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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
連続官僚邸放火事件?

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11/15

ブラック朱氏様降臨



(ルイ)様よ」

「瑞様だわ」

「ほら、絵師の腕の見事なこと」


なんだこれ。

非番の日、私が呼ばれたのは、3番目に火のついた札束が投げ込まれた官僚の屋敷だった。「官僚って、こんないい暮らししてんだ?」ってきょろきょろするくらいの豪邸だった。


官僚は、約3000倍の科挙って難関試験を通過したエリート。身分カンケーなく優秀なら官僚になれる。だけど、子供のころから教育費に課金しなきゃいけないし、たぶん生まれ持った資質もあるから、官僚の一族が多い。庶民でも金持ちのクラス。官僚になればどーんと金&権力を手にできて、立派な屋敷に住んじゃったりする。


「瑞様って背が高くていらっしゃるわ」

「見て、あの凛々しいお姿」

「はぁぁぁ」


回廊がある広い屋敷の中庭で、護衛の制服姿でポーズをとる。全身の絵が最初の1枚。他に、顔のアップ。そのとき顔の横で拳銃を持つよう絵師からリクエストされた。

何人もの女の子が回廊から、部屋の窓から、庭から、絵師が絵を描く姿を見学する。んーと。見学されてるのは、私かな。


 ◇


朱氏(しゅし)様邸での話し合いの最後、朱氏様はこれを思いついたらしい。よくもあんな一瞬で。


「絵師に絵を描かせたいというのは、第一側室がよく話しておられたんだ。けれど、後宮に、男性である絵師を招くわけにいかず、諦めていらっしゃった」

「なぜ札束を投げ込まれた官僚の屋敷なのでしょうか」

「それは、借りを作るためだよ。集まるお嬢さん方は、官僚の孫の女学院のご友人。全員、政財界の名門一族。結婚まで男性に接触することなく育つ。恋愛なんて御法度。祖父や父親としては、蹴球(サッカー)大会MVPの曲芸師や、イケメン大工より、瑞様にきゃーきゃー言ってる方が微笑ましいんだろ」

「スケープゴートですか、私は」

「ははは。実は、曲芸師とイケメン大工の絵は、もう出回ってる」


なんと。


「私の絵は、どうなるんですか?」

「版画にして、親しい者達でこっそりやりとりするくらいかな」

「版画?!」


ますます出歩けなくなるじゃん。


「仕方がない。蹴球大会のとき選手達より注目を集めたのは、大捕物劇をした瑞様だから」


スーパー宦官の朱氏様は、いつものように軍で下っ端の私を「様」づけで呼んだ。


「街の本屋に問い合わせが殺到してるらしい。瑞様の絵はないのかと。ちなみに曲芸師とイケメン大工は、絵が売れて相当な稼ぎになっているそうだ」


$_$


「私、報酬は銀がいいです」

「残念ながら、瑞様の絵は売らないんだ。買えないからこそ価値がある。当日は頼んだよ」


利用されるだけってことね。しょうがない。朱氏様に報酬を交渉する勇気ないもん。


 ◇


緑美しい庭で紳士淑女が歓談する。長時間同じ姿勢は大変だからと休憩になった。休憩ルームに食事まで用意されているとのこと。至れり尽くせり。

休憩ルームに行く前にトイレに行こうとしていたら、浩宇(ハオユー)にばったり会った。


「あれ? 浩宇。来てたの?」

「朱氏様へ届け物」

「そーなんだ。お疲れ様」


トイレを出て休憩ルームを探していると、使用人が色白のお爺さんを呼び止めていた。


「お申し付け通り、先ほどの青年を部屋に案内致しました」

「そうか。青い制服の子だぞ」

「はい。間違いありません」


青、制服? それって浩宇のこと?


「それもそうだな。お前は私の好みを熟知しておる。ふっふっふ」

「はい。旦那様のお好きな、長身でしゅっとした知的なタイプでございます」

「よく分かっておるのう。このっこのっこのっ。着痩せするタイプか?」

「恐らくは」


言いながら、色白のお爺さんは、閉じた扇子で嬉しそうに使用人をきゃっきゃとつつく。いい歳こいて、何はしゃいじゃってんだろ。


「ちゃんと窓のない部屋だろうな。ふっふっふ」

「もちろんでございます。では私はこれで」


窓のない部屋? それ、どゆこと?

