第2話 初配信
「はいはーい、初めまして。久藤リュースケです。よろしくー」
【初配信】バーチャル討伐者ライバー、久藤です【物作り自慢します】
視聴者:乙乙
視聴者:声はフツーにいいな
視聴者:悪くはない
視聴者:初めましてー!
配信を開始して5分。視聴者は数百人くらい。
まあ、滑り出しとしては順調かなぁと思いながら淡々と遊月は自己紹介をする。個人勢で初配信がこれくらいなら良い方良い方と自分を納得させながら、話を続ける。
「んー、俺が話下手なのもあるかもしんないけど、あんまり盛り上がらんね」
「あ、妻と子ども達は基本、配信にも実況にも出ないのでご承知を。お上先生はたまーにコラボするかもしれんけどね」
「俺の経歴に関しては色々、皆気になるかもしれないけどまあ、そういうものだと思って。一応、リアルでも討伐者なので頭の中に入れておいてくれ」
視聴者:ライバーあるまじき話下手。俺でなきゃ見逃しちゃうね
視聴者:ガチ討伐者ならもうちょい上手くあれ
視聴者:嘘乙。さらりと嘘つくなし
視聴者:盛り上がらんね。でもスムーズなのは悪くない。
視聴者:モーションがヌルヌル動いてんのすご。流石お上先生
下手ですまんねと内心、遊月は謝った。元々、話すのはあまり得意ではなかった。だからこそ、感情も抑え気味の話し方になってしまっていた。討伐者は感情豊かな人間達が多いため、遊月は珍しいタイプの人間だった。まあ、だからこそ、交渉役としてよく、押し出されることが多かった。
「……あー、そうだな。んー、話すことなくなったし、作ったやつ自慢するよ。まあ、俺が作ったやつだから知ってる人達もいるとは思うけど、そういう人は俺の実名を言わないこと。広めないこと」
「知らない人達がリアルの俺が誰かっていう推測するときに俺の実名が出るのは全然、問題ないから。ま、知らない人達が話してるから、そりゃそうなんだけど」
「作ったやつは呟きったーの方に写真投稿するから気になる人は見てくれ」
遊月は話をしながら、呟きったーに一枚の写真を投稿する。今回投稿した写真に載っている、彼が作った「もの」は現在、持ち主がいる「もの」だった。遊月が作り、所持している人間がいる「もの」。何故、「それ」を作り主である彼が持っているかと言えば、持ち主から整備を頼まれたからだった。
なお、現物は配信中の今、自宅の敷地内に建てた工房の一画にて厳重に管理されていた。それもそうだ。「それ」の持ち主は国内外問わず有名な戦闘狂の討伐者なのだから。
視聴者:お、とうとう来たか
視聴者:呟きったーのアカウントって「久藤リュースケ@現役バーチャルライバー討伐者」ってやつか
視聴者:ワクワク
視聴者:これ、何?
視聴者:見に行ったけど、これ木刀?
視聴者:ただの木刀じゃね?
視聴者:やっぱ討伐者の真似事か
視聴者:クトーさん、これ何すか?
呟きったーで写真を見た視聴者達が配信に戻ってくる。遊月は呟きったーに投稿した写真のポストを確認する。
順調にスプレッドしていってるな、と内心ニマニマする。ナイスも1,000件溜まっているのが見て取れた。視聴者数より多いのは投稿された写真の「それ」が何か分かった一部の討伐者達が反応したのだろうと察することができた。
視聴者:待て待て待て待て待て待て。久藤さん待って!!
視聴者:うっっっっっっそだろ?!?!?!?え、これマジで表に出して良いんすか?!?!
視聴者:ちょ、あれ?これ、アラシアのやつッスよね?!オレこれ、討伐者っスけど、実物見たことあるっスよ!
