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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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リツ&社長の場合

 ストラスはその後三日間入院して水曜日に退院した。匿名の何者かによる録画記録が提出されて伊集院俊光の虐待の事実は明るみに出ることとなった。

 転生者に理解のある慈善活動家の裏の顔にマスコミは連日報道を繰り返し、学校にまでルイを追いかけた取材陣が押しかけたので、ルイはしばらく登校を控えていた。どこで情報が漏れたのか友人としてリツまでがマークされる羽目になり最終的にリツとルイはこっそりと清葉学園から退学した。

 ルイは家にいる間に長かった髪を短く切り、すっかり見た目も少年らしくなった。リツは元の姿に戻り出社したが、ジーンは前任の養護教諭が生徒に対するわいせつ行為が発覚し懲戒免職となった為、後任者が見つかるまで足留めを食らっていた。

 久々に出社したリツを待ち構えていたのは意外な人物だった。来客だと社長に呼び出されたリツが社長室に行くと、警視庁転生者対策本部所属の五十嵐警部が待ち構えていた。


「あっ…えっと…どうも…その節は…大変失礼しました。お久しぶりです」


 暴れて抵抗した挙句に催涙スプレーをかけようとした過去が蘇りリツは気まずさのあまり赤面した。そんなリツを五十嵐警部は不思議そうに見つめていたが、リツと目が合うと慌てて破顔した。


「いや、ちょっと見ない間に雰囲気が随分変わったな。元気そうで良かったよ」


「あぁ…警部でも違いが分かりますか。何しろ彼女は良縁に恵まれて結婚したばかりですからね。以前とは魔力もケタ違いに上がって安定してる、という訳ですよ」


 横から社長がニコニコ笑いながら余計なことを言う。


「それは良かった。おめでとう。暮林さん、あ、もう暮林さんではないのか?」


「あ、はい…リツ・フォスターです…」


 リツはいまだに慣れない名前を口に出す。


「この度は、伊集院家の虐待を見抜いてくれて感謝している。ルイくんは元気にしているか?」


 五十嵐警部の言葉にリツは頷いた。


「はい。変装してしまえばバレないのでけっこう気軽に外出したりもしていて、こちらの方がヒヤヒヤしちゃうくらいです」


 リツが言うと五十嵐警部はホッとした顔をした。


「じゃ、また、と言いたいところだが、呼び出されない方が転生対策本部としては安心なのもあり…ま、このご時世じゃそうもいかないだろうな」


「えぇ…社内で対応できる案件はできるだけ処理するようにしますが…今回のようにあまりにも大物が関わっていると、こちらの手には余る場合もありますからね」


 社長が微笑んだところで、五十嵐警部のスマホが鳴り、警部は片手を上げると足早に出て行った。相変わらず忙しい人だなと思いながらリツはその後ろ姿を見送る。警部がいなくなると、足音もなく黒猫が擦り寄ってきた。


「えっ?あれっ?宮森さん!?どうしたんですか?」


「おや、やはりバレてしまいましたか。今更フォスターさん、と呼ぶと変な感じですね。ビジネスネームは暮林のままにしましょうか?」


「あぁ…そうですね」


 リツは頷く。


「すみませんが、暮林さん、少し宮森に魔力を与えられるか試してもらえませんか?」


「はい、分かりました」


 社長に言われるがままに応接室のソファーに座ると、黒猫はやや遠慮がちに隣にやってきた。それでも結局最後にはリツの膝の上に乗る。魔力が足りていないのがすぐに感じられた。


「どう…でしょうか?」


 リツは黒猫の背中をゆっくりと撫でてみる。魔力が多くなると自然と少ない方に流れるから触れ合うだけで大丈夫だとジーンにも言われていた。


「暮林さんも市販の魔力回復薬はそれほど効かない体質だったと思いますが…」


 社長に言われてリツは頷く。それでもないよりはマシなので使っていたが、倦怠感は抜けず毎日辛かった。


「宮森は効かないどころか拒絶反応が起こって吐いてしまうんですよね。今のところ私の魔力でしか補えず困っていたのですが、どうやら暮林さんの魔力だと大丈夫そうですね…」


 いつの間にか膝の上に宮森誠司その人が横たわっていてリツは慌てた。いつも無表情な秘書の宮森もさすがにギョッとした表情を浮かべ、慌てて起き上がる。


「す、すみません」


「あっ…いえ、お役に立てたなら…良かったです」


 宮森は信じられないという顔付きでリツを見た。いつも冷たい人だと思っていたが、それは彼が魔力不足で表情を取り繕う余裕もなかったのだとリツはようやく理解する。魔力が満たされていると、むしろ表情豊かだ。


「暮林さんって…専務との身体の相性も抜群なんですね」


「なっ…ちょっ…」


 宮森に言われてリツは途端に見方を変えようと思っていた彼に対する印象を再び全面撤回した。


「仮に僕が社長と仕方なく最後までやったとしても、ここまで回復できませんよ。いいなぁ。羨ましいです」


 なんてことを平然と言うんだと思って、彼も悪魔もとい使い魔なのだと思い至る。揃いも揃って発言に遠慮がない。


「仮に思ったとしても、そんなこと口に出してわざわざ言わないで下さいよ」


 顔を覆って脱力するリツを見て社長は吹き出した。


「すまないね、暮林さん。悪魔なんてそんなものだよ」


「ジーンはもう少し発言には配慮してくれるんですけど」


「彼は悪魔の中ではむしろ特殊だよ。長い間異世界を放浪し過ぎたから、私たちとは感覚が違うんだろうね。変わってるのは彼の方だよ?そこのところは間違えないでよ?」


 薄々感じてはいたが、やはりそうなのかとリツは納得する。ストラスも多少は配慮があるのは、同じく異世界放浪生活が長いからだ。エストリエや社長や宮森の方が魔界の感覚に近いのだと思うと、この先自分も耐性を高めていかないと、この手の会話が平気で飛び交う場所に行くのかと思い、リツは遠い目になった。


「ま、慣れだよ慣れ。むしろ誠司に感謝して。これからたまに魔力をもらうことがあると思うから、その度に色々言われると思うよ。単なる感想だ。暮林さんも笑って聞き流せるくらいにならないとダメだよ」


 そう言って社長は楽しそうに笑った。

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