伝書鳩は往復しない
人身売買のシンジケート。
浩宇の話、聞いたことある。そういった場合の村娘は村1番のミス村娘。可愛い子を探す手間が省けるとか。でもって、人身売買のシンジケートは可愛い子をタダで手に入れられてオイシイって。
「うーん。央の国では人身売買が認められている。シンジケートを罪に問えない」
私も昔、売られるところだったんだよね。
間髪入れずに「では」と浩宇が次の提案をする。
「現在、タバコが流行っています。これにアヘンが混入しているものがあると実しやかに囁かれています。これを放置すべきではないと考えますが、これについて何かアクションを起こすことはできないでしょうか」
「古くから、アヘンは薬として使われてきた。そのときは西から陸路で来ていたわけだが、最近はどうも海からのようだ。私も小耳に挟んで気にはなっている。が、まだ実態が分からないから、第二皇子に手柄を立てさせる見通しがつかない」
そういえば、最近、タバコ流行ってるかも。舶来物なんだよね。
「では、諜報活動に性接待を使っている不届者がいるという件はどうでしょう」
「それは認知している。性接待を受けて情報流出させている側じゃなく、央の国は、もてなして情報を得る側。不届きではない。無問題」
へー。いーんだ。
「先月、某名家が取り潰された件は冤罪だと思います。それに関して、陰謀を暴くのはどうでしょう」
浩宇の言葉を聞いた朱氏様は声を落とした。
「ここだけの話、あれは第一側室の一族の陰謀だ。暴いてはいけない」
でかい一族って、悪いことやってんだね。
私も1つ言ってみよ。
「はい。先日の、北の国境で将軍が敵と内通していた問題をもう少し調べるのはどうでしょう。伝書鳩が届いたのは戦が終わった後です。まだ央の国とやりとりしていた人間は敵に残っています」
気になってるんだよね。実は。
「それが、動けなくなってしまった。どうも内通していた将軍は皇后様の一族らしい。これ以上、ことを荒立てることができない」
こっちは皇后様一族。
そして浩宇。
「では、政府の掲示板を見ていて思うのですが、事実を述べるというより、若干、情報操作をしている気がします。その点を詳らかにするのはどうでしょう」
「それは、政府の意向だ。第二皇子では官僚に太刀打ちできない」
なんか、政府って素直に信じちゃダメみたいじゃん。
「では、輸入制限をしているのに、実は密輸によって利益を得ている者がいるようですが」
浩宇の言葉に、今度は朱氏様が顔色を変えた。
「それだけは触れてはいけない。二度と口に出すな」
あら? 聞いてみよ。
「第一側室のご実家が絡んでいるのですか?」
「違う。もっと上だ」
「では皇后様が絡んでいるのですか?」
「いや。もっと上」
「皇太后様?」
「もっと」
皇帝しかいないじゃん。口に出せない。
そして3人とも口を噤み、静かにお茶を飲む。ふー。間。
コンコン
玄関で来客を知らせるノック音がした。浩宇が席を立ち、しばらくするとドタドタと足音が部屋に近づいてくる。現れたのは第二皇子。
玄関で出迎えたのに押し除けられて挨拶の機会を逃した浩宇と、朱氏様と私で丁寧にご挨拶する。
「「「第二皇子にご挨拶申し上げます」」」
「ひどいよ。僕のことを僕抜きで話すなんて」
朱氏様はにこやかに言い訳した。
「吟味してから話をお伝えしようと考えておりました」
確かに吟味が必要。ここだけの話や第二皇子には太刀打ちできない話など、盛りだくさんな上、どれもボツ。
「僕が何かするって話だろ?」
「はい」
「じゃさ、僕、やりたいことある」
「何でしょう」
「蹴球大会」
第二皇子はめちゃくちゃ無邪気に破顔した。
「「「蹴球大会?」」」
「そう! 僕、駐屯地でやったら楽しかったんだ。あれ、いーよ」
はああ?! そんなことして遊んでたの? 秒で拐われるはず。武術のウオーミングアップくらいしておいてよ。
第二皇子は嬉しそうに続ける。
