表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/64

ストラス&ルイの場合 3

 その後もルイは夕方になるまで遊び倒し、帰り道の途中のファミレスで食事をした。今まで節制して野菜ばかり食べていた反動なのか、ルイはハンバーグを注文した。ペロリと平らげて帰路につく。

 車を走らせていると窓の外を見ていたルイがポツリと言った。


「このまま…帰るの?」


「どこか行きたいのか?」


「ん…行きたいっていうか…ホテルとかには寄らなくていいのかな?って思っただけ」


 ストラスは思わずため息をつきそうになり慌てて飲み込んだ。そうだ、ルイは清葉学園に入る前まではそんな生活をしていたのだと主の話を思い返す。


「ルイ、あのな、どんなに好きな相手とだって毎回毎回ホテルに寄るものでもないし、抱かれないからって不安になる必要はないんだ。俺がルイを抱かなかったとしても、放り出したりはしないし、ルイが飽きるまでずっと一緒にいるつもりだ…理解できないか?」


「そう…なの?」


 ルイは理解できないというよりは途端に不安そうな顔をした。大人びた顔をすると思えば急に幼い顔付きになる。


「例えば…頭を撫でられる、抱きしめられる、それだけじゃ安心できないか?」


「どう…だろう…それだけだったことなんてないから…分からないよ」


 ルイは俯いて、きつく両手を握りしめていた。ちょっとまずい話題だったかもしれないと、ストラスは少し先にパーキングエリアを見つけて急いで車を停めた。過呼吸は起こしていないが、いつ起こしてもおかしくはない危うい気配がした。

 シートベルトを外してルイの方に向き合うと、ルイは手を伸ばして急に抱きついてきた。その手はすっかり冷えて震えていた。


「名前…呼んでも…いい?」


 ルイが耳元で囁く。


「いいよ、なんだ、そんなことまで遠慮してたのか」


「ストラス…」


「うん?」


「ストラスは優しいから…時々すごく怖くなる…」


「どうして?」

 

 聞き返すとルイは押し黙る。ようやく口を開いたが、言いにくそうに続けた。


「急に…捨てられないかって…」


 ルイはしばらくストラスに抱きついていたが、ぽつりぽつりと語り出した。


「前に拾ってくれた人が…普段はめちゃくちゃ甘くて…でも突然殴ったり蹴ったり…優しいと…後からしわ寄せが来るって、ストラスはそんなことする訳ないと思っても…不安になっちゃって…その人に…ドライブの途中…知らない場所で放り出されたから…」


 ストラスはルイの頭を撫でた。


「もしかして…車で遠くに移動するのも…怖かったのか?捨てられるかもしれないって?」


 ルイは遠慮がちに小さく頷いた。ストラスは抱きしめる腕に少し力を込める。レンタカーを借りたのもまずかったかと歯噛みする。


「次から苦手なことは遠慮せずに言ってくれ。違う方法を選ぶから」


「うん…」


「でもな…俺は違うよ。俺は悪魔のわりにはビビりだから殴ったり蹴ったりするのは嫌いだ。そもそも血が苦手だからな。昨日ルイの血を見て内心ではビビり散らかしてたけど、儀式だからなんとか完了させたくらいだ」


 時には嘘も方便だ。主を害する者は容赦なく排除する。血が好きでないのは本当だが、契約に必要な行為でも飲むのがあまり好きではないだけであって、引き裂いて血塗れにした相手の腸を引きずり出すくらいのことは平然と行える。獣の姿になれば尚更だ。この獰猛さを見せつけたらルイは離れるだろうか。だが少なくとも今ではない。ストラスはルイの背中を優しく撫でた。この手も決して嘘ではない。同じ手だ。ルイはストラスの胸に顔を埋めた。


「知らない場所は…元々苦手なんだ。僕だけじゃなく…多分…札付きの転生者ってさ、知ってる場所じゃないと他の人よりもすごく不安になるんだよ。リツも言ってた。危ないって分かっていても住む場所を変えられなかったって。僕は拾われて抱かれたら…とりあえず安心する…そうしないと生活できなかったってのもあるけど…何もない方が怖い。変だよね。頭では分かってるんだ。それがおかしいってことも」


 ようやくルイは顔を上げる。口にするのを迷っているようだった。


「…やっぱり…キスしたい…ダメ?」


「うーん…一応今の俺はルイの保護者の立ち位置なんだよ?分かるか?本来なら保護者とそういうことはしない。まぁでも俺は悪魔だからな。ルイの魔力が足りないと思ったら、することもある…」


 言い訳を口にして冷えた手を握っていると、それを封じるかのようにルイが自分から唇を重ねてきた。確かに魔力は減っている。体温が低い。


(これまでにルイを教育してきた奴らを恨みたくなるねぇ)


 途中唇を柔らかく甘噛みされる。こういうところだ。この小悪魔は侮れない。ひとしきり無心に口付けをし終えるとルイは少し潤んだ瞳でストラスを見つめてきた。震えは止まっていた。


