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41話「魔王軍結成」

「教主様、報告しまっす! 宝具の奪取には成功しましたが……どうやら隊長は、ダメでした」


静まり返った神殿の最奥。報告に現れた田中は、仲間の死すら軽い口調でそう告げた。その手には、金細工が複雑に絡み合い、中心に大粒の魔石が埋め込まれた「鍵」のような宝具が握られている。


「……そうですか。あの隊長が、ね……」


玉座に酷似した椅子に腰掛ける人物――「教主」と呼ばれた者は、報告を聞いても眉一つ動かさない。ただ、冷徹な知性を湛えた瞳で、手元にある古びた羊皮紙の図面を見つめていた。


「……ご苦労様。これで残る封印は、あと四つとなりましたね」


教主の声は、深い井戸の底から響くように静かだった。


「これでまた一歩、伝説の勇者様との再会が近付きました。……ふふ、あの方もきっとお喜びになるでしょう。この世界が、正しく『再生』されることを」


教主の口元に、慈愛と狂気が混ざり合ったような歪な薄笑いが浮かぶ。

そこへ、別の信者が影から音もなく現れ、深々と頭を下げた。


「教主様……新たな吉報がございます。魔界の北、最果ての地に眠る古代ダンジョンに、次なる宝具が埋蔵されているとの報告が入りました」

「魔界の北、ですか。……あそこは今、ピエールという男が治めているはず。……少々、頭のキレる男だとの報告も上がっています。向かわせる者には、十分気を付けるよう伝えてください」


教主は考え込むように、指先でトントンと肘掛けを叩く。その単調な音を遮るように、先ほど報告を終えた田中が、億劫そうに口を開いた。


「……また俺の出番っすか?」

「いいえ。貴方には、第二学園の内部を洗ってもらいます」

「……了解っす。あっちのガキどもの相手っすね」


男が肩をすくめて引き下がると、教主は暗がりに控えていた別の影へと視線を向けた。


「はい。ということで……魔界のダンジョンは、貴方に一任しますね」


暗闇の中で、新たな刺客が静かに、しかし確かな殺意を込めて頷いた――



――その頃。

魔界、西方の領地。そこでは魔王一行が、解放された民衆に幾重にも囲まれていた。


「……本当に、あの城ごとアクセイを追い払ってくれたんだな!」

「ありがとうございます、ありがとうございます……!」


熱狂的な感謝の声を浴びながら、魔王は内心で眉をひそめた。


(なんだ……こいつも、あいつも。アクセイ? 誰だそれは⋯⋯知らんが、使えそうだな)


しかし、彼はすぐに不敵な笑みを浮かべ、民衆を見下ろす高い岩場へと飛び乗った。


「よく聞け、貴様達よ! 我らこそが真の魔王軍である! 先代よりその意志を託され、この地に舞い戻った正当なる支配者だ!」


朗々とした声が響き渡り、ざわめいていた民衆が静まり返る。


「貴様たちが騙され、脅され、虐げられてきたアクセイの支配は、今ここで潰えた! ……だが、次に貴様たちを導くのは、その上司であるピエールか? よく思い出せ。そのアクセイをこの地に送り込み、悪政を振るわせた元凶こそが、ピエールという男ではないのか!」


魔王の言葉に、民の間に動揺が走る。彼は畳みかけるように声を張り上げた。


「もし、まだピエールを信じたいというなら構わん。その結果、アクセイの暴挙に耐え抜いてきた貴様たちの忍耐は立派だ。だが、もう一度言おう。ピエールこそが諸悪の根源だ! 貴様たちがこれほど苦しんでいた間、彼は一度でも手を差し伸べたか? 貴様たちの悲鳴を聞き入れたか!? ……違うはずだ!」


魔王は大きく両腕を広げ、民衆を包み込むように高らかに宣言した。


「間違っているのは貴様たちではない。民の窮状を放置し、冷徹に切り捨てたピエールこそが罪深いのだ。だが安心するがよい、俺様は違う!」


その瞬間、地を揺らすような「魔王コール」が巻き起こった。

熱狂の渦の中、牛銀は「親方様ァ!」と拳を突き上げ、枝豆コーヒーも頬を紅潮させて一緒になって声を張り上げている。


「ならば貴様たちよ、俺様に従うがよい! なぁに、悪いようにはせん。……では手始めに、ここに新たな城を築こうではないか!」


その言葉が引き金となり、民衆は歓喜の叫びを上げ、一斉に平伏した。


(そろそろ頃合いか……)


魔王は内心で、計画の次なる工程を指折り数えた。


「おい。枝豆コーヒーよ」

「魔王様っ……!」


名を呼ばれ、期待に満ちた表情で振り向いた彼女の顔面に、魔王は無造作に「猫のお面」を押し当てた。


「「やめられない、止まらない!!」」


どこからともなく響く掛け声と同時に、地平線の彼方から凄まじい砂煙を巻き上げ、大型の馬車が姿を現した。


「牛銀よ。……くれぐれも、『丁重』に止めろ。いいな?」


魔王の不敵な指示を受け、現場監督さながらの鋭い視線を馬車へと向けた。


「親方様、承知しました」


牛銀は腰の安全帯から、使い込まれた番線カッターを鮮やかな手つきで引き抜くと、猛スピードで突進してくる馬車へと真っ向から飛び込んでいった。

暴走する馬のいななきと、激しく巻き上がる砂塵。その混沌の合間を縫うようにして、牛銀の職人の眼が「急所」を捉える。


「連結部……荷台と馬の間、ここだぁッ!」


一瞬の隙を突き、牛銀は車軸と繋ぎ目を結ぶ強靭なワイヤーへ、番線カッターの刃を深々と食い込ませた。火花が散り、鋼鉄が断ち切られる鋭い音が響く。

切り離された馬たちが驚いて左右に跳ね、慣性で突き進んでいた巨大な荷台だけが、摩擦音を立てながら魔王の足元数センチのところでピタリと停止した。


「「止まった! ありがとうございます、牛銀様!」」


猫のお面を被った枝豆コーヒーと、それを見た民衆たちが一斉に快哉を叫ぶ。

静まり返った荷台の扉が、ギィ……と重い音を立てて内側から開かれた。中から現れた牛銀の部下たちが、土埃にまみれながらも誇らしげな表情で次々と姿を現した。


「親方様! 指示通り、エリザベス様を無事にお連れいたしました!」


部下の一人が声を張り上げると、白い猫のエリザベスが遠慮しながら顔を見せた。 


「……魔王様。私、倒れてしまっていたみたいで……」


記憶が混濁しているのか、彼女は自身の状況を飲み込めていない様子だった。だが、その姿を認めた魔王は、豪快に笑い飛ばして彼女の不安を霧散させる。


「ははは! なんだ、存外元気そうではないか! よくぞ戻った!」


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