色白のお爺さんは、ノックをせずに部屋の扉をそーっと開けて入っていく。


ぱたん


私は、閉じた扉に走り寄り、耳をそばだてる。


「おお。邪魔をしたかな」

「朱氏様に届け物でまいりました。浩宇です、ご挨拶を申し上げます」


やっぱ浩宇じゃん。


「いや、楽にしなさい。そうか、浩宇。いい名前ですね」

「ありがとうございます」

「ところで君は、出世と金のどちらに興味があるかね?」

「自分は、この(おう)の国に住む人々を幸せにすることに興味があります。出世、金というものは、それを成し遂げたときにおのずとついてくるだろうと考えております」

「ふっふっふ。素晴らしき美しき心。私のものになるなら、両方を手に入れることができるだろうに」


どさっ


床になにか落ちた?


「おっと、危ない。ああ、理想が服を着ているような、いや服も理想……。美しい。産毛すら芸術。はぁ」


どうなってんだろ。


「体の自由が効かないだろう。だが、意識はある。ふっふっふ。制服はいいのう。萌える。眺めるもよし乱すもよし」


するする がさごそ


少し乱暴な衣擦れの音。それは性急に布を剥ぐような響き。浩宇の声、聞こえないんだけど。じーさん、絶対、なんか変なことしてる。


「はぁはぁはぁ……本当はもっとゆっくり味わいたいのだよ。肌に隙間なく指を這わせ、舌を這わせて。痛みなど気づかぬほど狂わせて。だが、時間がない。ああ、なんて引き締まった(もも)


浩宇の腿?! 見たい、じゃなくて、ピンチ!


バン


扉を開けると、床に横たわった浩宇の腿を撫でるじーさん。白いズボンの上から。なんだ。生じゃないじゃん。


「失礼。彼は具合が悪いのでしょうか」


私が浩宇に駆け寄ると、色白のお爺さんは慌てて立ち上がる。


「ど、ど、どうしたのか、倒れたのだ。き、気分が悪そうだったので少し衣服を楽にしたのだ」


青い縁取りのある制服は、首元ががばーっと開いて、浩宇の胸が半分(あら)わ。きゃっ♡

と、そこへ朱氏様が3人の男を連れて部屋に入てきて、無言で扉を閉める。


なになになに


色白のお爺さんもそうなんだけど、全員、明らかに権力者と分かる風貌。年齢といい装いといい、その辺の庶民とはまるで違う。私は、一旦膝に載せていたに浩宇の頭を床に置き、姿勢を正して前で手を合わせ、(うやうや)しくお辞儀する。


「ご挨拶申し上げます」


全く状況が掴めない。

後から入ってきた4人は、色白のお爺さんを責めるような目で見る。どう見ても、浩宇の様子がおかしいのに、4人は「大丈夫か」とすら尋ねない。


「瑞様、浩宇をあちらへ寝かせてあげなさい」


朱氏様に促され、浩宇を部屋の奥にある長椅子の上に寝かせた。重っ。そっと、浩宇の乱れた服を整える。体の自由が効かない浩宇は、うっすらと目を開けたまま、口は半開き。色っぽ。


部屋の扉に近い場所では臨戦状態。5人の男が立ったまま妙な緊張感を醸し出し、場の空気はぴりぴりと張り詰めている。

やがて、1人が低い声を出した。


「朱氏よ、燃えた札束は民意だと申すのか」

「民意であり、警告であると恐れております」


朱氏様は、(こうべ)を垂れ、4人に敬語を遣う。


「ふーん。だから、税を銀に統一する法案を通せだと?」

「税を銀で得られれば、紙幣に頼ることなく役人に銀が支払われ、役人達は不正などしなくても生活できましょう。今、国中が銀に溢れかえっております。今が銀に統一する機会です」

「片腹痛いわ。それが無理だから紙幣に頼っておるというのに」

「正規に議題に上げてくださるだけで構いません。もう紙幣での支払いは限界に来ております」

「朱氏よ、いつから宦官風情が政治に口出すようになったのだっ」


ばしっ


1人が朱氏様に扇子を投げつける。その扇子は朱氏様の頬をかすり、じわりと赤い1本の血の筋ができる。

朱氏様は首を垂れたままの姿勢で口調を変えた。「では……」明るくなった声のトーンは不気味でしかない。


「先ほどまで我が家の書生に不埒(ふらち)なことをなさっていたと申しましょう。書生は薬で自由を奪われた尋常ではない状態。声を上げれば、多くの客人のみならず、大切なご家族に(ひそ)やかな趣味が知れてしまいますよ。いいのですか? 奥様はショックでしょう。ご令息の家庭は壊れるかもしれません。かわいいお孫さんは、もう女学院に通えなくなりますが」


男色は、官僚にとって表向き絶対的タブー。小さなころから学んできた儒学と朱子学の教えに反するから。


色白のお爺さんは朱氏様の前に(ひざまず)く。


「朱氏。頼む。頼む。それだけはやめてくれ。頼む」


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