「その顔は今後禁止にしようかな」


 ストラスが頭を撫でて苦笑する。ルイは頬を膨らませた。


「どうして?」


「クソ可愛いからだ」


 ストラスが言うとルイは思わずといった様子で小さく吹き出す。


「それって褒め言葉?」


「世の中の悪いおじさんがホイホイ釣れそうだから、誰にでも簡単にそんな顔見せるんじゃない。お前の将来が心配になる」


「ストラスは僕の将来を心配してくれるんだ」


「当たり前だろ」


「ちぇっ。おじさんホイホイで引っ掛けようと思ったのに。ストラスはまだお兄さんって感じだけど」


「そういうところだよ、この小悪魔が。何百年生きてると思ってるんだ」


 ストラスの言葉にルイは嬉しそうに笑い出す。


「大好きだよ、ストラス」


 結局帰りの道中もストラスは小悪魔に弄ばれ続けることになったが、少しだけルイに対する理解が深まったことにホッとしてもいた。この小悪魔を一人前の使い魔に育て上げることが、ひとまずはストラスの今後の目標だ。不安は一つずつ取り除いていくしかない。何事も一歩ずつだとストラスは思った。



***



 二人が帰宅すると、すでにリツとジーンは帰宅していて、仲良く食事をしていた。エストリエはアイマスクをつけてソファーでぐったりと横になっている。魔界の仕事を終わらせたばかりのようだった。


「ただいまーお土産買ってきたよ!」


 ルイがテーブルにチョコクランチと饅頭の箱を置く。土産物屋の前でルイは真剣に悩んでいた。


「こういうの買ったことないから分からないよ。食べ物の方がいいよね?」


 必死に聞いてくるのが可愛くて、ついからかってみたくなる。


「土産物の定番と言えばキーホールダーだろう」


「えっ?そうなの?形の残る物ってこと?」


 一瞬本気にしかけたルイはストラスがニヤニヤ笑っていることに騙されたと気付く。


「何でもいいんだよ。要は相手のことを考えて選ぶ気持ちだからな。大事なのは」


 ちょっといいことを言ったかもしれないと一人悦に入っていたストラスだが、その間にルイは悪い大人にナンパされかかっていた。まったくこれだから少しも目が離せない、とストラスは実感する羽目になったのだが、当の本人は気付いてもいなかった。そういう少し抜けているところがリツと似ている、と思い二人がどうして仲良くなったのかが、なんとなく分かってしまった。危うさを抱えた類友だ。


「外食したからお腹いっぱいだけど、デザートは食べたいな」


 ルイはそう言ったが不意にエストリエの方に駆け寄る。


「大丈夫?」


 ルイはエストリエのおでこに手を当てた。


「…なんか熱いよ?熱出てるかも!」


「えっ?」


 ストラスが慌ててエストリエに触れる。確かに熱い。そういえばここ数日ルイにかかりきりでエストリエと触れ合っていなかったことに思い至る。アイマスクを外すと力のない薄いピンク色の目がストラスを見て苦笑していた。


「ちょっと…仕事…し過ぎただけよ…」


「こんなときに強がるな。すまなかった、エストリエ。ルイも、気付いてくれてありがとうな」


 ストラスはいつになく弱っているエストリエを軽々と抱き上げると足早に二階に消えた。



***

 


「僕の…せいだよね…僕がワガママ言って…ストラスを独占したから…」


 ソファーの上でルイが膝を抱えて丸くなってしまったので、リツは隣に座って肩を抱いた。何と言っていいか分からずリツは黙ったままルイに寄り添う。


「ルイが気に病むことはない。エストリエは大人だ。自己管理ができなかったのは自分の責任だ。それにストラスだって大人だ。パートナーの不調を見抜けなかったストラスにも責任はある」


 それにしても、吸血鬼のエストリエは最初はこちらの空気にもさほど不調を感じていなかったはずなのに、何故急にこんなことになったのかとジーンは考えた。やはりストラスとの接触が普段よりも減っていたのに加えて今日ストラスは珍しく遠出していた。パートナーとの距離も関係があると考えるのが妥当だろうとジーンは結論づけた。


「ルイ、とりあえずデザート食べよっか」


 リツが言うとルイは素直に頷いてテーブルの方にやって来た。プリンを手に取ると早速一口食べた。


「今日ね、帰りに寄ったファミレスでハンバーグを食べたんだ。美味しかったよ」


 ルイが言うとリツはホッとしたように笑った。


「ルイもようやくお肉が食べれるようになったね」


「うん。あと…途中で今日アサヒから連絡が入ってて…週末にでもみんなで会えないかって。トウマとコーキと、もちろんリツも」


「ええっ?アサヒとコーキは知らないんだよね、私が…その…中三男子じゃないってこと」


「うん。でもホラ、暮林家でお世話になってるって言っちゃったからね…」


 リツが困ったようにジーンを見上げるとチョコレートムースを食べていたジーンは事も無げに言った。


「正体をバラしても問題はないぞ?むしろジーン・フォスターの妻だというところを強調しておけ。潜入捜査の件は…そうだな、伊集院家絡みで調べていたことにすれば問題ない。そうだろ?」


「微妙に嘘とホントが混じり合ってるけど、トウマのことをバラす訳にはいかないもんね。僕はそれでいいと思うよ?お姉さんと暮らしてるって聞いたらコーキが悶絶しそうだけど」


 人の悪い笑みを浮かべてルイはプリンを口に入れる。


「ただし、外では会うな。だいぶ下火にはなったが、マスコミに嗅ぎつけられたら面倒だ。集まるならここにしろ」


 ジーンの言葉にリツとルイは思わず顔を見合わせたが、それ以外の選択肢はなさそうなジーンの顔付きに、神妙な顔をして頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