3話「魔王様と正義の味方?」
「……もしもし?」
『あ、魔王様ですかぁー?』
「うむ。いかにも、俺様こそが魔王であるぞ」
魔王城の一室。魔王はスマホを耳に当て、実に横柄な態度で通話していた。
『あのですねぇ、ちょーっとお伝えしたいことがあって電話しちゃいました。今、お時間とかぁ、大丈夫そうですかね?』
「うむ。俺様は常に寛大だ。問題ないぞ」
『じゃあ言いますねぇ。今ですね、此方の人界の方では魔王様のお父様が死んだ話題でもちきりでして、しかもその息子はめちゃくちゃ雑魚だどか?』
「誰だそんな偽情報を流したのはっ!」
『はい。私ですね』
「お前かよ!」
魔王の鋭いツッコミが室内に響く。電話の主は、悪びれる様子もなく言葉を継いだ。
『それでですね。魔界の方でも魔王様のお父様が死んだ事で、皆さん俺が魔王だと、意気込んでしまいましてそれはもう戦国時代突入って感じなんですよ。それを見た人界の上層部が「今こそ魔界に攻め込むチャンスじゃ!」って盛り上がっちゃってるんですよ』
「へぇ。やけに詳しではないか?」
『これでも一応、勇者育成高等学校の美少女生徒会長なのですよ。えっへん! 魔王様、私が必要な時はいつでも頼ってくださいねー。私は魔王様の味方なので!』
「⋯⋯なるほど。では、黄昏が交わりし時に」
『了解でーす。じゃ、魔王様も気をつけてねー。バイバーイ』
プツッ、と通話が切れる。
傍らで聞き耳を立てていたエリザベスは、目を丸くして固まっていた。城を出る出ないの話よりも、「魔王に友達(?)がいた」という事実に驚愕したのだ。
「魔王様、魔王様。今の電話……もしかして、お友達⋯⋯ですか?」
「うむ。枝豆コーヒーだ」
「……はい?」
「だから、枝豆コーヒーだ」
猫は静かに考えた。
(……字面からして、絶望的に組み合わせが悪そう。胃もたれしそう……)
「その飲み物の話はどうでもいいです。その『枝豆コーヒー』とは一体何者です?」
「奴の名だ」
「あぁ……なるほど。ネットゲームのお仲間ですね。道理で私が把握していないわけです」
「うむ。友達というか、宿命のライバルだな」
そこから、魔王と『枝豆コーヒー』がいかにゲーム内のランキングで血で血を洗う一位争いを繰り広げてきたかという、実に生産性のない昔話が始まった。
エリザベスは既に興味を失い、丸まって欠伸を噛み殺す。
「……で、そのライバルが心配?して連絡をくれたと。要約すると『魔界は戦国時代で、人界からも攻め込まれる大ピンチ』ってことですね。勇者や剣聖が立て続けに来たのも、そのせいですか」
「なるほど、合点がいったぞ。道理で最近来客数が多いのか」
その時。
もはや恒例行事となった、魔王城の扉が突如として爆砕された。
猫は飛び起き、魔王に鋭いツッコミを飛ばす。
「だから! もたもたしてないで、さっさと出ようって言ったじゃないですか!!」
「魔王、覚悟しな! この僕が来たからには、これ以上の悪事は許さない! そう、僕は――正義の味方『レッド』、参上ッ!!」
現れたのは、筋肉のラインが浮き出るほどピッチピチの赤いタイツに身を包んだ男。
彼は自撮り棒を構え、独自のポーズを決めながらカシャカシャと連写している。
猫は遠い目をして呟いた。
「……また来ましたよ。魔王様がログボだのネトゲ話だので、もたもたしてるから」
魔王は不敵な笑みを浮かべ、マントを翻して高笑いした。
「クハハハハ! よく来たな正義の使者よ! ここまで辿り着いた勇猛さは褒めてやろう。だが、俺様と戦いたいというのなら、まずは俺様の筆頭配下を倒してからにしてもらおうか!」
エリザベスは「はいはい、わかってましたよ」と、不機嫌そうに魔王を睨みつける。
「よかろう! お前はその場で、自慢の部下が塵になるのを指をくわえて眺めているがいい! とーう! はぁーっ!」
正義の味方レッドは、一挙手一投足に無駄なポーズを織り交ぜながら猫に肉薄する。
エリザベスは特大の溜息を一つ吐くと、気怠げに尻尾を振り下ろした。
――ドォォォォンッ!!
尻尾が空気を打っただけで、城内に凄まじい衝撃波が駆け抜けた。
「あがっ!?」
という情けない声を残し、レッドは赤い弾丸となって壁へと直撃。
勇者と剣聖の隣に、見事な三つ目の人型クレーターを作って埋没した。
魔王は無駄に格好良く指をパチンと鳴らす。
「よし。では行くぞエリザベス。まずはこの乱世、魔界全土を再び跪かせてやろうではないか」
ようやく重い腰を上げた魔王と、白猫。
二人は開きっぱなしの魔王城の出口を目指し、悠々と歩き始めた。




