ボーイミーツガール
いやー、大仕事の後のラーメンは美味しい!
帰り道は上機嫌。密命だから、メンドクサイ報告書いらないしさ。第一側室からざっくり経費貰っちゃって、旅費清算なんて事務処理いらないしさ。思いがけず短期戦で滞在費が浮いた。私が男だったら、おねーさんのいる店で遊んでたと思う。
外にテーブルとイスが並べてある店で替え玉を食べていると、道にイケメン発見。なんだか背中に行商のように大きな荷物を背負ってる。年は20歳くらいかな。知的。それは、シンプルな服とスリムな体から醸し出されてる。
荷物が多かったせいか、手から銅銭を落とし、それがころころとガラの男達の足元に。その1人が靴で銅銭を践む。仲間と目配せし合って笑ってるし。
「すみません。そこにお金を落としました」
知的イケメンがガラの悪い男達に近づく。
「ん? おおっ! こんなところに、オレが落とした金だ」
わざとらしく、男が自分の靴を退け、ひょいっと銅銭を拾い上げる。
「いえ、今、オレが落としたのをアンタが踏んだ」
「はああああ? オレのっつってんだろ」
きっと、相手は退屈でいちゃもんつけてるんだろーな。好みのタイプだし、助けちゃおっかな♡
「オレのだ!」
ほー。意外にも引かない。脅されたら有り金全部差し出しそうに見えるのに。乱闘になったら助けよ。
「だったらお前のって証拠あるのかよ」
「ああ。その銅銭はオレが靴下の中に入れてた。オレの足の臭いがついているはずだ。しかもオレの足は白癬に侵されている。白癬菌は見えないが移る。その手には白癬菌がついた。そのままだと数日中に皮膚が醜くめくれてくるだろうな」
「うわぁぁ」
ぽいっ
男が銅銭をほおり投げると、知的イケメンはそれをキャッチ。楽しそうに銅銭を男の鼻先に近づける。
「臭いを嗅いで確かめないのか?」
「いや、いい。勘違いだった」
「ほら。ん?」
「やめろ! くそっ。行くぞ」
ガラの悪い男達は去っていく。
かわいそうに、若くてイケメンなのに。白癬って病気なんだ。
眺めていると、知的イケメンは銅銭を持って店に注文する。が、店の主人は銅銭を受け取らない。さっき、聞いてたもんね。
「靴の中に入れてたけど、靴底の下です。白癬菌はついてません。それに、白癬って水虫のことです」
「なんだ、そーだったんかい」
店の主人は銅銭を受け取って、ラーメンを出す。水虫ならえーんかい。
知的イケメンは、重そうな荷物をよっこらしょと下ろし、私の斜め前の席に座る。
「お見事でした」
私はぱちぱちと小さく拍手して称える。
「あーゆー輩はどこにでもいる。大したことじゃない」
クール。
「白癬って水虫のことなんだね。初めて知った。水虫なの?」
「ちょっとだけ」
「あはは」
見れば知的イケメンのラーメンは具なし。そういえば、銅銭を靴底から出したなんて、持ってる最後のお金じゃないだろーか。私はラーメンをおかわりし、知的イケメンのラーメンの上に自分の具を載せる。
「ありがと。正直嬉しい」
「お金、ないの?」
「いや、あるにはある」
「なんだ。心配したよ」
「銀はなるべく遣いたくないんだ」
「自分も銀が好き。報酬は銀って決めてる。価値が上がってくから」
ラーメンを食べながら、そんな話。
「銀が値上がりしてること気にしてるヤツなんて初めて会った」
「生活は銅銭だもんね。でも、不思議。どーして銀が値上がりしてんの? それとも銅銭の価値が下がってんの?」
単に世間話のつもりだった。ら、答えが返ってきた。
「銀の価値は貿易で決まる。銅銭は偽物も紛れて世間に出回ってて。だから、銀の価値と銅銭の価値は連動しない。どっちも別々に価値が動いてる」
びっくり。本当に知性派だった。
「銀の価値って貿易て決まってんの?」
「そ。他の国と売買するとき、銀で決済する」
「へー。そーいえば、銀でやりとりするってのは、聞いたことあったよーな気がする」
