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ビデオテープ

作者: 森野いづみ

 毎日、夜を回るとポストにビデオテープが投函されている。そのテープには自分でも思い出せないような昔々の黒歴史が収録されている。


 物心ついた頃から始まり、今では小学校高学年時の黒歴史。テープの数は60を超えている。始めこそ客観的に映される嘗ての過ちに頭を抱えていたが、一週間も過ぎる頃には、今とは違う愛らしい自分の可愛らしい失態を微笑ましい気分で見つめられるようになっていた。


 三か月が過ぎた。テープは90枚を超える。画面の中の自分はぶかぶかの学ランを着こんでいた。中学の3年間。自分はどんな学生生活を送って来ただろう。映されるのは嘗ての失敗ばかり。なのに、どうしてか気持ちは不思議と穏やかだった。


 九か月が過ぎる。テープは部屋を埋め尽くしている。今日も古い自分を画面の外から見守り続ける。高校時代。大学時代。黒歴史は積み重なっていく。思えば、失敗ばかりの人生だった。忘れてしまったことも。覚えていることも。人生とは過ちを重ねて生きることだ。生きている限り、人間は間違い続ける。間違っているから人間なのだ。


 テープが来るようになってから一年。画面の中の自分は、今と殆ど変らない姿になっていた。この頃になると覚えていない記憶の方が少ないくらい。最初こそ不気味に思えたテープだったが、終わりが近いと思うと名残惜しい。


 カタカタと音を立てて、デッキは記憶テープを読みとっていく。過去の失敗。古い失態。思い出すほどにくだらないことばかりで、世界の終わりだと思えた当時も、今の自分と比べると余程真っ当だった。映像も終盤。最後に移った画面には、テープの積み重なった部屋の中で黙々と画面を見続ける自分の姿。


 なるほど。思わず苦笑する。ああ、これは確かに黒歴史だ。何時までも古い感傷に浸って、みっともないったらありゃしない。埃の被った部屋を掻きわけ、廊下に貼ったゴミの収集日を確認する。燃えないごみの日は明日だった。加えて、ポストには無理やり突っ込んだゴミ袋。


 積み重ねたテープを、丁寧にゴミ袋に入れていく。最悪だと思っていた記憶も、今となっては大切な思い出だ。覚えていたこと、忘れてしまったこと。全て胸の内にしまいこんで、大切に縛り込む。抱えて外に出てみれば、夜の空は普段よりも少しだけ綺麗だった。


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