表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/49

48話「魔王城は建設中」



 西の領地では、新たな魔王城の建設が驚異的な熱気とともに着々と進んでいた。

 現場には資材を運ぶ重厚な音と、職人たちの鋭い活気が響き渡っている。


「おい! こっちの床、わずかに歪んでるぞ。誰だ、ここをやった奴は!」


 鋭い指摘を飛ばしたのは、現場の班長を任されているベテラン職人だ。その視線の先で、作業着の袖を捲り上げた一人の若い部下が、気まずそうに一歩前に出た。


「……僕です。やっぱり、歪んでますか?」


 青年は手元の水平器を不安げに覗き込む。かつて武器を握りしめていたその指先は、今やミリ単位の平滑さを出すことに全神経を注いでいた。


「全然ダメだ! こんな仕上げ、牛銀さんに見つかってみろ。現場全体の士気に関わる大目玉を食らうぞ!」


 班長の叱咤に、周囲の空気がピリリと引き締まる。この現場において、牛銀の「プロの眼光」は、どんな軍律よりも恐ろしく、そして頼もしくあった。


「……よし、今ならまだ修正が利く。俺が手伝ってやるから、一緒に直すぞ!」

「はい! ありがとうございます、よろしくお願いします!」


 青年は力強く頷くと、手際よく補修用の道具を手に取った。

 かつては「壊す」ことしか知らなかった者たちが、今では「造る」ことの喜びに目覚め、誰よりも必死に汗を流している。

 その光景を遠くから眺めていた牛銀は、満足げに腕を組み、深く頷いた。


「……フン。最初は素人同然だったが、叩けば響く奴らじゃないか。あいつら、意外と『筋』がいいな」


 職人の魂が、荒くれ者たちを一流の造り手へと変えていく。


「牛銀よ、順調のようだな」


 魔王の低く響く声が、建設現場の喧騒をすり抜けて届く。

 現場監督の牛銀は、作業服の襟を正すと、深々と頭を下げた。


「親方様。全ては親方様の指導があればこそ。……そう言えば親方様、資材調達班から一点、不穏な報告が入っております」

「……何だ?」


 魔王が眉をひそめる。牛銀は手元の端末を操作しながら、重苦しく言葉を継いだ。


「どうやら、北のダンジョンが崩壊したとのことです」

「北のダンジョンだと……?」


 聞き慣れぬ地名に魔王が記憶を辿ろうとしたその時、傍らに控えていた枝豆コーヒーが、鈴を転がすような声で代わりに答えた。


「北のダンジョン、ですか……。確かあそこは、ピエールが心血を注いで創り上げた迷宮ですね。崩壊したということは……ピエール派と、それ以外の勢力が激しく衝突していた可能性が高いですね」

「……随分と詳しいな」


 魔王の訝しげな視線を浴びながら、枝豆コーヒーは涼しげな表情を崩さない。だが、その瞳の奥では、冷徹な思考が高速で回転していた。


(……十中八九、アビス教団の襲撃の仕業。あの智将ピエールがダンジョンを自壊させるまで追い込まれたとなれば、隠匿していた「宝具」も奪われた可能性が高い。ピエール、あなたが死んでいようが生き恥をさらしていようが、そこにはアビス教団の情報が転がっているはず。現場へ向かう価値は十分にありそうね)


「ふふ。私の武器は『情報』ですから」


 少女は指先で金髪を弄びながら、可憐な笑みを浮かべてみせる。

 その言葉の裏に隠されたどろりとした策略に、魔王はまだ気づく由もなかった。


「……あ、魔王様。私、急用を思い出しました。ちょっと、そこの『牛』を借りて行ってもいいですか?」


(現場の瓦礫撤去には、この牛が一番使えそうだし。……是非とも連れていきたい)


 枝豆コーヒーは、小首をかしげてあざとく尋ねる。その視線の先では、現場監督の牛銀が「……姐さん?」と、困惑と畏怖の混ざった声を漏らした。


「好きにするがよい。だが、あまり無茶はするなよ。……お前に何かあれば、エリザベスが悲しむからな」


 魔王は、スマホの画面――ソシャゲの画面――から目を離さぬまま、ぶっきらぼうに言葉を投げた。


「ふふ。……はい、善処します!」


 少女は軽やかに翻ると、迷いのない足取りで現場を後にした。その華奢な背中には、主人の信頼を一身に受ける「忠臣」の顔と、それを冷徹に利用し尽くす「策士」の決意が、危うい均衡で同居していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