「お、ちょくちょくこれが何なのか気付いている人がいるな。ま、そりゃいて当然か。討伐者なら知ってる人多いやつですからね」
遊月は「それ」が何かを知っている視聴者兼討伐者であろう者達のコメントと、討伐者オタクらしき者達のコメントを見つけ、苦笑する。
分かる奴は分かるよな、と。
「写真に写っているのは「木刀」です。皆の目に狂いはないです。銘は「清光龍刀」。アラシア・マーレンが持ち主の武器です。知らない人向けに説明するとアラシアは数年前のサイクロプスの大規模襲撃を退けたで話題の「あの彼女」です」
写真に写っていたのは一本の「木刀」だった。茎に墨で書かれている銘は「清光龍刀」。さらに銘の下部には右翼が赤く、左翼が青い、翼が彫られていた。
全長は110cm、いや、120cmはあろうか。茎は30cmほど、上身は90cmほどはあろうかというほどに大きな木刀。見るだけで1kgはありそうな重量感。質感は写真から見るだけでも、明らかに普通の木から作られた木刀にしか見えないものがそこには映っていた。
「清光龍刀は振れば風が吹き荒れ、特定人物が持つと清龍もしくは光龍が召喚されます。これに関しては特定人物はアラシアになるように設定した」
「いや、アラシアに「私にしか扱えない武器が欲しい!!」って言われたから作ったけど、今考えると性能バグってるよな」
視聴者:そういえば呟きったーでアラシアが清光龍刀を作り手に渡したって言ってなかった?
視聴者:……
【公式】アラちん:おもろ
視聴者:見てくる
視聴者:……ええぇ
視聴者:うっわガチだ。これ、マジ映していいのかよ。
視聴者:ってか、アラシア、スプレッドしてる……
視聴者:ひぇ
視聴者:ぎゃっ!!
視聴者:目が、目が……!!
さも、久藤リュースケの中の人が作ったかのような、いや、実際、遊月翼が清光龍刀を作った事実は変えられないが、視聴者からすれば久藤リュースケの中の人が本当に作った者しか知らないような説明をするためにその場は約二名を除いて、混乱が続く。
そして、コメント欄を見ていた遊月は見つけてしまった。そのチャンネル名を知っているからこそ、気付いた。
「あれ、コメント欄にアラシアいる?」
「【公式】アラちん」、つまり、アラシア・マーレン、その人がコメント欄にいることに。
モブ底辺討伐者:おい、ごらぁ!!!アラちん、お前、アラシアやろ!!
視聴者:おる……
視聴者:ヒェ
視聴者:神配信……
視聴者:同業者がキレとる
視聴者:封印指定配信だろ、これ。ヤバすぎ。
視聴者:アウトアウトアウト!!
「おーおー、人の配信で喧嘩すんなよ。アラシアも人の配信荒らすな。ま、来てくれたことには礼を言うわ」
「来てくれて、ありがとな。あと、これ映す許可もあんがと」
文字だけでも元気いっぱいなアラシア・マーレンその人に遊月は苦笑いを浮かべる。久藤リュースケの表情も、それに釣られて苦笑いになった。
その表情から、二人が切っても切れない仲だと誰もが悟った。
【公式】アラちん:いいっていいって!ってか、やってるねー!整備は完璧にお願いねー!
視聴者:アラシアがフレンドリーしとる
視聴者:戦闘狂が可愛く見えちゃう
視聴者:オランダ官邸気付けー!止めろ!
視聴者:整備頼むのはマジじゃん
【公式】アラちん:じゃねばい!
呆れるほどに明るく、煩く、消えたアラシア。
遊月がチラリと視聴者数を見れば、5000人を超えていた。アラシア、配信スプレッドしたなと呟きったーにも目を通せば、アラシア以外にも覚えのある討伐者達がスプレッドをしていた。
予想外のアラシアの影響力に乾いた笑いが漏れた。
視聴者:……なんじゃ、この配信は!!
視聴者:ヤバすぎ
視聴者:ヤラセ、やろ……?
視聴者:ありえんありえんありえんありえん
視聴者:コメント欄発狂してて草
「あいつ荒らすだけ荒らしやがって」
「……あー、ま、一回目はこんな感じで。以降、似た感じでやりまーす。またねー」
あ、これガチだと阿鼻叫喚のなかで誰もが察したところで久藤リュースケによる第一回配信は終えた。
呟きったーに載せておいた配信ポストを遊月が配信直後に確認したところ、スプレッドは38万件、ナイスは45万件に増加していた。「清光龍刀」の写真のポストは40万スプレッド、ナイスは102万件にまで達していた。




