妖艶夜伽【Ⅱ】
────開話────
二人が放課後の道草と言う奴を満喫しきった頃には、すでに時刻は夜だった。
「フフッ、とっても楽しかったわ。夜月、ありがとうね。」
そう言って柔らかく微笑んでくる月読。本当に、普通にしてれば唯の可愛らしい女の子のようだ。
「どう致しまして。ま、おかげでこの時間だけどな。」
日はすでに落ち、月が空に浮かんでいる。時期のせいか、虫の鳴き声も聞こえてきた。
「夜月、私はね。あなたのような人に巡り会えて良かったと思うわ。」
唐突に告げられた月読からの言葉に、夜月は困惑を見せた。
「な、何だよ急に…。」
「今まで私が会ってきた人間は、卑劣で汚くて、私をとても煙たがっていたから…。私にこんなことをしてくれるあなたのような存在が、私はとても嬉しいの。」
「…。バーカ、これからももっと楽しいところにも連れてってやるし、楽しいことも教えてやるよ。」
そんな風に、夜月は言葉を返した。彼は、口にこそ出さないが、月読を大事に思っているのである。
「ありがとう…夜」
その月読の言葉は、途中で途切れた。彼女の後ろから、大きな腕のような物が振り下ろされたからだ。
慌てて回避行動をとる月読。夜月は、突然のことに何が起こったのかわかっていなかった。
そして彼は、目の当たりにすることになる。自身と月読が結んだ契約の意味と、その目的を。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!!!」
思わず耳を塞ぎたくなるほどの唸り声。それをあげたのは、目の前の異形とも言えるような存在だった。
「夜月ッ!!これが妖怪よ!!今から私の言うことをしっかりと聞いて!良いわね!?」
その言葉に、夜月は未だ冷静さを失いながらも必死に頷いた。
「私の言うことを復唱するの。我、神々廻家当主。夜闇の帝が奉る。汝、我が刃と化し、眼前の異形を討ち払う刃となれ。さぁ!!夜月ッ!!」
月読の言葉を受けて、夜月は必死に彼女の言葉を復唱する。
「我、神々廻家当主。夜闇の帝が奉る。汝、我が刃と化し、眼前の異形を討ち払う刃となれ!!」
夜月がその詠唱を述べ終わると同時に、月読の身体が黒い闇に覆われていく。
思わず手を伸ばしそうになったが、彼女の言葉を信じて結果を待つことにした。
しかし、眼前の異形はそれを待ってくれない。再び腕を振り下ろそうと構えを取っている。
やがて、月読を覆っていた闇は消え去り、中から一本の刀が現れた。
それと同時に、振り下ろされる腕。夜月は必死で刀を掴み、刀を前に出して防御の体制に入った。
────閉話────