表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/54

19話「魔王様と再会?」

魔王は、引きった顔を隠そうともせず、目の前の異様な光景を凝視していた。


「おい……枝豆コーヒー。なんだ、そのふざけた仮面は」


 そこに立っていたのは、いつもの凛とした端正な制服姿の生徒会長ではない。猫を模した無機質な仮面を被り、どこか浮世離れした奇妙な雰囲気をまとった『枝豆コーヒー』だった。彼女は魔王の嫌悪に近い視線を浴びてもなお、おどけたような軽い足取りでスカートの裾を揺らす。


「ふふっ、魔王様の好みに合わせて新調してきたんです! どうですか、似合います? ……ほら、そちらのお……っ。……『猫ちゃん』とお揃いですよ」


 道化のように振る舞う彼女が、一瞬だけ言葉を詰まらせた。だが、魔王の鋭い眼光はその虚飾を容易く貫いた。仮面の奥、白猫のエリザベスを射抜く彼女の瞳が、今にも溢れ出しそうなほどの熱い涙に潤んでいるのを、魔王は見逃さなかった。

気づいているのか、と魔王は内心で嘆息した。エリザベスの前では、決して素顔を見せないつもりなのだろう。自分が、エリザベスの『実の妹』であるということを隠し通すために。

 魔王は知っていた。目の前の少女と、傍らにいる白猫が、かつて過酷な運命によって分かたれた実の姉妹であることを。そして今、少女がふざけた仮面を被っているのは、姉に余計な懸念を抱かせまいとする、彼女なりの痛切な、そしてあまりにも不器用な配慮であることも。

 過去の因縁が招いたこの残酷な再会に、魔王の胸には、古傷を抉られるような鋭い痛みが走った。

 魔王は短く重い息を吐き出すと、隣に控える白猫に静かに、だが拒絶を許さぬ口調で告げた。


「エリザベス。……その鍵を、渡してやれ」


 主人の真意を測りかねながらも、エリザベスは音もなく立ち上がった。今まで自らの足元で頑なに守り続けていた「鍵」から離れ、ゆっくりと魔王の傍らへと歩み寄る。

 エリザベスが完全に距離を取ったのを見届けてから、枝豆コーヒーは一歩、また一歩と、祈りを捧げる巡礼者のような、どこか危うい足取りで鍵へと歩み寄った。彼女はその場に膝をつくと、冷たい石床に横たわる鍵を、壊れ物を扱うような手つきで、大切に、大切に両手で拾い上げる。


「……確かに、受け取りました。ありがとうございます」


 膝をつき、深く頭を下げた彼女の声は、歓喜とも悲哀ともつかない、細い震えを帯びていた。

 その様子を不思議そうに眺めていたエリザベスが、ふと素朴な疑問を投げかける。


「枝豆コーヒーさん。……その鍵は、それほどまでに大事な物なのですか?」


 問いかけられた少女の肩が、一瞬だけびくりと跳ねた。

 彼女は、失いたくない宝物を胸に抱くように鍵を握りしめると、仮面の奥で漏れるはずの慟哭を必死に押し殺し、震える吐息と共にポツリと漏らした。


「……お姉ちゃんには、内緒なんです」

「お姉ちゃん? まあ、枝豆コーヒーさんにもお姉様がいらっしゃるのですね。……ふふ、奇遇ですね。私にも、確かに妹が一人いますよ」


 エリザベスは、遠い日の記憶を愛おしむように琥珀色の瞳を細めた。


「とても可愛くて、真面目で、可憐で……。それはそれは、凄く素直でいい子だったのですよ。……まあ、今の貴方のような『変人』と一緒にされては困りますけれど!」


 誇らしげに、どこか自慢げに胸を張るエリザベス。その無邪気な言葉は、目の前の少女にとっては何よりの慈愛に満ちた賛辞であり、同時に、二度と戻れない幸福な日々を突きつける鋭利な刃でもあった。

 仮面の奥で、少女の瞳から一筋の涙が溢れ、冷たい石床へと音もなく落ちた。

 だが、彼女は決してその顔を上げない。


(……ああ。お姉ちゃん。私は……私は今でも、貴方の自慢の妹でいられていますか……?)


 魔王は、その光景をただ黙って見守っていた。

 引き攣っていたはずの彼の顔からは、いつの間にか険しさが消え、そこには言葉にできない複雑な慈悲の色が浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