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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ジーン&リツの場合 16

「…トウマと話はできた?」


 注射と言ったのにそうではなく、結局経口摂取でジーンから受け取りながら合間にリツは尋ねた。


「…帰ったら話す」


 そう言って悪魔は再び熱心に口付けをしてくる。自分からはうまくできないのに受け取るのだけは上達しているのに気付き、リツは複雑な気持ちで魔力を飲み込む。悪魔になったせいなのか、ジーンの魔力がすでに心地良いと感じる。


「帰ったら…?」


「せっかく二人きりなのに、他の誰かの名前を口に出すな」


「えぇ?」


 強く抱きしめられて言葉を封じられる。


「…そんなに気になるか?」


「まぁ…仕事…だから」


 リツの言葉にジーンはフッと低く笑った。


「佐伯凛の名前を呼んだら面白い反応が見られたぞ。どうも前任の養護教諭が出来もしない口約束を交わしたらしい…これだから元天使は…」


「どんな約束?」


「要するに魂の入れ替えだな。だが言っただけで冬真の魂はまだこちら側にあるから、佐伯凛の身体は病院で寝たきり…天使のくせに悪魔の契約めいたことを口にするから面倒なことになった訳だな」


「じゃあ…佐伯凛の身体は…魂の抜け殻ってこと…?それって長期間はまずいんじゃ」


「あぁ、そうだな。早めに決着をつけないと、本当に戻れなくなり肉体も朽ちる…放課後に再度医務室に来るように言ったが、もし帰ろうとしていたら、何が何でも帰らせるな。頼んだぞ?」


「分かった」



***

 

 

 ようやく昼食の時間になり、ルイはリツと手を繋いで食堂へと移動した。初日はあまり意識していなかったが、男子校とは言っても昨今の風潮もあるのか手を繋いだり腕を組んだりしてカップルに見える生徒が他にもいる。とはいえリツが見掛けたのは皆転生者同士だったので、互いに効率良く魔力を得るために付き合っている可能性も高かった。

 今日もルイのトレーは野菜多めで少量のご飯におかず、果物で構成されている。リツは昨日同様に山盛りだった。二人が席に座ると昨日と同じくアサヒとコウキが座っていた。


「それにしてもアサヒ、よくあんなこと言ったな。俺が言うならともかく」


 コウキが唐揚げを頬張りながら笑う。コウキのトレーは今日も全体的に茶色い。山盛りの肉に覆われている。


「だって松田先生、ちょっと変な目でリツを見てたからさ。かわしにくい質問するんじゃないかって思って。気付かなかった?」


 転生者の勘とでもいうのか、アサヒはやってきた二人を見てそう言った。


「アサヒありがと。別に悪い人ではないと思うんだけど、僕も釘を刺されたから、気をつけようとは思ってたよ」


「え?なんか言われたの?」


 ルイが渋い顔をする。


「まぁ…でも、大丈夫。この際だから最大限、学園内にはびこる転生カーストとやらを利用しちゃうって手もあるし」


 リツはモリモリとパスタを食べる。こう見えて中身は女性だと知っているルイからすると、すごい食事量だと思う。


「隣、いい?」


 突然声がして、近くに立っているのがトウマだとリツは気付いた。リツの返事を待たずにトウマは座る。


「トウマ、食べ物の好み変わったか?前は甘いのなんか食べなかっただろ」


 コウキがトウマのトレーに乗ったパウンドケーキとプリンを見たのか何気なくそう言った。


「別に食べない訳じゃない…それより、本当にリツはルイと付き合うのは止めた方がいいと思うよ。今野が戻ってきたら面倒なことになる」


 トウマは小声で言った。


「なにそれ、生徒会長としての忠告?自分のクラスでは揉め事は起こしたくないっていう魂胆が見え見えなんだけど」


 ルイが怒って言いかけたのをリツは手で制した。


「忠告ありがとう。よく分かったよ。そうやって、外堀から入念に埋めていくから、結局ルイは元天使の今野くんのものっていう立ち位置が続くんだよね。転生カースト万歳って訳?」


 リツが唐揚げにフォークをグサリと突き刺す。トウマが動揺したのが分かった。リツは一口で唐揚げを頬張る。その見た目に反して食べ方は妙に豪快で男子っぽい。


「面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だから大人しくするつもりだったけど、昨日ルイが殴られるのを見て気が変わったんだよね。元天使の家が太いとかそういうのは正直興味がない。でもあんな性根の腐った奴に渡すくらいなら、ルイは僕が貰う」


 豚肉の生姜焼きをご飯の上に乗せて肉で巻いて、リツはモリモリと食べる。草食動物のように野菜を食べていたルイは感心してその食べっぷりを見守った。


「貰うって…元天使の転生者に敵うわけが…」


 トウマは言いかけたがリツは早くもご飯を完食して笑った。デザートのプリンを食べ始める。


「カーストの頂点が元天使って絶対に決まってる訳じゃないよね。天使にだって階級がある。少なくとも今野くんは能天使ではないから司令官レベルじゃない。ってことは今の僕でも多分捻じ伏せられる。だって僕は悪魔だから。知ってた?転生前の気配って薬でけっこう消せるんだよ。便利な時代だよね」


 そういえば昨日も食後に錠剤を飲んでいたなとルイは思った。何かのサプリメントかと思っていたが、そうではなかったらしい。コップの水で三粒飲む。本当にこれが悪魔なのか疑わしいほどに普通だった。


