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えしん(旧)  作者: 松歳 夕御飯
第二章「首吊り死体事件」
9/36

苦労

前回のあらすじ

謎の館に入ると、メイドさんが歓迎(きしゅう)してくれました。

女は、そのままの勢いで右手のナイフを純に突き刺そうとする。その時動きが止まり、ナイフを落として両手で目を押さえる。声にならない叫びが聞こえる。一体何が起こったのか。一気に純は反撃に出る。首を絞める。女は気絶したようで、その場に倒れこんだ。

「・・・不可抗力ということで。」

「まあ、あっちが最初にやってきたし」

二人で女の人と戦ってしまったことに対する言い訳。

「それはそうと今何したの?」

「唾を目に入れた。」

結構えげつないことをしたもんだ。

結局なんの能力を持っていたのだろうか。彼女がフォークで突いたのは膀胱で、神経が張り巡らされていて少し刺されただけで尋常でない痛みを感じる。そのため、あれは正常な痛みでフォーク自体には何の影響も与えられてないと思うのだが、異常なのはフォークをあんな速さで正確に、バリアの隙を突いて投げてきたことである。これらに共通する超能力はなさそうだが。聞き出そうとしても、意識がなさそうである。

お腹は痛いだけなので、すぐに動けるようになった。僕らは少し罪悪感を感じながらも、館の探索を始めた。

まず、あのメイドが出てきた台所。包丁が一つだけなくなっている。

「あいつ包丁持ってやがったのか...」

まあ、そういうことになるだろう。純は台所のあたりをめぼしいものはないか物色している。僕は冷蔵庫を調べることにした。冷蔵庫を開けると、すごい量の食材が入っている。しかし何故か野菜のみ。玉葱だけでも、赤、白、黄、葉、そしてペコロスがある。そして、横を見るとさらに10個冷蔵庫が連なっていた。

次の冷蔵庫は、また野菜。

飛ばして最後の冷蔵庫を見ると、霜降り牛肉、高そうなハム、馬肉らしきもの、これは...熊肉?とりあえず、僕は冷蔵庫をそっと閉じるより他にできることはなかった。

まあ、食料に困ることは当分ないだろう。

次の部屋は、鍵が掛かっていた。そういえば、あのメイドが鍵を持っているんだろうか、と大広間を見ると、彼女は消えていた。

「縛っとけばよかったかなあ。」

純よ。紐も、括りつける所もない。

さて、どうせなので上の階も探索することにした。が、十数個の部屋のドアに全て鍵が掛かっている。三階はマンションのように横並びの構造になっている。が、全て鍵が掛かっている。四階も一緒。

ここで切り上げようと決めて五階に着いた。すると、鍵の掛かっていない大図書館への入口があった。

「でっか」

思わず口に出る。そんな大きさ。なぜなら今までに見たことのないくらい大きいからである。言い表すならば、80アールの広さ。それが上に何階もあるのが吹き抜けから見える。ネットで見た世界最大の図書館そっくりの見た目である。たしかあれの蔵書数は2082年現在で3000万とか...少し期待が高まる。図書館の入口を一歩踏み出したそのとき。

「危ない!」

反射的に全身に力を入れられるようになってきた。ちょっとすると、頭上でコツンという音がした。見ると、古錆びた重量感のある剣が水を突き抜けてバリアに刺さっている。純が水で助けてくれなかったら、バリアごと頭が串刺しになっていたかもしれない。それにしてもこの剣は一体...

「案外注意深いのね。」

吹き抜けの上から聞こえたその声は、あのメイドのものだった。

「えらく堂々と不法侵入するのね、あななたち。」

そう言われればそうだ。それよりも、

「ここお前の家?」

純と同時に言った。

「違うわ」

違うのか。

「私はいわゆるメイドってやつよ。」

・・・まあ、服装を見たら大体わかるが。

「ここはご主人様の家。それ以上侵入したら容赦しないわよ」

よくよく見ると、大きい鎌を持っている。この豪邸どんなものでもあるのだろうか。そしてご主人様という言葉を生涯で聞くとは思っていなかった。

そういえば、ここに住んでいるということは、ここはどこか、そしてここに来てから使えるようになった超能力のことは知っているのだろうか。僕が口を開く前に、純が

「待って、不法侵入する気はないんだ。通信機器を借りにきた。」

と言った。そうだった。探検をする楽しみで忘れていたが、本来の目的はそれだった。

「悪いけど内線の電話以外全部何故か壊れてて使えないの。わかったら帰ってちょうだい。」

「携帯も?」

「そうよ。」

そこに質問を挟む。

「じゃあ、僕らが使えるようになった超能力のことについてなにか知ってる?」

「知らないわ。早く帰ってくれない?」

「じゃあもう一つ。ここどこ?」

「へ?あなたたち迷子なの?ここは上近畿区緑市中部よ。」

おかしい。

「入口には緑村って書いてあったけど?」

「え?」

メイドが窓から外を見る。ずいぶん驚いた様子だった。

話がよくわからなくなってきたので、こちらの経緯を全て説明し、あちらの事情も聞いた。

整理すると、彼女の名前は佐々(さっさ) 佐美(さみ)。彼女の家系は代々ここにメイドとして就職することになっているらしく、中学に入ったころから仕事ではなく、手伝いとして仕えていたらしい。2082年10月4日、緑市のこの豪邸の主人が出かけて行ったので、主人の一人息子、要はお坊ちゃんだけを世話していたという。

十二時半、食事を済ませた後彼女は、メイドの食事の分数十枚の皿を洗っていた。この時には彼女以外のメイドがいなくなっていたという。そして扉が凄い勢いで叩かれる音がしたので、不審者かと思って僕らに有無を言わさず襲ったという。そして今、周りの景色を確認すると見たことのない景色があったという。

つまり、彼女は家ごとここに連れてこられたということだ。彼女も緑市から連れてこられた。しかし、彼女以外のメイドは連れて来られなかった。僕や、純、夜鬼、そして彼女、その他の人々の共通点はなんだろうか。

「確か円方は十三歳だったし、同じ年っていうのではないと思うんだけど」

「いやちょっと捻って同学年っていうのじゃないの?佐々さん何歳?」

「十四歳だけど。」

「確かに」

純は勉強はそんなに得意でないらしいが、推理とか得意な方だと思う。

ここに連れて来られたのは、緑市にいた、中学二年生の人か。しかし、どういう目的があってこの条件にあてはまる人を連れてきたのか全くわからない。

「ちょっと待って」

と純が言う。

「今の話だとおかしいところがある。」

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