恋愛は、美的生活の最も美わしきものの一つか。
取り急ぎ、わたしは家に一番近いスポーツジムの会員になった。
まずは、この醜い体をどうにかしなきゃ。
いつも食べてた、ファミリーサイズのキットカットを買うのを辞めることにする。お菓子は小袋。基本食べない。食べるならその分動く。
ご飯はお茶碗2杯だったのをお茶碗八分目に。炭水化物は摂り過ぎると太るけど、脳の栄養分だから無いと頭働かない。抜いちゃダメみたい。
野菜を最初にたくさん食べて、炭酸水と共に。まずはカロリーが少ないものでお腹を満たす。炭酸水は、お腹が膨れる。
お肉は極力鶏のササミかムネ肉。タンパク質で作られる筋肉は脂肪を燃やしてくれる。植物性なら、納豆か豆腐。
麺類は蕎麦にすること。ラーメンなんて糞食らえ。
和食を作る。やっぱり日本食がヘルシー。
カフェラテは、豆乳で。イソフラボン、タンパク質。
こうして、ネットや雑誌や女子の噂話から予備知識を学んだわたし。
ジムでは檻の中のハムスターのようにマシンでランニング、気合い入れてマシンの筋トレを開始したの。
あるジムの日、汗だくでゼェハァ言って休憩してると、
「おねえさん、痩せたいんですか?」
制服の青色のポロシャツを着た爽やかトレーナーが話しかけて来た。
痩せたい以外に何があるのよっ
と、キッと見上げると、
少し長めの髪を外ハネなんかさせちゃって、やや色黒細マッチョな男の子。
「あっ、はいっ!痩せたいですっ!」
声なんて1オクターブ上がっちゃったわよ。
その子は優しく微笑み、
「やっぱり。一生懸命だったんで、そうだろうなって。
効率良く痩せたいなら、筋トレ20分してから走ってくださいね。がんばって!」
そう言うと、スッと定位置に戻って行った。
なんなんだ、あのイケメントレーナーは…救世主なの…?
汗が引いてきたので、またトレーニングすることにした。
筋トレ20分、そのあとランニング、ね。
途中の全身鏡に写る、Tシャツとハーフパンツ姿のわたし、やっぱりイケてない。
まだまだ恋なんてとてもじゃないし、そんな価値もない。
でも、諦めないんだから。
恋なんてもうしてやらないけど、わたしが走る姿を指さして笑ってた鶏ガラみたいに痩せた女と、筋肉モリモリのナルシスト男たちをギャフンと言わせてやるんだ。
ついでに、元カレのケイジも…。
アイツ、Twitterの画像を新彼女との2ショット(それもほっぺにチューというほのぼの系!)に変えやがってぇぇぇぇ。
…新彼女、細くってやたら可愛かったなぁ。
言い過ぎだけど、柴咲コウみたいなしなやかな猫みたいな顔付きで。
言い過ぎだけど…。
この、どろぼうネコ!!って言ってやれば良かった。
頭からその二人の画像が離れなくて、頭を振って振り払おうとしたら、
「くっ黒沢さんッッッッ!!」
マシンの上で足を踏み外して、豪快に後ろ向きに流れて転けた。
ものすごい笑い声の中、あの爽やかイケメン細マッチョトレーナーだけが、汗臭いはずのわたしに駆け寄り
「だっ、大丈夫ですかっ!???」
と急いで抱き起こしたの。
も、もう、恋なんてしないんだから…。
神様のイジワル…。