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二人の距離と温度差~元恋人の証言~

※第13話(愛称で呼ぶようになった経緯)の裏話になります。今回はコーデリア視点です。

 わたくしの敬愛するネリア様とその夫でもあるウィルフレッド殿下は、結婚してから一月が経とうというのにどこかよそよそしい。

 確かに二人は政略結婚ですけど、王族や貴族であればそれが普通でしょう。現にわたくしもそうでしたもの。

 ですけど、ウィルフレッド殿下の態度はどんな女性に接する時でも、とても丁寧で優しく、どうしたらそんなにすぐに親密な関係になれるのかしらと不思議に思えるほどですのに、今回ばかりは少し違う気がしますの。人前での触れ合いなど、過度に感じてしまうほどですけど、いつも以上に気を使い、大切にしているのがすぐに分かりましたわ。その点は好ましいのですけど、それでも何かがいつもと違っている気がするのはどうしてなのでしょう。

 一方、ネリア様も、ウィルフレッド殿下の過剰な触れ合いをとても恥ずかしがっていらっしゃる。パルミディアとヴェルセシュカの国の違いと言えばそれまでなのでしょうけど、結婚して一月も経つと言うのに今更というような気もしますわよね。でも、その初々しさが可愛らしいといえば可愛らしいのですけど……。

 

 あらイヤだわ。もしかして殿下もそう思っていらっしゃるのかしら。


 ――……ふふ、失礼しましたわ。話がそれてしましたわね。久しぶりにウィルフレッド殿下と血のつながりがあることを思い出してしまいましたわ。


 ……それでなのですけど。

 わたくし――、気づいてしまったのです。

 二人の間の何がおかしいのかを……。



 あれは少し前の事でしたわ。わたくしたち三人――わたくしとソーウェル侯爵令嬢ロレイン様と、ヴァーノン子爵夫人ビアンカ様――は、よくネリア様とちょっとしたお茶会を兼ねて情報交換をすることにしておりますのよ。わたくしとロレイン様は議会関係の情報を、ビアンカ様は市場の噂をいち早く取ってきてくださいますの。そこでお互いの情報をもとにネリア様にこのヴェルセシュカの良さを知っていただき、戦争などに頼らずに国を良くしていただくのが表向きの目的ですの。

 ――あら、また余計なことを話してしまいましたわね。今聞いたことは内緒ですわよ?


 ですけど、わたくしたちはネリア様が本当に好きなのですよ。婚約する前はあんなにも浮名を流していたあのウィルフレッド殿下が――はっきり言って従弟であることが迷惑でしたわ。だってわたくしにも少しですけど同じ血が流れているのですもの。軽く見られてしまいますでしょう?――結婚した途端、人が変わったようになられたのには驚きましたけど。それもネリア様のおかげでしょう。情報提供のために名前だけの恋人という役目を仰せつかってはおりましたけど、実際、噂の域を出てはおりませんでしたし。ですから、ネリア様が浮気を認めていると聞いた時、少しだけですけど殿下がお可哀想になってしまいましたの。未だにご本人も気づいていないようですから、しばらくは傍観させていただきますけど、少しぐらいのお節介は構わないでしょう?


 そのお茶会に珍しく殿下がいらっしゃいましたの。

 ネリア様も殿下がいらっしゃることを御存じなかったようでしたけど、別段迷惑がっていらっしゃる様子はありませんでしたわ。もちろん、わたくしたちも今更殿下に緊張などしませんから構いませんでしたわ。

 え、傍から見たら泥沼状態ですって?

 本妻と恋人達に囲まれた旦那さん――……って殿下のことですわよね?

 あら、邪魔者は最初から殿下ですもの。泥沼になりようがございませわ。

 ええ、もちろん和やかにお茶会は再開されましたわ。

 ですけど――わたしたち、気づいてしまったのです。別に三人で示し合せたわけではなかったのですわよ。ですけど、わたしたちがネリア様の名前を口にする度、殿下の表情が曇ってしまいますの。誰が最初に気づいたのか……。わたくしたち、とにかくネリア様に話しかける度にネリア様とお呼びしましたのよ。

 ……別に嫌がらせではございませんわ。殿下もネリア様を愛称で呼びたければ呼べばよろしいだけでしょう?難しいことではないですもの。

 ええ、しばらくして殿下は執務に戻っていかれましたけど、お顔は曇ったままでしたわ。あの、麗しいお顔がですわよ。たったこれだけのことで気落ちするなんて、殿下には申し訳ありませんが、わたくしたち勝った気分でしたわ。


 ええ、そうなのです。

 話は最初に戻りますけど、二人に感じていたよそよそしさの正体はこれだったのです。

 ネリア様は別に名前のことなど気にもとめていらっしゃらなかったのですけど、殿下は気にしていらした。言いかえると、ネリア様は殿下にどう呼ばれようと気にしないほど殿下のことを気にとめていない。一方殿下は、ネリア様のことを自分よりも先に愛称で呼んでいるわたしくしたちに出し抜かれ、かなりの衝撃を受けていらしたわ。

 二人の間にあるこの温度差――。

 これが二人の心の距離で、きっとあのよそよそしさにつながるのでしょうね。


 え、何ですって?

 嬉しそう?

 

 もちろんですわ。ネリア様にとって、わたくしたちがヴェルセシュカで一番であることが、たとえ一時のことであろうとも、誇りであり、わたくしたちの未来の……いえ、本来の目的ですもの。

 当然、二人のことは応援しておりましてよ?殿下がいつ御自分のお気持ちに気づかれるか。ネリア様がいつ殿下のお気持ちに気づかれるか……。それはそれで楽しみというものでしょう?


 ああ、それと。

 殿下がそれ以降、ネリア様をとても親しげに呼ばれているのですって?


 ほら、少しはわたくしたちのお節介も役に立つことがあるでしょう?


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