賢皇子プロジェクト
第二皇子奪還の報酬は、銀500だった。ビビった。5~6年は遊んで暮らせる。
「瑞様、素晴らしいわ。あのバカ息子に輝くような武功を立てさせるなんて。瑞様のことを内密に上層部に伝えて、出世させましょう。聞けば敵のパハンという男、相当な大物。敵陣営を壊滅させるなんて。女将軍も夢じゃないわ。ああ、瑞様が鎧をまとって大草原で軍を指揮する姿、素敵すぎる。ファンクラブだけじゃなく、もっと多くの人達に見てもらいたいわ」
第一側室は妄想を炸裂させる。
「それはご遠慮願います。平穏に過ごすことが私の望みです」
やっと都のラブリー春香妃の護衛に戻って来れたのに。北の国境での真実なんて上に知られたら、どんな危険なとこに行かされるか分かったもんじゃない。駐屯地とか戦場って不便なんだってば。私の望みは、温っかい家庭を持つこと。そのために今のうちに稼いでおくだけってスタンスなの。
「それでね」
「はい」
「瑞様にも参加して欲しいプロジェクトがあるの」
「ぷろじぇくと」
「息子をなんとかする」
「……」
「ほら、あの子、21歳なの。お嫁さんもいるし、本当だったら、もう、地方の領地へ行ってる歳なのよ」
通常、皇帝の後継である第一皇子以外の皇子は、20歳になると地方の領地の宮廷で暮らす。政治は官僚がするので、地方の皇子の仕事は皇帝の威厳を見せつけるような雅〜な生活を送ること。第二皇子が未だに都にいるのは、素行が悪いからと言われてる。
ただ、まことしやかに囁かれている噂もある。実は第二皇子こそが、第一皇子よりも先に生まれた皇位継承者だって。第一皇子と第二皇子が生まれたのは奇しくも同じ日。第一皇子が昼前、第二皇子が昼過ぎ。
「本当は第二皇子はもっと早く生まれていた」「夜明けに産声が聞こえた」と話した侍女はいつの間にか消えたらしい。
皇帝が第二皇子を未だ都に置いているのは、第二皇子が真の後継者だとご存じだからではという話は、ホラー的な都市伝説として……笑い話になってる。
そりゃ笑い話でしょー。宮廷を抜け出して妓楼通い。遊女にフラれて泣いてスキャンダル。戦場でも鼻水垂らして泣いてたっけ。あんなのが皇帝になって、央の国のトップに立つなんてホラー。いくら官僚が優秀でも、方針や
決定権は皇帝だもん。
「息子はね、やればできる子だと思うの」
「……」
いやー。親バカ。
「第一皇子が優秀すぎて、ちょっと見劣りするだけ。いい子なのよ。優しくて、素朴で」
「……」
「ちょっと」? 「素朴」って皇子に必要? 宮廷抜け出すド不良です。妓楼で遊ぶチャラ男です。顔はもう国が傾くんじゃないかってくらいの美形だけど。
「せめて、第一皇子と肩を並べる、、、そこまでは無理でも、半身後ろくらいで走ってほしいわけ」
「……」
たとえがマラソン。
第一皇子は、それはそれは品行方正。誠実さと気高さに溢れてる感じの人。侍女達から噂を聞く。みんなメロメロ。勤勉で人柄も素晴らしいって。家庭教師的な学士達が口を揃えて、歴史的な賢帝になるだろうって言ってる。
半身後ろで走るどころか、背中も見えないとこ走ってるんじゃないかな。
「でね、瑞様。朱氏を訪ねてみてほしいの」
「朱氏様ですか?」
「ええ。あの者なら、きっと何か考えてくれるでしょう。瑞様にもプロジェクトを手伝ってほしいの」
「承知致しました」
大切な第一側室の言うことは絶対。
朱氏様邸って。
浩宇がいるとこ。会えるかも。
もう宦官になっちゃってるのかな。
◇
春香妃の護衛の仕事は2人での交代制。仕事のときは24時間勤務。勤務のとき、夜は、何かあったら即対応できるように春香妃の部屋の隣で横になる。で、私が第一側室に呼ばれるのは非番のとき。それでも後宮へ出入るするわけだから男女兼用の護衛の制服を着る。
朱氏様の屋敷を護衛の姿で訪れたのも非番の日だった。夜。大勢の宦官を束ねる朱氏様の仕事は、大変なんだろう。
