第一印象
※リューネリア視点です。
苦手な類かもしれない、と思った。
噂どおり、その顔立ちは目を惹きつけずにはいられないほど麗しく、黄金の髪も湖のような瞳も、人好きのする表情もどこか甘さを含んでいるように見える。立ち振る舞いも堂々としたもので、隙は見当たらない。
休戦の条件に取り交わされた婚約とはいえ、これが仕事だと思えばすでに諦めもついていた。むしろこれで戦争が落ち着くのだと思えばそれこそ本望だった。だからといって、そこに自己犠牲を感じているのではない。所詮、王女という身分は望む相手と結婚できるわけではない。必ず自らの結婚に「政略」という言葉がつくのであれば、国のためになったと思える方が余程いい。ちなみに婚約者候補は何人かいたが、望む相手となり得るには時間がなく、そう思える者は生憎いなかったが……。
目の前までやってきた婚約者に流れるような仕草で手を差し出され、それに応えるべく右手を差し出す。挨拶代わりに手の甲に口づけを落とされたそれをどこか他人事のように冷めた眼差しで見つめてしまった。
長旅を労う台詞や、歓迎の意を伝える言葉に、笑みを浮かべて答えたが、微妙な表情になっていなかったかが心配だ。
この結婚を他人事のように思えるのも、単に自分が人質だからだと思っているせいかもしれない。
そう、人質扱いを覚悟しているから婚姻の儀が済んだなら、ニーナ以外の侍女たちをパルミディアに帰らすことにした。本当ならニーナも彼女たちと共に帰ってくれることを願っていたのだが、とうとう最後まで首を縦に振らなかった。だが、結局それを承知してしまったのも、心の奥底に不安を感じていたからだ。リューネリアの側にいるということがニーナにとってどれほど苦渋に満ちた人生になるかもしれないと予測がついていたとしても、一度決めてしまったことは取り消せなかった。
こちらも形だけは一辺倒な挨拶を返し、初対面は終了した。
それから一週間――婚約者と再会することはなかった……。
「ウィルフレッド様……もういい加減にして下さい!」
なぜかウィルフレッドの膝の上に座らされ、身体にまわった腕を引き剥がそうと、リューネリアは真っ赤になって腕の持ち主を睨む。
「なにも照れなくても」
「照れているのではありません!必要性を感じないだけです!」
どうしてお茶をするだけなのに、このような状態にならなければならないのか。リューネリアはため息をついた。
人質覚悟でやってきたヴェルセシュカだったが、現在の生活は思いのほか悪くはなかった。ウィルフレッドと早々に協力関係を結べたことは上出来だろう。
だが、どんなことにも悩みはつきものだ。そして、それはリューネリアが最初に感じた印象が決して外れていなかったことを思い知る。
「ネリー……」
呼ばれる名前の甘さに、内心悲鳴を上げた。
この甘さはいつまでたっても慣れない。リューネリアにとって、どんな難題よりも難解で、最大にして最上の苦手な類である。