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えしん(旧)  作者: 松歳 夕御飯
第一章「コンビニのパンから始まる」
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朝霧

2082年10月4日13時0分0秒。

ある少年が赤く薄汚れた押しボタンを押すと、世界が一瞬のうちに炎に包まれた。


















時は数刻戻り、上近畿区緑市。

ある少年は思案していた。

-----昼ごはんにどのパンを買うべきか-----

*****

原樫 誠司 はらかし せいじ

14歳。

近くの学校で科学を利用した出し物を出す行事が行われると聞き、友人6人誘ってきたまではいいが、実際にどんなものが立ち並んでいるかを見ると、彼が知っている出し物ばかりであった。彼はあまり目立ちはしないものの、いわゆる天才と呼ばれる存在だった。彼の友人にも馬鹿はあまりいない。ペットボトルロケットは今年自由研究で特集したばかりで、手作りモーターは小学校の時にやっていた。パラボラ、特殊繊維、指紋検出は10歳の時に仕組みを理解しきった。有名校と謳われる大学の出し物も比重を利用しただけの砂金集めだと評しながらも砂金がもらえたので少しは楽しんだ。彼が一番興味を寄せていた母校の出し物がちゃっちい弾力を利用したおもちゃで、楽しみにしていた行事に幻滅したのである。当然、知っているものを二度楽しむことは難しく、彼らは「こんなの初めて見た」と驚いている2人を差し置いて解散したのだ。

*****

帰り道で、家の方向が同じ友人に引き止められ、丁度良い機会なのでゲームセンターで遊ばないかと誘われた。元々夕方に帰る予定であったので、予定が無く、暇だった。僕は行くと即答した。コンビニに着いた。そういえば自分は何円持っていたかと財布の中身を確認すると、1000円札1枚と100円玉1枚10円玉1枚1円玉3枚とぐちゃぐちゃになったレシート4枚。

1113円。

ゲームセンターは入場すれば一時間いくらでも遊び放題なのだが、それで1000円かかる。すると昼ごはん代に113円。消費税抜きで100円、つまり110円のものを買うと3円しかお釣りが来ない。安さに定評のあるガリンコちゃんアイスでも消費税込で66円である。

つまり


一つしか買えない。


幸い、そのコンビニはパン全品100円(税抜き)キャンペーンを実施していた。ならばパンを買うしかないと考えたのだが種類が多い。キャンペーンのせいで二倍増しで60種類。

昼ごはんにどのパンを買うべきか

それで僕は深く悩んでいた。

一瞬一旦帰ればよいのでは?という妙案が浮かんだが、友人を待たせることを考えると良い案とは言えない。そうだ、お金借りればいいんじゃないか?と考えた僕だったが、


*****先程*****

「お前の鞄ペコペコだな」

「あ、うん。弁当と水筒と電車用のKIPPUカードしか持ってないからね。」

************


・・・駄目だ。しかも後ろから

「早く決めてよ」と急がせる。非常に厳しい状況である。

とりあえず、一つしか買えないのであれば量で選んだらいいだろう。

原樫は定期テストの数学の問題を解く以上に頭を回転させていた。

*****

原樫はいわゆる天才である。学校で社会科の問題を解く分には残念な原樫だが、ネットで見た膨大な知識をその脳に蓄積している。

*****

インターネット上で見たコラムにたしかこのコンビニの一番重いパンが載っていた。

10位がたまごサンドで9位はチキンサンド、8位はプレミアムパン7位はたまごサンド(大)6位がチョベリグパン5位がガツンパン4位がデカエッグパン3位が爆弾パン2位が豪班。そして1位が...

や...や...

やそきばパン!!

違うやきそばパンだ!!

ここのコンビニのやきそばパンだけ桁違いの大きさと重さをもっている。

「どこだやきそばパン!!」

僕は心の中でそう叫んだ。
















盛り盛り焼きそばパン、100円(税抜き)300グラム。売り切れていた。ネットの力は恐ろしいとつくづく感じた。友人が眉をひそめている。急がねば。最終手段である。目をつぶって一周回る。そして目をつぶったまま指を指して決めた。

・・・・・









ゲームセンターに着いた。

「思い切ったね...」

苦笑いで友人が言う。

目をつぶる前にどこからどこにパンが並んでいるか把握すべきだった。選んだものは弁当だったのだが、元から安かった。昔懐かし日の丸弁当(税込100円)。当然変えたかったのだが、友人のこれ以上待てないという強い気迫といらぬ「友人さん急いでるっぽいしここは手っ取り早く会計を済ましてあげよう」という店員の配慮によって買ってしまった。後悔している。


ゲームセンターの横に休憩所(飲食オーケー!)と書かれた看板のあるところで食べることにした。すると突然友人が

「あっ」

と言った。友人の弁当に目をやると、中身がもぬけの殻だった。どうやら中身が入っていないお弁当箱を間違えて持ってきてしまったようだ。

「やっぱ解散で...」

そういった友人を少し殴りたい衝動に駆られたが、元々自分がお金を持っていなかったせいでこんな状況になった上に、日の丸弁当だけではゲームをする元気が出ないだろうと考えた僕は、おとなしく承諾した。



虚しい気分と共に、この日の丸弁当をどうしようか考えた。ぼーっと空を見ていると、左のほうが明るく光った気がした。いや光っている。なんだと思い左を見ると、真後ろから聞き慣れたサイレンの音が聞こえる。かなり大きく。車のクラクションじゃないかという条件反射で振り向くと、赤いスポーツカーが目の前に見えた。いつのまにか道路を歩いていたようだ。今日思ったこととコンビニのパンの陳列の仕方が頭をよぎる。

(轢かれて死ぬのか...)

そう悟った。

目の前が真っ白になり、意識を失った

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