妖艶夜伽【Ⅳ】
────開話────
今朝、夜月のクラスに転入してきた少女、御嶽 日向だった。
「何でお前がここに…それに、さっきのあいつ、お前がやったのか…?、」
その言葉に、御嶽は不機嫌そうな表情を浮かべて言葉を紡ぐ。
「えぇ。妖怪が現れたって連絡があったから来てみたら、あなたが死にかけてたからね。無様な物ね。本当に情けないわ。」
「…………。」
何も言い返すことはできない。情けないと言うのも、死にかけていたと言うのも全て事実なのだから。
「…まぁ良いわ。今後そんな目に遭いたくなかったら、さっさとそいつとの契約を切ることね。」
「うわー、相変わらず日向ちゃんは厳しいことを言うのね~。私~、こわ~い。」
唐突に聞こえてきたその声。しかし、その声にいち早く反応したのは夜月ではなく、月読だった。刀の姿を解いて元の姿に戻る月読。
「その声…もしかしてあなた、天照なの…?、」
天照。太陽を司ると言われている神様の中の一人だ。──そうか、あいつも神の力を使って…。
「んー?、あーら、誰かと思えば月読のお姉様じゃなーい。まだ生きてたのねー。嬉しいわ~。」
月読とは違い、お調子者のような雰囲気を漂わせている天照。
しかし、姉妹と言うこともあってか容姿はそっくりだ。天照が赤髪で無ければ、見分けが付かなかったかもしれない。
「それにしても、お姉様がまだ人間と契約する勇気があったなんてねぇ…。で、次に利用するのはその子なの?、」
妖艶で怪しげで、皮肉っぽい笑みを浮かべながらそう言葉を紡ぐ天照。
「あら、それについてはあなたにも同じことが言えるわよ。天照。」
それに対抗するように、負けじと言い返す月読。見て分かる通り、姉妹仲はあまり良くないようだ。
「でも、月読さんの契約者がそれじゃ、利用する価値も無いでしょう。」
そう月読に対して告げたのは、天照ではなく御嶽だった。
「まあそうよね~。いくら神々廻家の人間とは言え、彼はどうやら落ちこぼれの部類のようだわ~。」
その御嶽の言葉に乗っかるように、天照が言葉を紡ぐ。
「神々廻君、今後こう言う目に遭いたく無かったら、契約を切ることよ。それだけで、あなたは元の暮らしに戻れるのだから。」
そう告げて、御嶽と天照はどこかへと消えてしまった。
────夜月の、契約してから初めてとなる異形との戦いは、最悪の結果で終わりを迎えた。
────閉話────