最初のひと目で恋を感じないなら、恋というものはないだろう。
「えっ!
なになにぃ??その爽やかイケメン細マッチョトレーナーに抱き起こされて、胸キュンで毎日がバラ色なわけぇ??」
つまんなぁい、タミィは口を尖らせた。
「確かにさぁ、あんたムクミが取れてちょっと顔がシュッとしたせいか、昔のくっきり二重な目が戻って来てんのよねぇ。」
わたしも、そう思う。
最近、少し目がはっきりしてきたというか、トロンと言うよりもドロンとした死んだ魚のような鬱々しい目が少しだけ可愛く見えるような気がしてた。
鼻も、少しだけツンと高く見える。
顎も少しスッキリしてきて、顔が小さくなったような…。
一ヶ月ぶりに会うタミィからも、確信的なコメントをいただけるとは。
タミィは口は悪いけど、嘘は絶対にない。女子みたいに、足の引っ張り合いな裏の発言は絶対にないから、だから安心できる。
「その、イケメンの、その、あの、その…。」
わたしが言いにくそうに口ごもると、タミィは左の眉をひねり上げて怪訝そうに、
「なに?ハッキリ言いなさいよ。」
と、テーブルを挟んで真正面にいるわたしに上半身だけ傾け近付いた。
店内には、小洒落たジャズが流れていて、トランペットが悩ましく呻く。
女子大生がノートを開き、友人同士で何かの試験だかの答え合わせをしている甲高い声や、レジにいる店員のお勧めメニューを案内している義務的な声、休み時間だかなんだかの、スーツを着たおじさんたちの下品な笑い声がわたしの声を上手くかき消してくれた。
のに、
「はっ、なんですってぇ!?
イケメンのチンコをぉぉおおおお!???」
店内に響く、タミィの野太いダミ声。
一瞬店が凍りついた、そんな気がした。
振り返りヒソヒソするマダム風なでっぷりしたおばさん3人組。
「ちょっ!しーずーかーにーぃ!!」
わたしは、口の前に人差し指を立てて、潜め声でタミィを制した。
「あわっ!
あっ、ごめんっ!」
タミィは声のトーンを落として、
「あんたが、物凄いこといきなり言うからでしょぉぉぉぉぉ!
でっ、どうだったのよぉ、詳細はぁ!」
やはり、この手の話はゲイを興奮させるのか。
イケメンのイチモツ触るって、それだけで一瞬で神になれるものなのね…。
あの抱き起こしてくれた時、わたしの左手は、まさか彼の股ぐらにあり、必死だったわたしは手に力が入っていた。
彼は少し照れ臭そうに顔を赤らめて、
「あ、あのっ、黒沢さんっ、あのっ、僕の、握って、そのっ」
わたしは最初気付かなくて、何言ってんだよって眉間にしわ寄せてたら、なんと、握ってたと言うそんなオチ。
「ひゃっっっ!」
って、気付いて急いで手を除けたけど、しっかり握ってたせいか、感触が残ってたと言うか、生々しい記憶がね体に残ってると言うか…。
「どれほどだったの?」
わたしの話を鼻を膨らませながら聞いていたタミィは、コーヒーをひと啜りしてから真剣な面持ちで聞いてきた。
「ど、どれほどって…、その…。」
「そのイケメンのイチモツは、い・か・ほ・ど・の物だったのかって、聞いてんのっ!」
「えっと…、これ、くらい…」
掴む手の形にしてみると、
「やぁだっ!!!馬並みっ!!!」
タミィの膨らんだ鼻から豪快に鼻血が噴き出した。
ゲイってば、そんなに欲求不満なのか…?(ユキの偏見)
たしかに、それは大きくなっていたし、成人男性の中でも大きい方だと思う。
「そのオトコ、ヤレるわ。
その汗臭いあんたを抱き上げて触られて反応したんなら、それは間違いなくこの女とヤレるって証拠よっ!」
タミィはため息をついて、
「なんで、こんな女が良いのよぅ、サラブレッドイケメンたら…。」
と力なく席を立ち、肩を落として店を出て行った。
こんな女…、あんた、親友捕まえて、こんな女って言いぐさ…。
でも、ヤレる?
わたしは爽やかイケメン細マッチョ馬並みクンの射程圏内に入ってるってことなの!??
確かめて見なきゃ、ジムへ行って、自分がどうなのか、確かめなきゃ…。
今日の仕事は心なしかはかどりまくっていた。