屋敷は立派だった。
宦官は、皇族の秘書的な仕事をすることもあり、かなりの権力を持ってる。宦官のほとんどは平民出身。権力欲がある人にとっては、体の一部を捨ててまでなる価値があると思う。央の国ドリーム。
「第一側室の紹介で参りました」
玄関で出迎えてくれたのは、浩宇だった。
「っ。ル、イ?」
「久しぶり。元気?」
やっぱ好みだなぁ。声も好き。宦官か。はぁ。
「凄腕の軍人が来るって聞いてたんだけど」
「凄腕って。そんな」
照れる。
「護衛だったんだ?」
「そ」
「あ、えと。こちらの部屋でお待ちです。ってか、オレも話し合いに参加すんの」
浩宇の言葉が丁寧なのか普段遣いか分かんなくなってる。
「お連れしました」
「瑞です。第二皇子の正室、春香妃の護衛をしております。失礼します」
スーパー偉い人だと思うと緊張しちゃう。
「ああ、入って入って。瑞様」
きれいな顔したおじさんだった。宮廷暮らしを証明する白い肌。この人が朱氏様で間違いないと思う。ってか、私のこと様づけ。いえいえいえ、滅相もない。
「堅苦しい挨拶はいーから、座って。瑞様」
「その、様はなしでお願いします」
「そーゆーわけにはいかない。私は瑞様のファンクラブ会員なので」
とのこと。きっと、第一側室にむりやり入らされたんだと思う。
それを聞いた浩宇は「ファンクラブ」と目をまん丸にしてる。
そんな和やかな雰囲気の中、話は始まった。
「第一側室からの依頼なんだ。第二皇子に箔をつけさせてほしい」
「「はく?」」
「ご存じの通り、第一皇子と第二皇子は同じ日に生まれている。が、二人には大きな差がある。第一皇子は文武に優れ品行方正。かたや第二皇子には醜聞が多い」
顔だけ男だもんね。昔からスキャンダルまみれ。
「ところが、第二皇子は先の戦で敵陣を壊滅させ、央の国の捕虜達を救出したという大金星。皇帝から非常に気に掛けていただけるようになられた」
朱氏様は私に視線を送る。これは、事実を知っている顔。
「今、他にも功績を上げれば汚名返上できる。今度は戦ではなく別のことで何か考えて欲しいとご希望なんだ。それで、何か、これをやればいいんじゃないかって案を出して欲しい」
また、なんちゅー無理難題。顔だけなんだってば。全く思いつかない。
「いいですか?」
すぐに浩宇は案を出す。
「今、市場には偽の銅銭が出回っています。それによって銅銭の価値が下がっています。正規の新しい銅銭を大量に造って供給し、偽物の銅銭を一掃して銅銭の価値を安定させるのはどうでしょう」
賢い。尊敬。やっぱ宦官になる人って違う。旅の荷物は本って言ってた。めっちゃ頭いーんだろーな。
「うーん。それは国家プロジェクトレベル。第二皇子が手柄を立てられる程度の問題じゃない」
「では、偽の銅銭を造っているところを摘発するのは」
「難しいな。第二皇子が例外なだけで、基本、皇子というものは出歩かない。誘拐される恐れがあるし、外部の者と結びついて謀反を企てる恐れがある」
しつもーん。
「では、なぜ第二皇子だけあんなにふらふらと出歩けるのですか?」
「基本、第二皇子はこっそり抜け出しているというのが1点。誘拐されないのは、顔だけはすこぶるいいが問題児、と評判で『誘拐する価値がない』と思われている。実際、誘拐して何かを要求しても捨て置かれるだけだろう。外部との結びつきに関しては、ははは。謀反に利用できる器じゃないと思われていたからだよ。先日北の国境で派手なことをした今は違うかもしれないが」
要するに、庶民からも官僚からも顔だけ皇子として有名だったってことね。
浩宇はちょっと困った顔をする。
「未だに村娘を災害の生贄に捧げている地域があります。そこは人身売買のシンジケートに繋がっていると言われています。これを摘発するという案を考えたのですが、出歩かないことが基本なら難しいですね」




