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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ルイ&宮森の場合

 翌朝、時間通りに目覚めた者は、皆リビングに集まって食事をしていた。やはり自然とニュースに視線が集中する。十七夜月(かのう)聖也(せいや)の名前は連日報道されていた。病院の方も大変だろうが、中にはぽつりぽつりと医師の不穏な言動について語り出す者もいた。先に殺害された者は天使と悪魔の饗宴(きょうえん)の利用者で皆生きることを望んでいなかった。一様にSNS内に死にたい殺してほしい、などの書き込みをしている。同じSNS内の別コミュニティに、数字の名前を集めるものも存在した。元は単に自虐という名のエンターテイメントとして立ち上げられたコミュニティのようだったが、十七夜月聖也はそこから素数を含む者を選び自殺幇助(ほうじょ)を申し出たようだった。殺害された者の中で東五染音(とうごしおん)のみが少々異色で、彼は十七夜月が主治医だった。彼は公表していなかったが難病を患い、芸能活動を続けることが難しくなっていた。醜い姿になってまで生きながらえるなら、美しい今の姿のままで死にたい、そういう趣旨の遺書が発見された。なお十七夜月が加納一と七を誘拐したのは、たまたま苗字の読み方が同じだったこと、そうして二人を合わせると十七になることに運命を感じた、そんな趣旨の供述をしており、精神鑑定も視野に入れる必要があるのでは、との声まで上がっていた。


「結局…十七夜月の罪は自殺幇助ってことになるんですかね…精神鑑定となると、罪に問われるのかどうかも怪しくなってくる…ったく胸糞悪いったら。結局五区での誘拐事件は模倣犯だったみたいですね。どいつもこいつも、ロクでもないったらありゃしない」


 悪魔の割には品行方正なストラスがパンをかじりながら不服そうな声を上げる。


「美しく芸術的かつ凄惨(せいさん)に殺害して欲しいという彼らの願いを叶えただけ…人々に派手なインパクトを与えるように…とは確かに後味の悪い事件だな」


 ジーンは新聞を読みながら珈琲を飲んでいた。


「まぁ…確かに…ひっそり自殺しても、発見されるまでにかなり時間が経って、見るも無残な姿になっちゃうし…魂もその隣で延々とそれを見ていなきゃいけないっていうペナルティが発生するから、誰かに殺してもらって早く発見して貰えるならその方がいいって思う気持ちも分からなくはないんだけど…」


 リツはそう言ってサラダのトマトを口に入れた。ルイがギョッとした顔でリツを見る。


「それ以上、詳しくは言わないでね…食欲なくなりそうだから…」


「ルイったら、めでたく悪魔の通過儀礼を終えたのにまだそんな可愛らしいことを言うのね」


 隣でエストリエがルイの頬をつつくと、ルイは顔を赤らめた。


「ちょっ…エストリエ…そんなこと…大声で言わないでよ…」


「あら?どうして?別に恥ずかしいことなんて一つもないでしょ?一人前の悪魔になったんだから」


 ルイは助けを求めるようにリツを見た。リツは苦笑する。耳元で囁いた。


「昨日は優しくしてもらった?」


 リツの言葉にルイは赤い顔のままリツを見ずに小さく頷いた。


「悪魔の通過儀礼って何だ?」


 そこでようやく口に入っていた物を飲み込んだらしいイチカが首を傾げる。社長は苦笑した。


「イチカはもう済ませたから大丈夫だよ。それに元々イチカは悪魔だしね。儀式のときにしてもしなくても、そこまで大きく影響はしないんだ」


「もう済ませた…?よく分かんないけど、オッケーなんだな。なら別にいいけど」


 傍らのルイからヒヤヒヤしている空気が伝わってくる。リツに対しては色々とあけすけに言う割には自分のこととなると途端に照れるようだ。


「あれ?そういえば、成瀬くんがいないね。瀬尾さんも」


 リツはふと二人の姿が見えないことに気付く。不意に後ろから含み笑いが聞こえて、どこからともなく黒木が姿を現した。


「…お二人を起こそうと思いましたところ、朝から獣の姿で励んでおりましたから、お声をかけそびれてしまいました」


 ルイが動揺したのか口に含んだカフェオレにむせ返る。


「へぇ。獣って随分と激しそうだな。豹だったっけ?」


 イチカが感心したように言って隣の社長を可愛らしい顔で見上げた。


「なんだい?」


「今度私も獣になってみようかな?」


「興味あるの?まぁ、種類にもよるけど…猫科は痛いから正直オススメしないよ?そうだ!それで思い出したけど、誠司にもそろそろ適当に相手を見繕(みつくろ)わないといけないね。今年こそは社員に手を出したらダメだよ?記憶を操作するのに、去年僕は三日寝込んだんだからね?」


