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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ムツキ&オセの場合

 六季はしゃくり上げながら成瀬の毛並みに顔を埋めていた。絶妙なタイミングだったと思うが、よくあの常務が許可をしたものだと成瀬は意外な思いがした。


「ルイ兄ちゃん…僕のこと…もう嫌いになっちゃったのかな…」


(そんなことはないよ。だけど君が思っているような愛情は与えられないってことなんだ)


 豹の姿の瀬尾が心の中で話しかける。


「お兄さんたちは…恋人同士なの?」


(そうだよ。君にもいつか現れるよ。君の思うような愛情を与えてくれる人が。でもまずはもう少し大人にならないとね。子ども相手にキスしたり恥ずかしいところを触ったりすることはいけないことなんだ。君のお兄さんたちが大人の前で強要されていたことは、もっといけないことだ…だって、ルイくんはつらそうだったんでしょ?)


 こくり、と小さく六季は頷く。


「ルイ兄ちゃんは…着物の袖を噛んで…いつも我慢してた…」


(だからね、誰かがつらい思いをしたり我慢したりしなきゃならないことは…好きな人にはしてはいけないんだよ。だから君がルイくんに唇にキスしてほしいとか、そういうお願いをするのも、ルイくんは困ってしまうんだ。心が痛くなる…)


「ほっぺは?ほっぺもダメなの?」


(うーん…それは…セーフ…なのかな…難しいね。僕はセーフだと思うけど、ルイくんがどう感じるかはまた別だからね。できないかもしれない)


「あの女の子とはキスしてたのに…ずるい…」


(愛している人とはするんだよ。好きと愛してると…まだ難しい話かな。君の育った環境はちょっと他とは違っていたから混乱してしまうよね…)


 瀬尾が根気強く話すのを聞きながら成瀬は六季の温もりを感じていた。とても綺麗な顔立ちの子だと思う。こんなに可愛い子なら実の兄弟でもないのだし、キスの一つや二つで満足するなら、してやってもいいのではないのかという邪な思いが過って、成瀬はそんな自分が嫌になった。不同意性交等罪だったか、と思い出す。そのキスの一つでも未成年相手の場合は世間的には犯罪だ。パートナー契約も十歳ではまだ適用されない。十三歳に年齢を繰り下げる法案が可決したとき、魔力切れで苦しんでいた思春期の自分は珍しく喜びを感じたことをふと思い出した。けれども六季はまだ十歳だ。八方塞がりとはまさにこのことだと、しょうもない閉塞感に囚われる。キスでその悲しみが和らぐのなら自分は与えてしまうだろうとも思った。魔界はその辺りの法律はどうなっているのだろう。いやそもそも法はあるのか。あのジーン・フォスターが君臨するのならむしろ細部に至るまで法に縛られそうだとも思って、成瀬はげんなりする。

 気付けば六季はぐっすりと深い眠りに落ちていた。今度こそ目覚めないだろう。瀬尾が人の姿に戻って六季をそっと抱き上げる。成瀬も人の姿に戻った。ずっとじっとしていたので身体が少し痛かった。伸びをする。


「良くできた人形みたいに綺麗な子ですよね。恭也がいけないことを考える気持ちもよく分かりますよ」


 瀬尾にクスリと笑われて、今まで悶々と考えていた頭の中を覗き見されていたことに気付いた成瀬は真っ赤になった。


「いや…これは…その…」


「僕は悪魔らしい思考で好きですけどね。それにしても人に合わせて倫理的に語るのは疲れますよ…実際には僕はそんなものは持ち合わせてもいませんから。だから、もしも出会った恭也が未成年だったとしても僕なら貪り尽くします…良かったです。あなたが成人していて。この世界で犯罪に手を染めると札付き転生者は更に苦労しますから」


 悪魔な笑みを浮かべて瀬尾が部屋を出ると、廊下にストラスがいてニヤリと笑った。


「似合わない子守り、お疲れさま。よくも滔々(とうとう)と心にもないことを言えたもんだな。さすがは悪魔と言うべきか」


「お褒めいただき光栄ですよ。キスしたいくらいに可愛い子を目の前にしながら、手を出さないのはなかなか我慢を強いられる時間でしたが」


「悪かったな。後はま、二人でその悶々と溜まった欲求不満を晴らすといいさ。どんな格好で何をしていようが咎める者はいない」


 ストラスはそっと六季を抱き取ると、あどけない寝顔を見下ろした。


「うーん、可愛いがさすがに俺は何かしようとは思わないな。君らは多分嗜好も似ているんだと思うよ。子どもから大人まで幅広いねぇ…ちなみに魔界じゃ十三歳から結婚できる。年齢差もあまり関係ない。一夫多妻、一妻多夫、同性婚なんでもアリだ。これだけ聞くとこの世界よりもかなり緩いと思われがちだが、案外そうでもない…それぞれにルールがある。ま、その辺はオセがおいおい説明してくれるだろう。成瀬くんの疑問についてはこのくらいざっくりで、いいかな?じゃ、良い夢を」


 成瀬は慌てて頷いた。ストラスは六季を連れて階下へと消える。扉を閉めた瀬尾は微笑んで成瀬を振り返った。


「まずは一緒にお風呂にでも入りましょうか。恭也はずっと同じ体勢でしたし疲れたでしょう。風呂上がりにマッサージしてあげますよ」


 瀬尾はそう言いながら成瀬を背後から抱きしめてくる。瀬尾の魔力が心地良くて成瀬は思わず目を閉じた。


「…僕をあまり甘やかさないで下さい…ダメな人間になってしまいそうだ…」


 成瀬がつぶやくと瀬尾は面白そうに笑った。


「ダメもなにも、あなたはもう悪魔なんですから、好きに生きたって咎める者はいないんですよ?確かに六季くんは可愛かったですけどね。獣の姿でも口付けしなくて偉かったですよ」


 瀬尾にまるで子どもを褒めるように言われて成瀬は複雑な気分になったが、それは気恥ずかしいだけで嫌な感じはしなかった。


「だからこれからご褒美をあげます」


 瀬尾の整った顔が近付いて静かに唇が重なった。

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