出来る限り美しく見せなさい。恋は盲目なんて誰が言ったのかしら?
「ぶっはぁぁぁぁぁぁ!ナニソレ、サイコーな振られ方じゃないのぉ!」
わたしの目の前で豪快に吹き出して、お腹抱えて人の不幸を笑ってるのは、オカマ(本人からはゲイと呼べと怒られるんだけど)のタミィ。
美田辰吉≪みたたつきち≫っていうのが本名なんだけど、本名で呼ぶと聞こえないふりをされてしまう。男らしい名前でイイと思うんだけど、本人は嫌みたい。
タミィはニューハーフや女装趣味のおかまとは違って男のままなんだけど、性的対象は男の子オンリー。
「だってさぁ、たしかにユキってみるみるモッサリしてってるもんねぇ〜!
女じゃないわぁ、色気ないものぉ!」
と言って、またギャヒーッと言いながら笑った。
タミィはいまのデザイン事務所の同僚で、4年ほど付き合いがある。
この歯に衣着せぬ発言が好きで、タミィもまた、わたしの女子感の無さが気に入ったらしく何かと一緒にいたりする。
タミィはお洒落で、今日も水玉のスカーフに紺のジャケットを羽織り、インナーはパープルで、白のマリンパンツを履いていた。
シューズは赤の革靴を選ぶあたり、抜かりない。
「あー、笑ったぁ。
でもさぁ、あんたここら辺で女として本気で勝負してかないと終わっちゃうんじゃない?」
「わっ、わたしは見た目じゃなくて心で愛して欲しいのよっ!」
タミィは急に真面目な顔つきになってコーヒーを一口飲んだ。
「あのさぁ、言わせてもらいますけど、ゲイの世界にも見た目は重要視されるわけ。男は視覚が大事なの。
どの世界にもブスはダメよ。」
「ぶっブスって…!」
「ブスってのはね、見た目を気にしない諦めたもののことを言うの。」
じゃ、急ぐから。
と言ってタミィは席を立ち、コーヒーが入っていた紙コップを所定のゴミ箱に放り投げて、
「グッドラックぅ!」
と親指を立てて足早に店を出た。
完敗、だった。
タミィの最後の言葉が痛く胸に突き刺さった。
わたし、諦めてた。
もう恋なんてしないなんて言って、このまんまでもイイやなんて、思ってたもの。
窓ガラスに写る自分の姿を見た。
こんな冴えないブスのままわたしが終わるの?
そんなの、そんなの、そんなの、
絶っっっっっ対にイヤ!
生クリームがたっぷりと入ったカフェフラペチーノをズコーッと急いで飲み干して、
わたしを取り戻すわ!
と、フラペチーノが入った容器を豪快にゴミ箱に突っ込んだ。