「身分とか関係なく、同じチームで1つになってボールをパスで繋いでゴールを目指す。僕、ハイタッチとか人と抱き合って飛び跳ねるなんて初めての経験で、すっごく楽しかったんだ」
それは、接待サッカーだったからでは……。
「だからさ、一族や身分や階級の垣根なしでチーム作って、ほら、宮廷前の広場で試合するのはどう?」
宮廷前広場といえば、皇帝に関する行事で使用したり、政治犯を処刑したり、戦の決起集会を行う場所。あまりに奇想天外で言葉が出ない。そーゆーのじゃなくて、社会的な問題を解決する案を出してたのに。主に浩宇が。
一蹴されると思ってたの。そしたら朱氏様は立ったまま恭しく頭を下げた。
「さすが第二皇子。素晴らしい案でございます。さっそく検討しましょう。賞品は米や小麦がよろしいかと」
決定。
ちょっと朱氏様の忖度が過ぎるんじゃないだろーか。それとも、これが出世するお手本なんだろーか。
◇
ぼへ〜
「瑞、どうかしたの?」
心ここにあらずで空を眺めていると、ご主人であるラブリー春香妃に声をかけられた。
「申し訳ありません、春香妃。とても平和で花々が美しく、こちらは天国のような場所でございます」
サイコーの職場。つい気が緩んじゃった。
クルックー クルックー クルックー
「くるる、くるる」
春香妃は最近、鳩がお気に入り。第二皇子が北の国境の駐屯地から持ち帰った鳩。「くるる」って名前をつけて、ご夫婦で可愛がってる。
せっかく鳩を敵との内通の証拠として持ち帰ったのに、調査は打ち切り。第二皇子は鳩を幼妻にプレゼントした。第一側室が言ってたっけ、第二皇子は優しいって。あのままだったら、鳩は証拠物品として餓死しようがどうなろうが倉庫行き。第二皇子は鳩を春香妃にあげた。
「瑞、殿下は素晴らしいわ。1人で敵陣の捕虜を救ったのよね」
12歳の春香妃は、夫の第二皇子が顔だけ男であることを知らない。妓楼通いも知らなければ、鼻水を垂らして泣く姿を見たこともない。
「素晴らしいですね。敵陣は撤退したそうです」
そう付け加えると、春香妃は黙ってしまった。
「私、殿下が、たとえ敵であっても人を殺めるとは思えないの」
「……」
「殿下はとても優しくて、敵の兵士達のことまで『争うなど不本意だろう』って心を痛めていらっしゃる。あのころ、瑞、休暇中だったわよね?」
ぎっくーん
12歳にして女の勘?
「はい。突然体調を崩し、ご迷惑をおかけしました」
「ううん。それはいいの。ただね、殿下が私に鳩をくださった。だから、鳩に関しては、本当に殿下のお力なんだろうって思う」
「……」
「殿下はね、伝書鳩で密書のやりとりをしていたなら央の国の方は単独犯って、安心していらした。でも」
「でも? 単独犯じゃないのですか?」
「鳩を訓練した者、あるいは敵陣営に運んだ者が央の国の駐屯地にいるでしょう。将軍以外に」
春香妃は説明してくれた。
鳩の帰巣本能を使って、伝書鳩にする。どこかからある地点に帰ってくる。駐屯地には巣があった。どこから鳩を飛ばしても駐屯地へ帰ってくる。
訓練すると、鳩は2つの場所を行ったり来たりするようになる。その場合、まず、最初の拠点が巣となる。次に、もう1つの拠点に餌や雌を置いて、何度も往復させて訓練する。だから、もう1つの拠点に繰り返し運んで訓練する者が必要になる。駐屯地に滞在し続ける将軍がこれを行うことはできない。
そして、敵陣営は戦の前にできた。訓練が必要な2拠点目が移動しては、鳩は覚えられない。
「伝書鳩って、基本は片道なのですね」
「そうなの。きっと、駐屯地にまだ伝令をしていた者が残っています。それに、移動した敵陣営から密書が届いたから、敵にも内通者が残っています」
敵に内通者が残っていることは軍でも把握してる。駐屯地側はNO。
「このことを第二皇子には?」
春香妃は首を横に振った。
「訳あって将軍はひっそりと処刑されました。殿下は内通者がいなかったことに安心しておられます。なので」
ラブリー春香妃は、12歳にして第二皇子の理解者だった。