 宮森誠司が気まずそうな顔をして何故かリツを見た。同じ会社だからなのだろうが、社長はいったい誰の記憶を改ざんしたのだろうと思う。社長は、それまで気配を消していたかのようにひと言も口を開かずに黙々と食事をしていたケビンとその隣のルイを交互に見た。


「うーん、誠司は顔がキレイならどちらでもいけそうだけど、君たちのどっちか黒豹とのプレイには興味ある?」


「さっき、猫科は痛いからオススメしないって言ってたじゃねーか!どの口が喋ってんだよ」


 目玉焼きを頬張っていたケビンがゾッとしたような顔をして叫ぶ。隣のルイも引きつった笑みを浮かべた。


「アフターケアはちゃんとさせるし、何なら僕もするからさ、ちょっと考えてみてよ」


 社長はおっとりと笑ったが、新米悪魔と半吸血鬼は揃って怖気(おじけ)づき首を横に激しく振った。



***



「あの…ルイくん」


 ルイは洗面所で宮森誠司に声を掛けられ、思わず飛び退いた。彼は困ったような顔をする。


「社長が誤解を招く言い方をしましたが…人とするときに僕は獣の姿にはなったりしません…薬で発情しないように気をつけてもいますし…」


「そう…なんですか」


 ルイは少しホッとして、そのホッとした自分の感情に慌てる。いや、相手はこう見えてその本性は豹だ。


「いや…僕は…その…」


「どうした?ルイ」


 そのときストラスが顔を出した。微妙な空気の漂う二人を見てストラスはすぐに事態を察した。


「…宮森さん、ルイは昨日俺との契約を完了させたばかりだから、昨日の今日で誘うのはちょっと遠慮してほしい。俺だって余韻を楽しみたいからな…」


 ストラスはそう言ってルイを抱き寄せ牽制した。そのこめかみに口付けをする。


「…申し訳ありません…」


 上位の悪魔の言葉には、使い魔は従わざるを得ない。それにいつも飄々としていて、普段はあまり恐怖を感じさせない相手だが、今は何やら恐ろしい気配を放っていた。宮森は即座に引き下がる。やはり流石はアルシエルの右腕だ。あの厳しい悪魔に何百年も付き従っているだけあり悪魔としての貫禄が違う。


「…あの…では…情をかけていただけませんか?」


「は…?」


 ストラスを上目遣いに見る宮森の表情は冗談を言っているようには見えなかったが、ストラスは苦笑して首を横に振った。


「悪いが今は他を当たってくれ。特に、欲求の解消のためだけに俺やルイに声をかけるのは控えてほしい。それだとルイにとっては今までと同じことの繰り返しになる。こう見えても俺は契約相手には誠実に向き合いたいんだ」


「すみませんでした」


 宮森は一礼して去ってゆく。ルイはホッとして思わず小さなため息をついた。


「…ルイ…余計なことをしたか?」


 ストラスのやや不安そうな顔にルイは首を横に振った。


「思わず…あの顔にほだされてオッケーしそうになるところだったから…中断してくれて…良かった…ダメだね、僕。流されやすくて」


「ま、確かに彼はイケメンだよな。あれは男女問わずモテるだろうな」


 そう言いながらもストラスは突然ルイの腰を抱いて口付けをしてきた。いつもより長くて深い。


「ん…?」


 ルイは次第に慌てる。魔力切れでもないのにストラスがこんな風に触れてくることは今までなかった。


「…ストラス…?」


「他の奴に流されないように繋いでるんだよ。しばらくの間は縛っておく。ルイには多分こういうのも多少は必要なんだろうな」


 ストラスはルイの首に本当に首輪をつけた。鏡に映るルイは黒い革の首輪をつけていた。じっと見ている間にそれは視界から消え失せる。けれども首輪をつけられた感覚ははっきりと残っていた。


「ふらふらしそうになったら、お前と契約した悪魔が誰だったかを思い出せ。この首輪の紐を握っているのは俺だ…印を刻んだのも…」


 ルイは見えない首輪に触れて思わず赤くなった。心臓がバクバクしてきた。


「…ちょっ…と…興奮してきたかも…しれない」


 ルイの言葉にストラスは肩をすくめた。


「おいおい…少しは屈辱を感じろよ。興奮してどうする」


 ストラスは選択アイテムを間違えた気がしたが、すでに遅い。明らかにルイは見えない首輪に喜んでいた。 

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