帝国軍の侵攻
プロローグ
「陛下、一大事でございます!」そんな声が聞こえた。王の間に緊張が走るのを感じる。ここ、ライラべリ大陸の東端に位置する小国エルメザ王国は半年前から隣国の超大国オルガゼイブ帝国の侵略を受けていた。正直、国力比は比べることもおこがましいが、それでも我が国は今の今まで半年間持ちこたえていることができた。
それはなぜか?理由としては四方を山に囲まれた地政学的有利と、この国の開祖が神から賜ったものとして、代々受け継がれてきた魔導具「ツベルクリンの腕輪」の存在だった。
結論から言うと、窮地に陥った我が国を神が見捨てるはずがないのである。しかしどうも旗色が悪いように思われる。どうしたのかと聞いてみると、この国きっての参謀が、「もうだめなのぉぉぉ」と言いながら白目を剥いて失神した。そんな臣下の失態に呆れつつ、私、エルメザ王国第一王女であるクリスティナ=フォン=エリシアは意を決して父であるドム国王に提言した。
「父上、私に兵をお与え下さい。必ずや敵を撃破し、我が国の窮地を救って見せます。」
「ならぬ!!」怒号が部屋に響く。
しかし次に紡がれた言葉は弱々しいものだった。
「ツベルクリンの腕輪による結界が破られた今、帝国の侵攻を止める術はない。ここが陥落するのも時間の問題だろう。私は最期まで抵抗するつもりだが、お前にまで重荷を背負わすことはできない。」
瞬間、頭が真っ白になる。これまで幾度かの危機があったとはいえ、自信家の父がそんな弱音を吐いたことは唯の一度もなかったからだ。ここに来て、事態がどれほど深刻なのかがわかった。
「お前だけでも生き延びろ。大臣!」「はっ!」
大臣と呼ばれた男がそういうと、私の足下に大きな魔法陣が出現した。
「強く生きろ、クリスティナ」
その言葉を聞いたのを最後に私の意識は途切れた。