第四話「我が赴くは幻想の世界・前編」
「うぅっ」体が痛い。さっき殴られたのがまだ効いているようだ。それに時差ぼけにかかった時のように頭がガンガンしている。まぁ気にしていても仕方がない。俺は体に鞭を打って立ち上がった。
ここで俺は初めて辺りを見ることになる。
木。木。木。成る程、ここは森か。なぜ自分がここにいるのかはもう考えないことにした。どうせ分からないっしー。今思えば今日は最初からおかしかった。空に突然穴が開いて女の子が降ってきたしな。その後ゾンビが襲ってきて妹を庇うように…そうだ、彼女はどこだ?不安になりながら、俺は彼女を探した。名前は…何だったかな?そうだ。エリナだ。「エリナー!!いるかー!」
「はい…お兄ちゃん…」返事が聞こえてきた。そのことに胸をなで下ろしつつも、俺は周囲を警戒した。妹がここにいると言うことは、あのゾンビもこの近くにいる可能性が高い。油断しないのが得策だろう。だが、そんな俺の緊張した心理状態とは裏腹に、森は至って静かだった。少なくともあの忌まわしい呻き声は聞こえない。俺は警戒を少し解いた。
妹と念願の合流を果たし、心配だったので具合がどうなのか聞いてみた。「エリナ、怪我はないか?」
「うん。お兄ちゃん。それよりもここはどこなの?あの化け物は何なの!?」
そんなの俺が知りたいところだ。だが、ここで妹に毒を吐いていても始まらない。
「分からん。ここがどこなのか、あの化け物が何者なのかもな。それを知るためには、まずこの森を出なければなるまい。」
「どうして?ここに手掛かりがあるかもしれないよ?」彼女がすかさず聞き返す。
「手掛かり?一体それは何だ?ここ数十分で起きた出来事は俺達の理解を遥かに越えている。俺の経験則からすると、手掛かりはない。万一何かあったとしても、役には立たん。恐らく理解不能だからな。」
「でも!」彼女が反論しようとするが、俺は片手でそれを制す。
「さしあたって俺達に必要なものは、食料と、寝場所の確保だ。場所は、森から出て人に聞けば分かるかもしれない。」
グゥゥゥ~
彼女の腹がなった。顔を赤らめいる。可愛い。おおっとにやけるところだった。いけない。妹の前では厳格で、頼りになる兄を演じると決めたばかりではないか。
「では、依存はないな?」「うん…」彼女が弱々しく答える。
そうして、俺達は取り敢えず森を出ることにした。一応街道(と言ってもかなりお粗末なものだが)があったので、それに沿って進んでいる。
歩き始めて十数分、前方に火の灯りが見えてきた。やっと人に会えるのか?人だったら保護を頼もうと思いながら、俺は歩みを進めたのである。