ストラス&ルイの場合 6
ルイは今度こそ悪魔の操る巧みな夢に騙されたりもせずに、身も心もストラスのものになった自分を意識していた。心地良さと痛みに苛まれながらも、ルイは今までに感じたこともないような幸せに満たされていた。
「…痛かったよな…よく耐えた…」
ルイは首を横に振る。痛いだけではなかった。実際のところ、ルイはほぼ快楽に溺れていた。それでもストラスにはルイの感じた痛みの在り処が分かるのか、指で探られて癒しの魔力を流された。ルイを抱いたストラスは悪魔の姿をしている。少しクセのある長い黒髪に鋭い金の瞳。一回りも二回りも大きくなった鋼のような肉体の前では、ルイは小娘も同然の、か弱い悪魔になりたての一人の少年でしかなかった。
「強がるな。ルイのことは…これでも他の奴よりは、少しは分かっているつもりだ…」
「うん…そう…だね。魂も身体も…もう残らず全て曝け出しちゃったよ…隠すところも何もなくて…恥ずかしい」
ルイはストラスの腕の中で身動ぎをした。リツを散々からかったのに、あのときのリツよりも声がかれているのが分かる。すぐにストラスはルイの喉にも手を当てる。するとルイの喉の違和感が和らいでゆく。考えを読まれているのかと思った。
ルイの身体にあった傷跡は以前よりも薄くなってきていた。それはかつてルイを繋いだ者たちの痕跡でもある。身体を繋いだストラスは、その証として他人からはまず見えない場所に彼の印をそっと刻んだ。服を脱いだだけで見えてしまうような場所には残さない。それがストラスの流儀だったが、ルイが思いのほかそのことに喜びを感じているのが伝わってきて、ストラスは複雑な心境になった。あまり傷跡に執着されると不安にもなる。加虐的な悪魔は唆られるだろう。そこまで印に拘るストラスではなかったが、恍惚とした眼差しでこちらを見上げてくる顔つきを見ていると、この美しい顔を苦痛に歪めさせたいと、心の片隅に鎮めたはずのもう一人の獰猛な悪魔の囁き声が聞こえてくるかのようだった。手玉に取られるつもりはなかったが、こちらの自制心を揺るがせるのがルイの悪魔としての魅力であり、ストラスが侮れないと思う所以でもあった。
ストラスはルイの短い金髪に指を絡ませる。髪の長い頃の性別があやふやなルイも彼は好きだったが、それを口に出したことはなかった。青い瞳が何かを期待するように見つめている。ストラスはその期待に応えるべく甘噛みしながら唇を吸った。
「ケビンに…言われてたな。キスが上手いって」
「ん…」
ルイはストラスを真似て柔らかく噛んで吸う。ルイは吸収が早い。唇を重ねながらストラスはそんなことを思う。
「キスは…ストラスのが…一番気持ちいいから…ストラスみたいに真似した…」
「キスはってことは、それ以外は及第点かよ…」
ストラスは思わず苦笑する。ルイは慌てて首を横に振った。
「違うよ…でも…ちょっと…びっくりした…その…大きいから…」
ルイは赤くなって口ごもる。確かに全裸になったストラスを見て一瞬怯えた表情になったのは体格差のもたらす諸々の影響だったかとストラスは納得した。負担をかけたと思われる腰回りから順番に癒してゆくと、ルイは気持ちよさそうに目を閉じて息を吐いた。
「リツが…悪魔はアフターケアが入念で優しいって言ってたけど、本当なんだね」
「…そんな話も…するのか?」
ストラスはやや意外そうに腕の中のルイを見下ろす。
「僕がしつこく聞いたら…渋々教えてくれたよ」
ルイは小さく笑う。あまり事細かにそんな話をしているところは想像がつかなかったが、二人には二人なりの親密さと距離感があるのかもしれない、そんなことを思う。リツとルイを見ていると全く似ていないのに姉弟のように見えてくるのが不思議だった。
「でも、これで本当に分かっちゃったよ。今まで僕を抱いた人たちは…本当に僕のことを欲望の捌け口にしかしてなかったんだな、って。前にストラスに言われたときは…半分くらいしか納得してなかったんだ…でも、誰もこんな風には愛してくれなかった…ただ痛くて…辛くて…そういうものだってずっと思ってた…」
ストラスは大切なものを扱うようにルイの頭を優しく撫でた。ストラスは甘い言葉を山ほど囁いたりはしない。代わりに行動で示した。乱暴に扱われることが多かったルイにとって、その力強い見た目とは裏腹な腕の優しさは、あまりに切なくて泣きたい気持ちにさせられた。
「今は…どうだ?少しは安心できそうか?」
ルイの魂と肉体の全てを所有し繋いだ目の前の契約者は優しい目をしている。ルイは頷いた。
「幸せ過ぎて怖いよ…どうしたらいい?」
「別にどうもしないよ。これは一人前の悪魔になる為の通過儀礼だ。これでお前もその気になれば、誰かを悪魔に変えることができる。ま、しばらくは俺のサポートは必要だけどな」
「…通過儀礼…」
その言葉を噛みしめるようにルイは呟く。確かに今まで感じていたどこか浮いているような不安さは消えた。しっかりと悪魔の契約で繋がれている。愛してるなどという不確実な囁き声よりも明確に契約という名の鎖でストラスに繋ぎ止められた感覚があった。
「ストラスにちゃんと繋がれてる感じがするよ…」
ルイの表現にストラスは眉を下げて少し困ったような顔で腕の中の小悪魔を見下ろした。
「それは…あんまり口に出して言うなよ?お前の嗜好にどうこう言うつもりはないが、そのイメージはちょっと…聞く者によっては誤解を招く」
「えぇ?じゃあ何て言えばいいの?」
「悪魔の契約完了でいいんだよ」
「なんかそれだと味気ないなぁ…」
「だいたい、繋ぐなんて言ったらペットか何かみたいじゃないか。ルイはそれでいいのか?」
「ストラスになら飼われるのもありかもね?」
「お前、そういうとこだよ。他の悪魔には軽々しく言うなよ?本気にされると面倒だ。アスモデウス元帥辺りが耳にしたら喜んでルイの首に本物の鎖をつけて隣に繋ぐぞ?」
「うわー。やっぱり、そのアスモデウス元帥って人、気になるなぁ…」
「あぁ、言っとくと元帥は俺よりも更に体格がいいからな。ルイが大人になっても無事で済むかは怪しいところだな。とにかく、早めに大きく変身出来るようになっておかないと今のままじゃ無理だ」
ストラスの言葉にルイは口をつぐんで微妙な表情を浮かべた。今のストラスよりも?いや、それはもう絶対に無理だ。ルイの想像が透けて見えるようで、ストラスは思わずニヤけてしまったが、ルイはそこで思い出さなくても良いことを思い出して言った。
「あぁ…だから、ストラスも許容範囲なんだ…すごいんだね、元帥って」




