願わくは……
※ウィルフレッド視点です。
第2章後半にかけての真夜中の出来事。
ザクスリュム領での事件の処理は、日中は村の被害及び復興状況、日が暮れてからはエリアスと連日深夜にまでおよび報告書類の作成にあたっている。
時々、ロレインやバレンティナから彼女の様子を聞いていたが、日々不満が募っているのも知っていた。
深夜。
眠る彼女の部屋を訪れるのが日々の日課になりつつある。
扉の側に控えるロレインとバレンティナに異常がないかを問い、その扉を静かに潜る。
広い寝台の端に腰を下ろし、彼女の頬を手の甲で撫でるが、深い眠りに落ちているのだろう。ピクリとも動かず、静かな寝息だけが聞こえる。
本当は、いつものように隣で休みたい。腕の中にずっと抱きしめておきたい。だが、今は無理だった。自分の感情を押しつけてしまいそうで、側にいることも難しい。恋情というものがこんなにも自分の思い通りにならないものだとは知らなかった。
眠っているリューネリアを眺めていると、彼女の眉間に皺が寄った。
そして何事か呟いていると思ったら、
「――ウィルフレッドさまの……わからずや……」
かわいい寝言に、内容が非難にも関わらず、思わず笑みが浮かんでしまう。
夢の中でもどうやら自分は責められる立場にいるらしい。それでも、夢の中に現れるほど彼女の生活の中の一部を占める存在になっていると自惚れてもいいのだろうか。
「すまない」
苦笑しながら瞼に口づけを落とす。
それが聞こえたのかどうか。再び穏やかな表情に戻る。
ああ、限界だなと思いながら、今は彼女から離れる。
この瞬間、いつも思う。
いつか彼女を手に入れることができるのだろうか。その時、自分は狂気に満ちていないだろうか、と。
彼女の部屋から出て、扉の側に控える二人に後の事を頼む。
今はまだ、先の事は分からない。だが、願わくは彼女もこの手を取ってくれることを、今はただ祈るしかない。