表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/50

37話「絶望」


ゆっくりと砂煙が収まり、崩落した瓦礫の山の中から、地を這うような低い笑い声が木霊する。


「凄く、痛かったよ……今のは。……いいよ。私も、本気で相手をしてあげる」


それは、今までのような無邪気な「遊び」の終わりを告げる、冷徹な殺意の宣言だった。

瓦礫の中から這い出したティアの瞳は、深紅の光を帯びて禍々しく発光している。その小さな体から溢れ出す魔力は、周囲の空間を物理的に歪ませ、絶望という名の重圧となって、満身創痍の二人を容赦なく押し潰そうとしていた。


「……あれで、駄目なら……もう……」


枝豆コーヒーは、今にも崩れ落ちそうなほど満身創痍の身体を激しく震わせながらも、戦士の構えだけは決して解かない。

その時、地を這うような呻きと共に牛銀が意識を取り戻した。彼は震える膝を気力のみで叩き伏せ、再びその巨体を大地に立たせる。


「……姐さん、いけますか?」

「……誰に……向かって、言っている」


震える声で不敵に応じると、彼女は最後の一歩を踏み出した。魔力の過負荷によって身体中の細胞が悲鳴を上げ、視界すら霞んでいる。もはや立っていることさえ奇跡に近いその身体を、ただ剥き出しの闘志だけで突き動かしていた。


「…………」


ティアがニヤリと、残酷な笑みを深くした。

直後、落雷を思わせる超速の踏み込みが爆ぜる。ティアは一瞬で間合いを詰めると、魔力を限界まで凝縮した拳を、無防備な枝豆コーヒーの腹部へと叩き込んだ。


「が、はっ……!」


内臓を直接握りつぶすような衝撃。枝豆コーヒーの体は木の葉のように宙を舞う。それを受け止めるべく動いた牛銀だったが、あまりの威力に抗えず、二人まとめて後方の瓦礫へと激しく吹き飛ばされた。


「あれ……? もう終わり?」


もうもうと立ち込める砂塵の向こう側から、退屈そうに首をかしげるティアの声だけが響いた。


「…………」


ティアは動かなかった。その場に静止し、深い闇が混じった赤い瞳で、晴れゆく砂煙をただ見つめていた。崩れ落ちた瓦礫がカサリと音を立て、視界がゆっくりと開けていく。


だが、そこに広がっていたのは、予想していた光景ではなかった。

冷たい月光に照らし出されたその場所には、満身創痍で膝をつく牛銀の巨大な背中しかなかった。先ほどまで彼に抱えられていたはずの、あの少女の姿がどこにも見当たらない。


――その刹那、ティアの背後の「死角」から、殺気を押し殺した枝豆コーヒーが拳を突き出した。


「アハハ! 凄いね、二人ともまだそんなに動けるんだぁ!」


呼応するように、正面からは牛銀が地を這うような突進で迫る。

死力を尽くした渾身の挟撃。しかし、ティアは微塵も動じなかった。彼女は踊るような軽やかな動作で両手を広げると、迫りくる二人を迎え撃つ。


ドォォォォォンッ!!


爆ぜるような衝撃音。ティアの小さな両拳に込められた圧倒的な魔力が、二人を文字通り「床」へと叩き伏せた。


枝豆コーヒーと牛銀。限界を超えて絞り出した最後の抵抗は、怪物の無慈悲なまでの膂力によって、無残にも瓦礫の底へと沈められた。


「……もう、おしまいか」


ティアはふわりと空中に舞い上がり、瓦礫に沈んだ二人を冷酷に見下ろした。その瞳に宿る赤光は一段と強まり、周囲の空気がパチパチと悲鳴を上げる。


「バイバイ。結構楽しかったよ。……これはそのお礼。本気で行くね!」


ティアが両手を掲げると、その掌の間に世界の終焉を凝縮したような光球が生成された。


「火」の爆ぜる熱、「水」の凍てつく波動、「風」の切り裂く旋風、そして「雷」の苛烈な咆哮――。互いに反発し合うはずの四属性が、彼女の底知れぬ魔力によって強引に練り合わせられ、極彩色の混沌へと変貌していく。

それは、触れるものすべてを分子レベルで分解し、その存在を消滅させる輝き。ティアがその両手を振り下ろした瞬間、世界の理さえも塗り潰す圧倒的な威力の塊が、動けぬ二人を飲み込んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