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42話 「新たなる城」


「よし、では早速ここに城を築くぞ!」


魔王が昂然と宣言すると、その場にいた者たちが一斉に膝を突いた。


「「「はっ!」」」

「合点承知だ、親方様ァ!」


牛銀の野太い号令を合図に、静まり返っていた荒野は一転して巨大な建設現場へと変貌を遂げる。資材が運び込まれ、魔法と人力のハイブリッドによる驚異的な速度で、城の「基礎」が打ち固められていった。

熱狂の渦に取り残されたエリザベスは、目を白黒させながら、隣に立つ魔王の袖をそっと引く。


「……あの、魔王様? これはいったい、どういう状況なのでしょうか。なぜ、皆さんはあんなにノリノリで工事を始めているのですか?」


困惑しきった彼女の問いに対し、魔王はエリザベスの顔を一瞬だけじっと見つめた。その瞳は彼女を捉えているようでいて、意識の矛先はさらに深い場所、自分たちを取り巻く先へと向けられていた。


(無事で良かった、封印は問題ない。だが——)


魔王の脳裏をよぎる、激闘の果てに砕け散った愛銃の残像。しばしの沈黙。


「……あの、魔王様。その腰の……」


エリザベスが視線を向けるが、魔王は答えない。

彼は重苦しい空気を振り払うようにふいっと視線を逸らすと、ぶっきらぼうに吐き捨てた。


「……さあな」


魔王はそのまま、喧騒の渦中へと歩き出す。向かった先は、図面を広げて指示を飛ばしている牛銀の元だ。魔王は鋭い視線で地面に引かれた青いラインを凝視し、牛銀へと詰め寄る。


「おい、牛銀。ここの墨出し(すみだし)は、お前がやったのか?」

「お、親方様ッ! はい、滅相もございません! 完璧にやったつもりだったのですが、もしやズレておりましたでしょうか……!?」


師匠の眼光に射すくめられ、牛銀は慌てて直立不動の姿勢を取る。冷や汗を流しながら再確認しようとした彼に対し、魔王はふっと口角を上げた。


「……完璧ではないか。成長したな、牛銀」


その一言は、荒れ狂う建設現場の喧騒を突き抜けて、牛銀の胸に真っ直ぐに突き刺さった。


「あ、ありがとうございます……親方様ッ! これからも慢心することなく、技術の極致を目指して精進いたします……!」


牛銀の太い眉が八の字に歪み、その大きな瞳からは大粒の涙が溢れ出した。師に認められたという至上の歓喜に、彼は鼻をすすりながら、子供のように感極まって泣きじゃくった。

しかし、次の瞬間。彼は乱暴に涙を拭うと、現場全体を震わせるような咆哮を上げた。


「よし、野郎どもッ! 俺たちの成長を、親方様にしかと見ていただくぞ! この施工に、職人の魂と命のすべてを賭けろッ!!」


その凄まじい気迫に、職人たちの血が沸騰する。


「「「おおおぉぉぉーーーッ!!!」」」


呼応する野太い唱和が魔界の空を突き抜け、新城建設の現場はもはや狂熱とも呼べる異常な活気に包まれた――。





――その頃。

魔界の奥深く、静寂が支配する領地。

そこには、禍々しくも洗練された美しさを放つ玉座に、深く腰掛ける一人の男の姿があった。

鮮やかな赤のスーツを微塵の乱れもなく着こなし、その頭頂からは天を貫くような鋭い一角が伸びている。知性を湛えた眼鏡のブリッジを指先でクイッと押し上げ、彼は部下の報告に静かに耳を傾けた。


「報告します、ピエール様。どうやら『アビス』と名乗る教団の軍勢が、こちらに向かっているとの情報が入りました」

「……ふむ。ラジオ風の茶番には飽きたのかね? アビス……あのアクセイから宝具を奪い取った連中か。なるほど、我が領地のダンジョンに眠る宝具まで獲りに来たと?」


ピエールの声は、湖面のように静かで冷徹だった。


「そのようですね。いかがいたしましょうか?」

「……向こうからわざわざ足を運んでくれるというのだ。盛大に歓迎して差し上げようではないか」

「承知いたしました。すぐに迎撃の準備を整えます」


ピエールの口元に、獲物を待つ捕食者のような冷たい笑みが浮かぶ。それは、自らの「美学」を汚す侵入者への、容赦ない宣告でもあった。

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