聞いたことあっても、自分の生活に貿易なんて関係ない。それと銀の値段が上がってることが結びついてなかったよ。銅銭にしてもそう。ときどき、割れる銅銭がある。銅じゃない物が使ってある私鋳銭。私鋳銭ってのは、要するに偽物。明らかに偽物でも、みんな使ってる。流通してる。
「まだまだ銀は上がるだろうな」
「すっご。いいこと聞いた」
最後、なんとなく自己紹介し合った。
「オレ、浩宇。また、どっかで会うかもな」
「瑞って名前。じゃ」
先に店を出て、街をふらふら見て歩く。男装だから、お店の人から「彼女へのプレゼント?」なんて聞かれる。
オシャレしてみたい。でも、女の子として出会ってたら、さっきの浩宇とあんな風に気軽に話せなかったよね。馬を休ませる間、仮眠してから旅路に戻る。都はまだ先。
ぱからぱからぱから
林の中、馬を走らせていると、目が自然に見つけてしまう。
「浩宇。」
「あ、瑞」
「荷物重いだろ」
馬を下りて、浩宇の背中にある荷物をちょっと持ち上げてみる。クソ重っ。
「本が入ってるから」
「そりゃ重い。貸して」
どさっ
自分は下りて、馬に荷物を乗せる。並んで歩くと、意外にも浩宇は背が高い。
「ありがたい。けど、瑞が遅くなる」
「急いでないし。ちょっとだけ。お爺ちゃんみたいになってたから」
「オレ?」
「うん」
「ははは」
「浩宇も乗っけてってやれたらいーんだけど、馬が腰痛める」
「荷物だけでもマジ助かる」
宿はどうするのか尋ねた。ら、
「野宿」
ええーっ。今、11月。
何時間か歩いた。日が傾き始めると、浩宇は野宿する場所を決め、馬から荷物を下ろす。
「じゃ、気をつけて」
「瑞、よかったらさ、飯食ってけよ。飯ってか、米。荷物運んでくれたお礼」
なんか、離れ難い。もうちょっとだけ一緒にいたい。
浩宇は器用に即席カマドを作って米を炊き始める。釣ってあった魚に塩を振りかける。
焼きたての魚は柔らかで、ご飯は熱々。普段、豪華な宮廷料理の残り物食べてるのに、その何倍も美味しく感じた。
隣にいる浩宇のちょっと伏せた目。まつ毛に触れたくなる。無防備に大口開けて笑う。挙句は「腹一杯」って地面に寝っ転がる。そんな姿まで色っぽいって思う私は、今日のたった数時間で、浩宇を好きになっちゃったんだろーな。ちょろすぎ。旅先で会っただけなのに。
ん? 人の気配。げ、昼間のガラの悪いやつらじゃん。せっかくいい雰囲気なのに、邪魔させるか!
ひゅん ガツ
浩宇に見えないように石を投げて退治。石が当たる音くらいは風に紛れる。
ひゅん ピシッ
ひゅん 「う”」
「あれ? 今、なんか人の声しなかった?」
「気のせいじゃない」
いつもまでも一緒にいたい。
キリがない。
「馬宿で、この子にカイバ上げなきゃ」
「そっか」
「じゃ」
「な」
「え?」
「また会える? オレ、都の鳳凰路の裏通りにある、朱氏様んとこにお世話になる予定なんだ」
朱氏様?!
知ってる。第一側室が懇意にしてる宦官。宦官は大抵、自分が仕える皇族の宮廷内に住んでる。一部、とっても出世したスーパー宦官は、宮廷の外に屋敷を構えて宮廷へ通勤する。朱氏様がそれ。屋敷では、下っ端宦官達が使用人的にいることが多い。
……。
すん
浩宇、そこでお世話になるってことは、宦官になるんだ、きっと。もう、去勢手術済みかも。もったいない。別に、好きとか恋とかって気持ちに去勢は関係ないんだけどさ、そこはやっぱ、恋愛の濃密オプション欲しいじゃん。
好きんなっちゃった数時間で分かってヨカッタ。今んとこダメージは虫刺され程度。
そのとき、まだ諦めてなかったガラの悪い連中が出てきた。
「よーよーよーYO」
「病気持ちときれーな兄ちゃんじゃん」
「BLっちゃってんじぇねーよ」
なんていいタイミング。ちょうど行き場のない想いを昇華させたいとこなんだよね。
ばき ごん ドサ デン
秒殺。しょうがないよ。こっちはプロだから。ちゃんと逃げられるように脚は軽めのダメージにしてあげたよ。
「「「くそっ。おぼえてろよ」」」
連中は逃げて行く。
「瑞、強いんだな」
「はは。浩宇、気をつけて。じゃ」
想いを振り払うように、馬で風を切った。