「ちゃんと飲まないと、松田先生みたいな元勇者には恐れられちゃうから…」


「え?松田先生って元勇者なの?恐れるって、え?勇者なのにリツを?」


 ルイが吹き出す。これまで黙って魚を食べていたアサヒが突然目を輝かせてリツを見上げた。今日もきれいに骨が外されている。


「リツってマジで悪魔なの?」


「あ…うん…元堕天使で…今は悪魔」


「かっけー!ねぇ、リツ!僕のこと下僕にしてもいいから仲間に入れて」


「は?何言ってるの?普通に友だちでいいでしょ。なんで下僕?」


「だって、悪魔には使い魔が必要でしょ」


「あのさ…必ずしも…必要な訳じゃない…と思う」


「僕さ…転生前はその…使い魔だったんだよ…今まで誰にも言ってなかったけど」


「マジか」


 コウキがトンカツを頬張りながらアサヒを二度見する。


「いいなぁ、使い魔。それエロ要素ないの?」


「は?何考えてんの?インキュバスじゃねーよ。それこそ妄想し過ぎ」


「ちぇっ、つまんねー。美人の元吸血鬼のお姉さんとかいないかなー」


 思わずリツとルイは目配せする。身近に現役なら知っている。ルイは不意に昨夜のことを思い出して赤面した。エストリエは魅力的で美しかった。


「ルイどうした?」


 コウキが赤面しているルイに気付いて面白そうにニヤニヤする。


「何考えてんの?」


「…別に。リツ、今日は医務室行かないの?」


「あぁ…ちょっと朝から変則的になっちゃったから…でも一応行ってこようかな」


 リツがトレーを持って立ち上がるとルイも席を立った。


「僕も行くよ」


「えっ?」 


 トレーを返却口に下げてビュッフェ横を通り過ぎざまにリツはチョコパウンドケーキとプリンを掠め取る。が、一瞬にして手にしたそれは視界から消え失せた。


「今何したの?」


「秘密」


 リツはスタスタと足取りも軽く医務室へと向かう。ドアをノックして中に入ると、また担任の風間がいて注射をしてもらっているところだった。


「いやー全然違いますね」


 今朝はやけに顔色が良いと思ったが、どうやら昼休みのこれが効いていたらしい。


「じゃ、ごゆっくり」


 風間が意味深な笑みを浮かべて医務室を出てゆく。ジーンはドアの前に手をかざす。


「これでしばらくは誰も入ってこないが…なんでルイもついてきた?」


「いや…あの…一応付き合ってるって設定なので…そこは崩したくないなと…」


 リツはデスクの上にチョコパウンドケーキとプリンを置いた。


「プリン…美味しかったから」


 そう言って背伸びをしてジーンの首に両手を伸ばす。まんざらでもない様子で微笑んだジーンが屈んで唇を重ねながら片手で腰を抱き寄せる。白衣の養護教諭と制服姿のリツは少年のようにしか見えない。なのに妙な色気を感じて、ルイは思わず見惚れたが、我に返り懸命にそこから視線を逸らした。


「まだそれなりに魔力は足りているな。ルイは今日もうちに泊まるのか?どうする?」


 リツを抱きしめたまま、ジーンは面白そうに聞いてくる。


「私は別に構わないぞ?エストリエも案外気に入ったようだしな。栄養バランスを整えたらルイの血を飲んでみたいようだ。ストラス以外の血が不味くて飲めないのも、それはそれで吸血鬼としては問題があるからな。異世界の住人で試したいらしい」


 言いながらジーンはリツの首筋に薄く透ける血管を指で辿る。


「リツの今の血は旨そうだな…儀式のときは栄養不足だったからな…」


 ジーンが低く笑った。


「ちょっ…止めて。そこは目立つから…」


 首筋に近付いてきた唇をリツはやんわりと拒絶する。


「あ…プリン…!冷たいうちに食べて!血はいつでも飲めるでしょ?」


「…飲んでいいのか?」


「倒れない程度なら…」


 リツから手を離したジーンはデスクの引き出しから使い捨てのスプーンを取り出すと本当にプリンを食べ始めた。


「確かに…旨いな」


 リツは首に手を当てて小さく息を吐いた。危ない、捕食されるところだったと、その表情が雄弁に物語っている。ジーンはパウンドケーキもペロリと完食する。聞いた通りの甘党だ。


「リツにも頼んだが、ルイにもお願いしよう。放課後に佐伯凛の足留めを頼む。医務室に来ない可能性もあるからな。ルイはせいぜい私やリツに恩を売っておくことだ。そうしたら魔界に共に連れ帰ってやる。多少姿形は変わるかもしれないが…」


 物騒なことを口にしてジーンはルイの顔を見つめる。


「姿形が…変わる…?」


 ルイの不安そうな言葉にジーンは真面目な顔で告げる。


「リツにだって翼があるぞ?今は出していないだけだ」


「えっ!?そうなの?リツって飛べるの!?」


「…この翼ではまだ飛んだことはないけど…昔はよく飛んでたよ」


「白く輝く美しい翼だったな…取り戻したかったが…失ってしまった」


 不意にジーンの顔に過った哀しみの表情にルイは面食らう。それを見上げたリツは、悪魔の頭を優しく撫でた。


「ジーンのくれた翼も綺麗だよ。別に白くなくたっていいじゃない。それにルイだって昔は飛べたんじゃないの?」


「あ…」


 不意に失っていた感覚が蘇る。そうだ、何故忘れていたのか。自分だって浮かんだり飛んだり、もっと自由に空中を動き回っていたはずだった。


「…なるほど。連れ帰ったらルイにも羽が生えそうだな。何が生えるかはお楽しみだ」


 ジーンがニヤリと笑ってルイにそう告げた。

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