難しいのは愛することではなく、愛されることである。
やっぱりわたしはタミィを呼び出した。
愚痴る時にはホントちょうどイイ。
オカマじゃなきゃ、こんな話してもどうしようもないんじゃって思いだしてきた。オカマだからこそ、失恋の愚痴を目一杯聞いてくれるんじゃないかと、わたしは思う。(ユキの偏見)
「あんたさぁ、いい加減にしてくれるぅ!?」
タミィはアイスアメリカーノをズコーッと吸い、不機嫌そうに目を閉じた。
「アタシもそんな暇じゃないのよぉ?」
まったくもう、と言いながら、首に巻いていたオレンジの幾何学模様の綺麗なスカーフをはずす。
タミィはVネックの白いTシャツと紺と白の太縦縞のサルエルパンツを足首が見えるように無造作に折って履いていた。
タミィはいつだってオシャレだ。
「‥で?何があったの?」
かくかくしかじか的に、馬並みトレーナークンとのあの忌まわしい事故を詳しく話した。
なるべく細かく、でも分かりやすくまどろっこしい説明は抜きにして。
話終えたあと、爆笑かと思ってたタミィは、ひとり時間が止まっていた。
「えっと、あの、え、タミィ?」
わたしの声にハッと反応して、
「ああっ、ごめんなさい。あまりにも…」
タミィはそう言いかけて、口に手を置いた。
「…あまりにも?」
わたしが食い下がって聞くと、タミィは天井をギョロッと見上げ白目がちになった。タミィ独特のお手上げという表情だ。
「いやね、あまりにも、滑稽過ぎて…。
だってさぁ、つまるところがアンタの早ガッテンで気持ちの悪いアピールで馬並みくんは引いちゃったわけでしょぉ?」
気持ちの悪いって…
「いや、気持ち悪いじゃないのぉ、汗だくの女にジロジロジロジロ見られてさぁ、挙句注意しに行ったら、得体の知れないメアドを渡されてさぁ。
アンタ、警察行かなかっただけでもラッキーって思いなさいよぉ?」
「でっ、でもさ、タミィがイケるって…!」
言ったじゃないか、ヤれると!とまではさすがに言えなかった。
ため息を深くついたタミィは、
「あのさぁ、恋愛ってさぁ、そんなにいきなり始まんないの。相手がいることなんだから、順序を踏まなきゃダメなの。
オマケに、あんた自分の姿を客観視できてるの?」
思わずわたしは自分が写っている窓ガラスに目をやった。
そこには、少し痩せて肌の吹き出物も減ったものの、スッピンで伸ばしっぱなしのゴワゴワした黒髪をひとつにくくり、Tシャツとジーンズ共に量販店のセールで購入した、生活に疲れ過ぎた主婦のようなわたしがいた。
「いつから美容院行ってないのよ。」
「えっと…、1年は行ってない…。」
タミィは大きくため息をついた。
「単に痩せたってさ、綺麗になるとは限らないわけよ。髪型だって、メイクだって、綺麗のポイントがあるのよ。
そのTシャツだってさ、どこのキャラクターかわかんないウサギものをチョイスしちゃうトコがもう…」
たしかに痩せたけど、痩せただけで綺麗には見えないわたし。
「雑誌を買いなさい。
あんたにはいま何が流行りで何がウケてんのか、知る必要があるわ!
あっ、モード紙はダメよ、あんた間に受けてものすごい格好しそうだからさぁ…」
タミィに言われた通りに、かわいい女の子が載っている雑誌を購入。
そして、美容室も予約した。
わたしは、変われるのかしら。
でも、馬並みをギャフンと言わせてやりたい。
あと、元カレ、ケイゴも。