団長!誰かが真似したらどうするの!やめてーーー」

「人間にとっては大きな被害が出るんだよ!ふきんしんー!やめてーーーー」


妖精姉妹――釣り目がちの姉ルージュとたれ目がちの妹シャルムが追撃する。


「ちぇー………。」


クラウンは口を尖らせながら顔にサッと手をかざす――あんなに濡れていた顔面が乾く。


「皆だってあるだろう!台風の暴風を浴びてみたい衝動に駆られたことがさ。人はそういう衝動欲求を経て大人になるのさ!」

「あなた……もう、大人じゃないの。」

レディーがつっこんであげる。



 Cirque(シルク) de(ドゥ) Magiciens(マジスィアン)の団員たちは暇を持て余して、各々集まりあって遊んでいるのだ。



「テンションあげぽよしたいっすよ~!マッドに色々占ってもらうっていうのはどうっす?」

退屈したブラック・スペードが謎の言葉『ぽよ』を使って、彼らに提案した。



「あら、いいわね!マッド・クラブ!占い、してくれるかしら?」

レディーがそう言って見つめているのは――――緑のストールで怪しく顔を隠した小柄な少年。

 ジトッとした赤い瞳の部分だけ見える緑のスカーフ、二カーブを被って怪しげに水晶玉に手をあてている。一見するとただのインチキくさい占い師のように見える。


彼はジトっと、レディーを焦点のあってない瞳で一瞥すると、愛想のない口調で答えた。



「うん………、いいよ。」


ここは個性派ぞろいのサーカス団、そんな彼の容姿と人柄なんて誰も気にしない。


「やった!じゃあ、オレから占って欲しいっす!オレに彼女はできますか?!」

ブラックが彼の前に歩み出る。



マッドは水晶玉に両手をあてて、それに気を送り始めた。

だんだん周囲が暗くなっていく。

外は暴風乱れる大嵐、雰囲気がなおさら出る。

水晶玉がぼんやりした光りを放ちはじめ、その中で、白いもやが漂い始めた。


「いつ見ても……こわいの!」

「こわいの!」

妖精姉妹が互いを抱き合って、わざとらしくヒャーっと言った。


白いもやが水晶を完全に真っ白く染め上げた時だった!


「アブラ……カタブラ………キェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーー!」


――――――ピカ!

――――――――――――――――ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


マッドが勢いよく両手をあげた、その瞬間、彼の奇声とともに――――――雷が近くに落ちた!



「うおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


クラウンが叫んだ。怯えて叫んだのではない。

最高にエキサイティングしているのだ。



――――しゅん。

マッドは最初の落ち着きを取り戻す。


「分かった………。」


ブラックが目をキラキラさせながら聞く。

「どっすか!かわいい子と歩くオレの姿見えたっしょ!?」


「無理だ。諦めろ。お前の彼女は永久にトラブルとナイフだけだ。」


「ええーーーーーーーーー!そんなーーーーーー!かのじょぉ!」

ブラックがガクっと倒れる。



そんな彼にはお構いなしにレディーが前に歩み出る。

「海が恋しくなったから、来週の月曜日に泳ぎに行こうと思うのだけど、晴れるかしら?」


再び。


「アブラ…カタブラ…キェェェェェェエェェェェェェェェェーーーーーーーーー!」

―――――ピカ!

――――――――――――ズドーーーーーーーーーーーーーーン!


何故か、占いのたびに雷が落ちる。



「…………分かった。晴れる。紫外線が強いから…気を付けて。SPF50+の日焼け止めを。」

「うふ♡ありがとう、マッド!」


「ちょっと!オレの時より言い方優しくないっすか?!」

ブラックが手足をばたつかせて、文句を言う。


「知らん。占いでそうでただけ。お前は彼女ができない。それだけ。」

「うわーーーーーーーーん!くり返さなくっていいっすよ~!」




 お次は、ご機嫌なクラウンが前に歩み出る。


「わー!団長は何を占ってもらうの~?」

「もらうの~?」

妖精姉妹が、きゃっきゃっ言いながらクラウンの周りをちょこまか回る。


「ものすごく気になることができてね。」

ニタニタ笑いながら、マッドに話しかける。

「………なんでもどうぞ。ジョーカーのためなら……。」



「それはだね―――――マッドの強力な魔力は、この台風を吹き飛ばせるか!否か!」


荒れ狂う天を高々と指さして、周囲に豪快に言い放った彼の言葉が、あたりに響き渡った。


「ちょっと、ジョーカー!さすがに無茶ぶりよ!」

「そうっすよ!天気を変えるなんて!そうとう魔力必要っすよ!」

「「きゃー!豪快!」」



「………すごいこと言うね。でも、占ってみる…………。」



再び



「アブラ……カタブラ……―――――」


しかし――――――今度は様子が違った。



マッドは目を瞑って大粒の汗を流しながら、水晶玉に手をかざしている。

「アブラ…カタブラ……――――」



一言一言苦しげにつぶやくたびに、水晶の曇りがひどくなり、カタカタと揺れ始めた。


―――――カタカタカタ、カタカタカタカタ


――ピシィッ!

水晶に亀裂が走った


クラウン以外の、みんながマズイ!と思って、彼を止めようとしたとき!



「キィエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」






――――――――ピカーーーーーーー!


―――ズドォオォオオオオオオオオオオオオォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!





耳をつんざくような雷鳴があたりに響き渡った






 シーーーーーン…………


みんなが恐る恐る目を開けた―――マッド・クラブは、何事もなかったかのように、涼しい顔をしている。


あんなに騒がしかったのに、外からは何も物音がしない。





「お?」


ご機嫌なクラウンがテントの入り口を開けると――――――外は―――真夏のような、快晴だった


――ちゅん、ちゅん……

鳥まで鳴き始めている。





「………ご覧の通り、できたよ。水晶……割れちゃったけど。」

彼の足元には、真っ二つに割れた水晶がころんと転がっていた。


―――ニヤッ

「よぅし!遊びにレッツゴォーーーーーーーーーー!」


クラウンはそう叫んだかと思うと、目にも留まらぬ軽やかさで、どこかへ少年のように遊びに行ってしまった。





「なんか………すごいもの見ちゃったっす……。」

「ええ……。腰が抜けてしばらく起き上がれそうにないわ………。」

「「ほんとに……こわい。」」



みんな地にへたりと座り込んで、まじまじと、とある人物を見つめた。

彼は予備の水晶を取り出して、それを平然と磨き始めている。





マッド・クラブ―――――彼が“Mad”――マッドと呼ばれる所以は――こういう魔法狂なところにあるのだった。


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